考察『シン・仮面ライダー』 庵野“成分”は過去イチ? クモオーグら怪人たちの「なぜ」にファン驚喜

考察『シン・仮面ライダー』 庵野“成分”は過去イチ? クモオーグら怪人たちの「なぜ」にファン驚喜
新宿バルト9:編集部撮影

■庵野“成分”は過去イチ?

『シン・仮面ライダー』は、庵野秀明氏が仕掛ける「シン」シリーズ最新作です。2016年の『シン・ゴジラ』から始まり、2022年の『シン・ウルトラマン』を経ての本作。往年の特撮物を庵野さん流にリメイクし、“シン”とつけて展開しているわけですね。 正確に言えば2021年の『シン・エヴァンゲリオン』もありますが、これはアニメ作品だし、そもそも『エヴァ』は庵野さん原作なので他の作品とはちょっと違います。 また『シン・ゴジラ』は庵野さんは総監督という立場(樋口真嗣さんと共同監督兼製作総指揮みたいなものです)、『シン・ウルトラマン』は脚本であり、監督は樋口真嗣さん。しかし本作は樋口真嗣さんはタッチせず、庵野さんが監督も務めています。 したがって「シン」3作の中で、一番“庵野さんの思い”が反映されているのかもしれません。

■TV版『仮面ライダー』のテイストやお約束が心に刺さる

結論から言うと、僕にとっては本当に心震える傑作でした。映画としての完成度は『シン・ゴジラ』、ワクワクさせてくれたのは『シン・ウルトラマン』ですが、どっぷりハマるという意味では『シン・仮面ライダー』です。 『シン・ウルトラマン』がTVドラマの『ウルトラマン』の第1話から最終回までの要素を2時間の映画としてまとめたように、今回の『シン・仮面ライダー』はTVドラマ『仮面ライダー』の第1話から第53話(と、あえて言います)までを再構築しています。 本作は「庵野さんなりの仮面ライダーを作った」というよりも「庵野さんが好きだった、あのTV版『仮面ライダー』を、庵野さん自身が再現した」という方が正しいかもしれません。僕自身がTV版にリアルタイムで熱中していたので、あの時の楽しさやテイスト、そしてお約束ごとがちゃんと活かされている。だからすごく心に刺さった。 少しマニアックな例え方をすると、クリストファー・ノーランがバットマンというキャラを使って『ダークナイト』という傑作を作り上げた。これが庵野さんと『シン・ゴジラ』の関係にあてはまります。 それに対し今回の『シン・仮面ライダー』は、どちらかというと60年代のTV版『バットマン』(俗に言うアダム・ウェスト版)を現代に蘇らせようとした――に近いアプローチではないかと思います。

■あの「石森×東映ヒーロー」のサプライズ登場も

したがってショッカーの怪人も戦闘員も妙に今風にせず、着ぐるみ感や簡易な変装感を残しています。ストーリー的に悪の基地にもあっさりと仮面ライダーが潜入します。さらに戦闘シーンに、街全体や多くの市民がまきこまれる的な大スペクタクルはほとんどないスケール感(←悪い意味ではなく)。こういう当時のTV版テイストは残してあるんですね。その上でかっこいいところは十分かっこいいし、また当時のTVでは表現できなかった過激描写や、もっともらしい設定をうまく盛り込んでいるのです。 もちろん石森章太郎(僕にとっては石ノ森先生というより石森先生です)さんの原作版を踏襲した設定部分もあるのですが、 ・なぜハチオーグ(蜂女)が刀を使うのか ・なぜ1号ライダーが足を負傷した時に、2号ライダーが立ち上がるのか ・なぜ1号と2号の“変身”は違うのか ・なぜ最初の敵はクモオーグなのか ・最後に明かされる“あの2人”は、なぜ“あの苗字”でなければならないのか ・アンチショッカー同盟とは ・13人のショッカーライダー 等々はTV版を見ていた人なら「わ、こう来ますか!」と心の中で叫ぶでしょう。 さらに石森×東映の別のヒーローをこういう形で出すというのもサプライズでした。と言いつつ、結局、悪の軍団ショッカーの考えていることは『エヴァンゲリオン』で言う“人類補完計画”的なことだったり、本作のヒロイン・緑川ルリ子は実写版“綾波レイ”(浜辺美波さんがハマり役!)で、こういうところが庵野さんらしさかもしれません。

■※本作の冒頭、 幕前/第1幕 クモオーグ編が3月28日(火)23:56〜毎日放送にてノーカット放送されることが決定。TVer・MBS動画イズムでも放送直後より4/16(日)まで配信。

■TV版ライダーの“アメコミ”な都市伝説とは?

繰り返しになりますが、TV版『仮面ライダー』が好きで、Wライダー(仮面ライダー1号、2号が揃う)の衝撃に胸躍らせた自分としては、“あの時の仮面ライダー体験”をこういう形で蘇らせてくれたことに最大級の感謝を贈りたいです。西野七瀬さんのハチオーグのファンになりました。 その一方で、昔の仮面ライダーを知らない人がどこまでついてこれるか? が若干気になりました。『シン・ゴジラ』はゴジラ初心者でもOKな作品でしたから。 僕は『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)を観終わった時と同じような気持ちになりました。あの作品には大変満足しましたが「でもこれ、ある程度DCの知識が必要だよね」という余計な心配をしてしまったのも事実です。 とは言うものの、基本はヒーローVSヴィランのエンタメ活劇。本作はのっけからアクション・シーンで始まり、『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』にあった政治劇的要素はほとんどなく、テンポ良く怪人退治の話が続いていくので十分楽しめるのではないでしょうか? なお、僕らの世代が信じている特撮作品の都市伝説の一つに「TV版『仮面ライダー』で第1話がクモ男、第2話がコウモリ男である理由は、スパイダーマン、バットマンに負けない日本のヒーローを作ろう、という意気込みからだったから」というものがあります(笑)。世界的にアメコミ・ヒーロー映画がブームの中、こういう形でライダーが復活するのも嬉しい。 というわけで『シン・仮面ライダー』、僕は大好きな作品ですが、実はこの作品を個人的に“推す”理由がもう一つあります。 僕は本作にエキストラ出演しているんですね(笑)。 多分絶対わからないし、また自分でも「あそこに映っているの自分かな」と思うシーンもあるのですが、編集の段階でカットされたかもしれません。どのシーンかを書くとネタバレになるので控えますが、庵野監督や主演の池松壮亮さん、浜辺美波さんの前で演技はしました。もう一度、自分のシーンを探しに観に行こう。 文:杉山すぴ豊 『シン・仮面ライダー』は全国公開中

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