激キモ「クモ頭クリーチャー」誕生秘話!『遊星からの物体X』ボッティンの悪ノリにカーペンターが感動【4/5】

激キモ「クモ頭クリーチャー」誕生秘話!『遊星からの物体X』ボッティンの悪ノリにカーペンターが感動【4/5】
『遊星からの物体X』© 1982 Universal Studios. All Rights Reserved.

■キモすぎ変態クリーチャーの秀逸デザイン

今回も【3/5】から引き続き、ロブ・ボッティンが特殊効果を手がけた『遊星からの物体X』(1982年)に登場するエイリアン“シング”のメイキングを紹介。まずは作中イチのインパクトを誇る「ノリス・シング」だ。

■クリーチャー④-1:ノリス・シングA

地球物理学者のノリス(チャールズ・ハラハン)は、特殊効果担当のロブ・ボッティンが手がけたクリーチャー・エフェクトの中で最も見応えのあるキャラクターだ。全6種のシングの中で最も多い5段階の変態プロセスを披露してくれ、そのどれもがボッティンのクレイジーな才能が炸裂した姿になっている。 第1段階は、心肺停止状態になったノリスにコッパー医師(リチャード・ダイサート)がAEDを押し当てようとすると、胸が縦にばっくり開き、牙の生えた巨大な口になって、コッパーの両腕を喰いちぎる。まるで小学生が考えたようなチャイルディッシュかつ素晴らしいシーンだ。このアイデアは、ロブ・ボッティンが冗談半分で言ったところ、監督のジョン・カーペンターが猛烈に感動し、そのまま採用されたという。 この場面、診察台に横たわるノリスの胴体部分はアニマトロニクスのダミー。演じるハラハンは撮影中、診察台の下から肩~両腕を台の上に出す、という無茶な姿勢をキープしなければいけなかったので、撮影後1週間は背中の痛みがとれなかったという。 ダミーの胴体は油圧式で開閉する仕掛けになっており、アクリル製の鋭い牙がコッパー医師のダミーの両腕を本当に噛みちぎるようになっている。ここでボッティンは、規格外のアイデアを思いつく。
本当に両腕のない俳優にダミーの腕を装着して、腕が切断されるシーンを撮影しよう!(ロブ・ボッティン)
彼は、工事中の事故で両腕を失った男性を探して、そのアイデアを実行した。しかも、惨たらしい光景を引いた画でも見せたいボッティンは、コッパー医師の顔そっくりのマスクを制作して、両腕のない男性に被せた。切断されるダミーの腕には、蝋製の骨、ラバーやゼラチン製の血管を仕込んで本物の組織のようにし、千切れると、破れた血管から血が噴き出すように作った。

■クリーチャー④-2:ノリス・シングB

ノリス・シングの裂けた腹の中から、無数の長細い触手が激しく蠢き、緑色の体液を大量に噴き出す。次の瞬間、腹の中から何かが天井に向かって飛び出した。 天井からぶら下がったそれは、醜い肉塊から腸のような長い首が伸び、不規則に並ぶ牙をたくわえたノリスの顔がついた怪物だった。肉塊のようなボディから蜘蛛のような脚が6本、人間のものと思われる腕が2本、そして臓物がだらりと垂れ下がっている。 この第2形態は、ラジコンやワイヤーで操作するアニマトロニクスが制作された。醜く歪むノリスの頭部は、このシークエンスのためだけに表情パターンが違う6種類のダミーヘッドを用意。それぞれの頭部は、ラジコン操作で口や目が動く仕組みになっている。頭頂部は天井で繋がっており、天井裏にいるクルーが頭部に仕込まれた仕掛けを操作しながら撮影した。 牙を備えた第2形態ノリスの口は常人のものよりも大きい。ボッティンはマイク・プルーグとシングのデザイン案を作成している時、「クリーチャーの口はなるだけ大きくするように」と常に指示していて、そんなこだわりが反映されている。 本作の前日端を描いた『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(2011年)のクリーチャー・エフェクトは、特殊メイクとCGを組み合わせたことによって、当時は実現不可能だった滑らかな動きをしていた。それにも関わらずシングたちにパンチが効いていない、と感じさせてしまうものがあった。それは、ボッティンがこだわった“シングになった時の人間の面構え”かもしれない。『ファーストコンタクト』のシングは皆、変態する時に無表情だったのだ。 そして先にも書いたように、この第2形態の腸のような首は、ドッグ・シングのボディから現れるキャベツのような肉塊の首(茎?)にも使用された。

