福山雅治が演じる“愛の体現者” 湯川学! 最新作『沈黙のパレード』&『ガリレオ』シリーズ過去作から読み解く

福山雅治が演じる“愛の体現者” 湯川学! 最新作『沈黙のパレード』&『ガリレオ』シリーズ過去作から読み解く
『沈黙のパレード』©2022 フジテレビジョン、アミューズ、文藝春秋、FNS27社
フジテレビ「月9」作品として2007年から放送された『ガリレオ』シリーズ。頭脳明晰な物理学者・湯川学が難事件を解決する本シリーズは、これまで『容疑者xの献身』(2008年)と『真夏の方程式』(2013年)として映画化されてきたが、9年ぶりとなる待望の第三作目『沈黙のパレード』が2022年9月16日(金)から全国公開される。 福山雅治の主演映画作品としては、クラシックギターの世界的演奏家を演じた『マチネの終りに』(2019年)以来3年ぶりとなる本作。ドラマシリーズでもおなじみのキャラクターである刑事・内海薫役の柴咲コウと再演するということで、湯川と内海の名バディ復活にも大きな注目が集まる。 そこで今回は、福山の代表的作品であり、俳優としての持ち味が輝く湯川学のカリスマ的な魅力について、映画シリーズを振り返りつつ、『沈黙のパレード』に通じる“愛のテーマ”を探りたい。

■福山雅治、唯一無二のスタア像

歌手が俳優を、または俳優が歌を歌う例はいくらでもある。しかし、そのどちらの分野でもここまでの成功を掴んだアーティストを福山雅治以外に挙げるのは簡単ではない。福山は歌手(ソングライター)として数多くのヒット曲を生み、俳優としても作品を問わず絶大な存在感を発揮してしまう。 福山の俳優としての過渡期を象徴し、エポックメイキングとも言える『ガリレオ』映画シリーズ最新作『沈黙のパレード』でも、そんな唯一無二のスタア像は健在だ。まず驚くのは、まるで演技のお手本になるような佇まいと存在感。切り替わるカットとカットの間合いを呼吸するように演技をしている。本作の主人公・湯川学(福山雅治)が、大学同期で因縁の事件を追う刑事・草薙俊平(北村一輝)と警察署の屋上で話す場面は特筆すべきだろう。捜査に対して大きな葛藤を抱え、その場に座り込む草薙に対して、湯川は空を見つめて涼やかな表情で屹立する(この佇まい!)。

画面上でのふたりのポジションが対照的に捉えられたフルサイズのツーショットから、湯川のワンショットにカットが切り替わる瞬間、間合いを読み、呼吸する湯川(=福山)が口を開く。彼の横顔を捉えたクロースアップは、福山の頭の中であらかじめ編集作業が完成されているかのような印象さえ与える。ショットのサイズ転換を完璧に把握する映画俳優の鑑と言うか、これこそ福山がスタアたる証である。

■湯川学のリアリティ

帝都大学教授で物理学者の湯川学。カリスマ的で、浮世離れした彼の雰囲気もまた、福山のスタア性を持ってすればこそ、リアリティが担保される。記念すべき『ガリレオ』映画シリーズ第一作にして、福山の映画初主演作『容疑者Xの献身』以来、久しぶりに凸凹バディを組むことになる内海薫(柴咲コウ)に呼び出された湯川が初登場する場面は、湯川の9年ぶりのカムバックに相応しい。

道端で子どもたちがシャボン玉を飛ばして遊んでいる側で、湯川は、参加するでもなくシャボン玉をつつくように何かを調べる。彼が何を調べているのか、本人の説明を聞いても、内海にも観客にもてんで理解できないが、湯川がどれだけ浮世離れした人物であるのかだけは歴然としている。それでも、何となく内海との再会を喜ぶように湯川が福山特有のエクボを頬に作る時、ああこの役は福山にしか演じられないのだと、はたと気づく。要するに、福山雅治フィルターを通すことで、湯川という浮世離れした気難しいキャラクターに、親しみ易さとリアリティが与えられるということだ。 「実に面白い」や「さっぱりわからない」など、ドラマシリーズからおなじみの湯川ワードが頻出する場面にしても、福山自身のフィルターを通しながら台詞が発せられているからこそ、思わず納得させられてしまうところがある。これはいわば、福山雅治というひとりの俳優の身体を借りて、湯川が巧みに弁舌を振るっているということになる。湯川がもっと話したいときには、福山が身体をそっと貸してやり、役柄と俳優とがお互いを信頼し、ひとつの身体をシェアしているような軽妙な共同作業が、この役にはある。

■シリーズを通じて描かれるテーマ性

常に冷静で、物事(現象)へ透徹した尺度を持つ湯川だが、そうした科学者としての才覚と同時に、科学では未だ定義し切れないものへの興味を持つところに、彼の特異な側面がある。それは、彼の自意識を超えた、説明が難しいもの。例えば、愛。愛は、シリーズを通じて常に作品の底に流れるテーマ性である。『容疑者Xの献身』冒頭場面で、湯川と内海が、非科学的なものの代表例として愛について言及し、押し問答を繰り広げた会話が象徴的だ。 同作では、帝都大学にやってきた草薙と内海が依頼する事件の捜査協力への興味の持ち方も非科学的だった。湯川は、容疑者が美人だから、話を聞く気になる。時に湯川には個人的興味が働く。友達などなんらかの心動かされる人間関係を大切にしようとする、律儀で折り目正しい社交性からくるものだが、彼は特に友情には厚い。 堤真一演じる大学の旧友と再会した湯川がある言葉を言い渋ったのは、彼らの固い友情を守るためだったし、涙ながらに説得を試みるひと幕もある。ひとりの女性への愛を貫いた一連の犯行の物語は、湯川にとっては、あまりに悲しい真理でもあった。エンドロールに響く福山作詞作曲、柴咲コウ17th(KOH+としては2nd)シングル「最愛」(2008年リリース)は、トラックタイトルが文字通り示す滋味深いものがあった。

■愛の体現者としてスクリーンに戻ってきた湯川

真理(論理的)と愛(非論理的)。これは湯川にも超えがたいジレンマのようなものだ。だが、この二項対立がある限り、湯川の興味の源泉が尽きることはない。二重の嘘が交錯する中、父が娘を守り続けるシリーズ第二作『真夏の方程式』では、過去の因縁から逃れようとする家族たちの紛れもない家族愛が滲んだ。湯川が家族の秘密を隠し通すために罪を犯した父に、事件の真相をとうとうと語るクライマックスでは、父が娘を想う愛の重みを感じ、自らの仮説の間違いを潔く認めた。 では、『沈黙のパレード』ではどうか? シリーズ前二作でそれぞれ描かれた友愛と家族愛とが、親友への友愛と親しい人たちへの慈しみという両義的な意味合いを持ちながら、より強固なテーマ性を突きつける。福山雅治の実年齢とともに湯川の人間味が丸みを帯びて味わい深くもなる。つまり本作では、先に指摘した『容疑者Xの献身』冒頭場面で愛に懐疑的だった湯川が、愛についての思索をここまで深め、紛れもない愛の体現者としてスクリーンに戻ってきたのだ。

文:加賀谷健 『沈黙のパレード』は2022年9月16日(金)より全国東宝系にて公開

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