天才プログラマーの不当逮捕と早すぎた最期 実録映画『Winny』が描く事件の背景と国家権力の稚拙な本音
2023年03月09日 07時00分BANGER!!!

■「Winny」開発者の逮捕、そして突然の死
2002年、金子勇氏が開発したファイル共有ソフト「Winny」の試用版が匿名掲示板に公開される。このソフトは本人同士が直接データのやりとりができる革新的なシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていった。同時に映画やゲーム、音楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする者が続出したことで社会問題へと発展していく。■よく分からんけど、危ないらしいから捕まえろ
Winny事件の少し前、海外では同じくP2P技術を用いたファイル共有ソフトNapsterが大問題となり、レコード会社との間で訴訟に発展していた。インターネットをちょっとかじった程度のライトユーザーにとっては関わりのない出来事だったが、映画や音楽データの違法アップ/ダウンロードの件は誰もが耳にしていたはずだ。 「技術自体に罪はなく、それを使う個々人の問題」という大前提は、映画『Winny』でもたびたび強調される。Winny経由のウイルス感染による機密情報漏洩が問題視されていた2008年、政府は「パソコンでWinnyを使わないように」と呼びかけていたが、金子氏の逮捕で開発が止まったことにより悪質なウイルスが蔓延した……という事実を知る今になって思い返すと、政府関係者の「よく分からんけど危ないらしい」という稚拙な本音も透けて見えてくる。■本人の遺品を身に着け体格改造……東出が渾身の役作り
公開前に公開されていた場面写真などを見ても、いまいち“主演・東出昌大”というイメージが沸かなかった人もいるのではないだろうか。その印象は映画本編を観ても、それほど変わらないかもしれない。遺族から提供されたという金子氏の遺品を身に着け、体重を18キロ増量するなど「憑依」と称された東出の役作りは、それほどまでに本人に肉薄しているからだ。 この役作りには、なにより金子勇という人物の実際の人柄を伝えたいという製作側の想いも込められているはずで、いわゆる“オタク”のイメージとは程遠い、あっけらかんとした性格描写は周囲を惹きつける人だったのだろうと推測させる。パソコンに向かってスナック菓子を貪る様子やクライマックスの最終陳述シーンなどは、生前の金子氏の姿と見紛うほどだ。
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