■クリーチャー④-3:ノリス・シングC

ノリス・シングの第2形態がマクレディの火炎放射器で火あぶりになっている最中、診察台に横たわっているノリスの首がめりめりと不快な音を立てながら伸びて、胴体から分離していく。 この変態パターンの撮影方法が決定するまで、ボッティンは何か月もかけてテストを繰り返した。変態中に表情を浮かべる頭部は、ここでもラジコン操作で表情が変わるダミーヘッドを6種類用意。頭部が胴体から分離していく仕掛けは、ダミーのボディ内部に仕込んだ棒でクルーが頭部を押し出す、というシンプルな方法を導入した。この場面でボッティンが最もこだわったのは、伸びる首のディティールだ。 「首が伸びきって皮膚が裂けていく時、内部の様子はグロテスクにしたい」と思ったボッティンは、裂けた皮膚の内部でびっしりと詰まった黄緑色の繊維が、伸びきっては千切れると黄色い泡状になるようにした。この繊維を作るため、溶かしたプラスチックとバブルガムを混ぜ合わせたものを材料にした。 撮影中、このエフェクトのテストを繰り返すうちにセット内はシンナーの臭いが充満したという。こんな場所に長くいたら体調を崩すスタッフが出る、次を本番にしよう! という時、カーペンターがこんなことを言い出した。
このカットは、天井からぶら下がったクリーチャーが燃えている時だから、画面の隅が燃えていないと変だよな?(ジョン・カーペンター)
確かに! というわけで急遽、日本では“火皿”と呼ばれる、火災シーン等で使用される無数の穴が空いているガス管が用意された。 いよいよ本番。スタッフがガス栓をひねり着火した、その瞬間。轟音と共にボッティンたちの視界はオレンジ色でいっぱいになった。プラスチックとバブルガムを融合させた材料のせいで引火性のガスが充満し、爆発したのだ。幸いすぐに消化でき怪我人は出なかったが、その場にいた全員の顔がコントのように真っ黒になっていたという。しかし、ボッティンたちが何ヵ月もかけて制作したノリス・シングは粉々に吹き飛んでしまった……。その後、彼らは丸1日かけて準備しなおし再撮影したという。

■クリーチャー④-4:ノリス・シング スパイダーヘッド

診察台から垂れ下がったノリス・シングの頭部は床に着地する。そして口から吐き出した長い触手をテーブルの脚に巻きつけ、ずるずると移動。ここは、テーブルの下に隠れたクルーたちがワイヤーや釣り糸で触手や頭部を操作した映像を逆再生した。 その後、ノリス・シングは頭部から蜘蛛のような脚と目玉のついた触手を生やした、ファンの間で“スパイダーヘッド”と呼ばれる形態となる。 このあまりに常軌を逸し、どこかユーモアを感じさせるデザインは、1950年にアメリカの子どもたちをドキドキさせ、大人たちからは有害図書と忌み嫌われた「Tales from the Crypt」「The Vault of Horror」などのホラー・コミックに登場したモンスターの影響を最も受けている。 ノリス・シングの頭部から6本の脚と2本の触手が生えるカットは、頭部の床下に仕込んだ脚と触手を押し出して撮影。カタカタと歩くスパイダーヘッドは頭部の下に脚の動きと連動する車輪が仕込まれ、ラジコン操作で動かすようにしている。 ちなみに、カーペンターがはじめてボッティン考案のクリーチャーの完成形を見たのが、このスパイダーヘッドだった。ボッティンのアイデアに賛同しながらも、本当にリアルに撮影できるのか……と不安だった彼は、実際のスパイダーヘッドのクオリティを見て心底安心したという。

■クリーチャー⑤:パーマー・シング

5体目のクリーチャーは劇中、トップクラスにスリリングな場面である血液検査のシーンに登場。三度の飯よりも大麻が大好きな機械技師のパーマー(デヴィッド・クレノン)が血液検査によって、シング化していることが判明し変態する。 ここは最初に撮影した変態パターンに満足できず、再撮影している。もともとは無表情のパーマーの頭部が縦に割れて触手が飛び出す、というシーンだった。しかし、ボッティンが真心を込めて醜い変態シーンをクリエイトしたノリス・シングの後に登場するシングとしては淡白すぎるのでは……? という判断で、新たなクリーチャー・エフェクトを創り出すことに。結果的にボッティンは、パーマーの頭部が割れる前に、本作の中で最もスプラッター度が高い変態プロセスを加えた。 パーマーはぷるぷると震えだすと、目玉や頭部のあちこちがぶくぶくと膨張しながら溶けだす。最終的に顔面がどろどろに溶けて、崩れかかった骸骨がむき出しになり、まるで『スクリーム』シリーズ(1996年ほか)の殺人鬼ゴーストフェイスのマスクのような面構えになる。この変態シーンは、内部に風船を仕込んだ3段階のダミーヘッドを使用。この時、両腕も醜い姿に変形しており、先に書いたようにベニングス・シングの両腕に流用された。 第1形態が仕上がったパーマー・シングは、当初は天井や壁を縦横無尽に動き回らせるつもりだった。しかし予算が掛かりすぎるので断念。その代わり、マットレスの上にバルサ材で作られた天井を床に設置し、そこにスタントマンが落下する様子を上下逆に撮影することで、天井に張りつくカットを完成させた。本作のシングたちは天井に行きがちだ。 天井から飛び降りたパーマー・シングの頭部が縦にぱっくり割れると、大きな牙を生やした口になっている。その姿は、没バージョンよりもグロい。割れた頭部から伸びた触手がウィンドウズ(トーマス・G・ウェイツ)の首に巻きつき、そのまま引き寄せられた彼は巨大な口の餌食になってしまう。 その後、マクレディの火炎放射器によって全身火だるまとなったパーマー・シングは、壁を突き破って屋外に逃走。『遊星よりの物体X』(1951年)でも、全身火だるまになった植物宇宙人が窓ガラスをぶち破って屋外へと逃亡するシーンがあり、ここはそのオマージュとなっている。ちなみに同作は、映画史上はじめて全身火だるまスタントを行った作品でもある。 また、パーマー・シングの火だるまシーンを注意深く見ると、割れた頭部と両腕は変形しておらず、没バージョンの時に撮影したものであることがわかる。 文:ギンティ小林 「チェンソーマン」にも影響大!? 腐敗ゼラチンまみれで撮影『遊星からの物体X』が後世のSF/ホラーに与えたインパクト【5/5】に続く 『遊星からの物体X』はBlu-ray/DVD発売中、U-NEXTほか配信中

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