「2024年に致死率56%」のパンデミックを描く『ソングバード』マイケル・ベイ製作の“ありえる”戦慄スリラー

「2024年に致死率56%」のパンデミックを描く『ソングバード』マイケル・ベイ製作の“ありえる”戦慄スリラー
『ソングバード』© 2020 INVISIBLE LARK HOLDCO, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2020年3月、人事部から通告。「明日から在宅で仕事をしてください。ていうか、会社に来ないでください」 諸外国の状況を見るに時間の問題だとは思っていたが、まさか自国でこんなことになるとは思っていなかった。 あれから2年以上が経過し、今、Covid-19は形を変えながら生活に溶け込んでいる。今のところ。一時期危ぶまれていた「最悪の事態」は避けられているようだ。 しかし『ソングバード』で描かれるのは、最悪の事態を迎えた世界。時は2024年、致死率56%を超える空気感染可能な新種のウイルス“Covid-23”が猛威を振るっていた。世界は免疫者(黄色のブレスレットで見分けられる)と非免疫者(屋内生活を強制される)で二分され、さらに非免疫者は毎朝の体温チェックに異常があると家族共々、感染者隔離地域“Qゾーン”に強制転出させられ、そこで死を迎える羽目になる。市街地は崩壊し、アフター・アポカリプスの形相だ。

■ロックダウン下で撮影・配信

ニコは荒れ果てた街を駆け回る配達人。多くない非感染者の一人だ。彼は安全地域“ビッグサー”への脱出のため、コツコツと貯金をする毎日。しかし、共にビッグサーを目指すガールフレンドのサラは非免疫者。常時ウィルスに曝されているニコと触れあうこともできない。毎晩ドア越しにしか会話できない2人の関係は、ウイルスによって隔たれたロミオとジュリエットのようだ。 ある日、サラの同居人が発熱。このままでは彼女はQゾーンへ隔離されてしまう。そこでニコは免疫者の証である黄色バンドの偽造を試みるのだが……。

ビッグサー(カリフォルニア州の観光地)が、なぜ安全なのか? ブレスレットの偽造が可能なら元も子もないのではないのか? Covid-19が空気感染するのなら、Qゾーンの意味もないのでは? 『ソングバード』のプロットは少し乱暴だ。 しかし、本作には“歴史的な意義”がある。LAがロックダウンされた2020年3月に脚本が書かれ、5月に企画が始動。7月に撮影され、12月にはデジタルリリース(当然、劇場公開はない)されているのだ。ロックダウン以降、ほとんど動きが取れず苦しんでいたハリウッドで唯一、スムーズに作られ、かつ新しいパンデミック映画のテンプレートを定義したのが『ソングバード』なのだ。

■デミ・ムーアやピーター・ストーメアら重鎮も出演

これまでパンデミック映画というと、ウィルスそのもの恐怖や凶暴化する感染者といったビジュアル面が全面に押し出されていた。だが『ソングバード』はパンデミック下で書かれた脚本なだけに、派手さはないが“ありえた”、あるいは“ありえる”話が描かれる。

免疫者と非免疫者間の確執はもちろん、非免疫者の中でも裕福層が金に物を言わせて性的搾取を行おうとしたり、生臭役人の汚職が描かれてたりと、パンデミックを利用した格差社会を徹底的にエゲつなく描写する。『パージ』(2013年)のような可能性のある興味深いストーリーテリングは、多少乱暴なプロットでも妙なリアリティがあるから不思議だ。

加えて、役者陣にも工夫が見られる。大金で免疫者ブレスレット偽造を企む金持ち夫婦にデミ・ムーア(説明不要だろう)とブラッドリー・ウィットフォード(『キャビン』[2011年]、『ゲット・アウト』[2017年]等ムカつく白人を演らせたらピカイチ)、ブラッドリーに弄ばれるYouTuberの歌い手にアレクサンドラ・ダダリオ(『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』[2013年])、汚職役人はハリウッド最強の汚職顔俳優ピーター・ストーメアである。

■製作はマイケル・ベイ! ホラー畑の新鋭監督を起用

未曾有のパンデミックの下、ここまでスムーズにかつハリウッタイズされた物語を作り上げたプロデューサーのマイケル・ベイと、インディペンデント監督アダム・メイソンの手腕には頭が下がる。

加えて、タイトルの『ソングバード』が様々な意味を持っているのも面白い。パンデミック下でも自由に飛び回るニコを示していることはもちろん、ダダリオ演じるYouTuberの歌い手のこと、反してピーターストーメアをはじめとする悪役を揶揄する“タレコミ屋”の意味、さらに翻って平和をもたらす象徴をも示唆している。英英辞書やスラング辞典を引くと載っているので、ぜひ調べてみて欲しい。

ちなみにアダム・メイソンは、『悪魔の椅子』(2006年)や『ネバダ・バイレンス』(2009年)といったホラー映画ばかり撮ってきた監督。もちろん本作にも“いい感じ”の流血シーンがある。実は『悪魔の椅子』の頃は、筆者とも交流があった監督さんだ。この機会に大きく羽ばたいてくれることを祈るばかりである。

文:氏家譲寿(ナマニク) 『ソングバード』は2022年10月7日(金)より全国公開

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