衝撃の実話! 株で100%儲けるには?ハイテク株取引をアナログ音楽で彩る『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』

衝撃の実話! 株で100%儲けるには?ハイテク株取引をアナログ音楽で彩る『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』
『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』©2018 Earthlings Productions Inc./Belga Productions

ジェシー・アイゼンバーグとスカルスガルド家の長男が高頻度株取引の世界で一攫千金を目指す!!

ハミングバード・プロジェクト ― 愛らしい言葉の響きから、合唱団やアイドルグループの結成秘話のような内容を想像してしまうが、「0.001秒の男たち」という副題がただならぬ雰囲気を醸し出している。映画『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』は、株取引の世界で「ハチドリが1回羽ばたきするのに要する時間=0.001秒」の短縮に命を懸ける行動派トレーダーのヴィンセント(ジェシー・アイゼンバーグ)と、天才プログラマーの従兄弟アントン(アレクサンダー・スカルスガルド)の型破りな挑戦を描いた異色作である。

コンピュータに超高速かつ大量に株の売買を実行させ、ミリ秒(1000分の1秒)の差が巨額の損益に繋がる高頻度取引。時間短縮のためにヴィンセントが思いついたのは、カンザス州にあるデータセンターとニューヨーク証券取引所のサーバーまで1,600kmの直線距離に光ファイバーケーブルを敷いて、現在17ミリ秒かかるアクセス時間を16ミリ秒にするという奇抜なアイデアだった。これが成功すれば、年間5億ドル以上の収益が見込めるはず――。

こうして高頻度取引やミリ秒短縮のためのアルゴリズム作成など、ヴィンセントとアントンの奮闘を通して、株取引のデジタルな仕組みが詳細に描かれていくのかと思いきや、物語は予想と異なる展開に。山を越え、川を渡り、国立公園の岩脈も突っ切って、ひたすら“まっすぐ”掘り進む掘削工事のプロセスや、ヴィンセントの地道かつ強引な土地買収交渉、プロジェクト出資者の説得、元上司の執拗な妨害、病魔との闘い、そして家族愛など、デジタルとは対照的とも言えるアナログなドラマが描かれているのが何ともユニークだ。

ストーリーが異色ならば、キャストも超個性的。ジェシー・アイゼンバーグは『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)の時のように早口で喋りまくり、今回も周囲の人々を騒動に巻き込んでいく。アレクサンダー・スカルスガルドは『ターザン:REBORN』(2016年)の精悍な姿とはかけ離れた衝撃的な風貌で登場。ビースティ・ボーイズの「Do It」に合わせて、真顔でノリノリになるシーンで笑いを誘う。二人の元上司エヴァに扮するサルマ・ハエックの「アンタたちの計画、絶対ツブす!」と息巻く怪演も、恐ろしい一方でどこかマンガ的でもある。

ハイテク株取引の世界をアナログな音楽で彩った作曲家イヴ・グルメール

このようにヒューマンドラマとスリラー、コメディの要素が複雑に絡み合い、観る者を不思議な感覚にさせる本作だが、ベルギー出身の作曲家イヴ・グルメールによる劇中音楽が、多面的な物語のひとつの解釈を我々に示してくれている。

筆者はサウンドトラックアルバムのライナーノーツでグルメールにインタビューを行っており、彼が本作の音楽の方向性を簡潔に説明してくれたコメントがあるので、その部分を引用させて頂く。

「僕はハイテクについての物語とは対照的に、シンセサイザーを使わず生楽器だけのスコアで行くことにした。この映画は人生やその過ごし方、人間関係、僕たちが生きているスピード社会についての物語でもあるからね。(中略)僕はヴィンセントとアントンの真実に迫るような音楽を作りたいと思った」

本作のようなハイテクを題材にした物語であれば、デジタルな雰囲気を出すためにシンセサイザーを多用した音楽を思いついたとしても、それは自然な発想と言えるだろう。しかし、グルメールはこの映画の人間ドラマの部分に焦点を当て、あえて生楽器主体のアコースティックなスコアを作り上げたのだった。

そして独特なリズム感を生むストリングスの反復フレーズやピッツィカート(弦を指ではじく奏法)、ピアノ/弦楽器による哀愁のメロディ、サックスや木管楽器の即興演奏的なフレーズ、ダブルベースの太い音など、ほぼ全ての生楽器の音色や特殊奏法に何らかのメッセージが込められており、聴けば聴くほど音の意味するものが見えてくるという奥の深いサウンドに仕上がっている。

アルバムを聴いただけでも「何だか変わった音を鳴らしているな」と十分楽しめるのだが、映画本編を観て音楽と映像が一体になった時、「この音にはそういう意味があったのか!」と新たな発見があるのではないだろうか。サウンドトラックアルバムの差し込み解説書に載っているグルメールの詳細なコメントをご覧頂いて、「我々は何のために必死に生きるのか?」と人生の過ごし方を問いかける本作のドラマを、より深く味わって頂きたいと思う。

文:森本康治

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』は2019年9月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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