アチョー!『燃えよドラゴン』にどハマりした中学生の玉ちゃんが、ブルース・リー信者 太田くんと行ったブルース命日イベント

アチョー!『燃えよドラゴン』にどハマりした中学生の玉ちゃんが、ブルース・リー信者 太田くんと行ったブルース命日イベント
『燃えよドラゴン』© 2019 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.

【玉袋筋太郎のゴールデンは〜ベスト】

なにも今さら『燃えよドラゴン』(1973年)じゃないでしょ。しかし連載名を「ゴールデンは〜ベスト」と銘打っている以上は、『片腕ドラゴン』(1972年)も捨てがたいけど『燃えよドラゴン』しかないね。

では編集部の今さらながらの『燃えよドラゴン』の紹介を!

武術の達人リーは、香港裏社会の支配者ハンの主催する武術トーナメントへの出場を秘密情報局から打診される。一度は断ったリーだったが、ハンの手下によって姉が自害に追いやられたことを知り、かつての同門ハンに復讐するべく単身トーナメントに参加する……。

伝説のアクション・スター、ブルース・リーの代表作にして歴史に残る名作。

『燃えよドラゴン』は捨てる部分が一切ない、まるでクジラみたいな映画だ!

『燃えよドラゴン』ってのは、この作品の衝撃に打ち負かされた映画人・有名人・文化人・格闘家・タレントに語りつくされてるんだよな。つまり『燃えよドラゴン』という映画は全く捨てる部分がなく、総ての部位が使えるクジラみたいなもんなんだ。

ブルース・リーという存在は没後45年以上経っても、直近じゃタランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)に登場して論争になったりするんだから、いまだにブルース・リーの存在も捨てる部分がないクジラなんだよ。

あの「モハメド・アリを倒せる」発言。もし<モハメド・アリvsブルース・リー>が実現していたら……。

アリ陣営はリーのキック攻撃に対し難癖をつけて、「頭突き」「肘うち」「関節技」「スタンドでの蹴り」は禁止というルールを強硬にリー側に求める。リー陣営はウエイトの差を訴えてアリ陣営の要求を拒否するが、アリ陣営も譲らず、泣く泣く要求を飲んだブルース・リーのおかげで試合は実現。試合ではリーはグランドに寝転んでアリの足を蹴りまくり、スタンドでの試合は派手さを欠く展開となり、両者の激しい殴り合い蹴り合いを期待していたファンはガックシ。しかし、数年経って「真剣勝負だったからあの展開になったのだ」と評価は一変し、ひと足早い<モハメド・アリvsアントニオ猪木>の格闘技世界一決定戦になっていただろう。なんて妄想しちゃうのもブルース・リーの魅力だね!

そりゃ男の子たるもの『燃えよドラゴン』を観た日から人生が変わるわけだ。常に「アチャー! アチョー!」と言語が怪鳥音となり、年がら年中ザ・ドリフターズの“すわんじ”(すわ親治)状態なわけ。ヌンチャク振り回して、ヌンチャク買えない奴は自作ヌンチャクまで作る始末。もうブルース・リー一辺倒だわな。

しかし、本人はもうこの世にいないんだから、過去の作品が公開されても新しい作品が公開されることはない。こうなると次第にブルース・リー枯渇状態になってくる。そんな飢餓状態の我々の前に登場したのが『ブルース・リー/死亡遊戯』(1978年)だ。たしかに本人は最後に出てくるものの継ぎ接ぎ映画で、オープニングのタイトルバックと、サモ・ハン・キンポーとボブ・ウォールの壮絶素手ファイトシーンと、ラストのファイトシーンとエンディング「Will This Be the Song I’ll Be Singing Tomorrow」のシーン以外、ピンとこなかった。もちろんリー本人のファイトシーンだけで大満足なんだけども。

空前のジャッキー・チェン旋風に抗うブルース・リー信者、太田くん登場!

「もうこれでブルース・リーもお終いだろう」と次第に熱が冷めだした頃に登場したのが、ジャッキー・チェンだ。ここで一気にオレは宗旨替えしてジャッキー・チェン一辺倒になった。中学生の頃、毎週日曜日は『ドランク・モンキー/酔拳』(1978年)『スネーキーモンキー/蛇拳』(1976年)『クレージーモンキー/笑拳』(1978年)『少林寺木人拳』(1977年)『ヤング・マスター/師弟出馬』(1980年)『バトルクリーク・ブロー』(1980年)を求めて、ジャッキー信者となった仲間たちと都内の名画座を巡った。

そんなジャッキー信者となったオレたちを、たったひとり冷めた目で観ている一人の男がいた。同じクラスの太田くんである。冷めている理由は一つ、彼は熱心なブルース・リー信者なのである。吹き荒れるジャッキー旋風に対して、ひとりブルース・リーを心に、逆風に対し屹立しているのだ。

当時は不良全盛で、リーゼントにしたりパーマかけたり角刈りで頭にソリを入れたりして、学ランも長ラン、ズボンはボンタンが学校の殆どを占めていたのだが、その中で太田くんは、そんなものに染まりもせず、ひとり髪型も所作もブルース・リーそのもので学校生活を送っていた。彼の学ラン姿は、マオカラーのチャイナジャケットに見えたほどである。

「おい、太田! そりゃブルース・リーも好きだけどさぁ、やっぱジャッキーのほうが面白いじゃん」……すると太田くんは、表情ひとつ変えず「あれはふざけているだけで武道じゃない」とキッパリ! 続けて「もし、チェンとリーが闘ったら勝負は見えてる」と追い打ちをかけてくる。「そりゃ、やってみないとわからないだろ!」すると人差し指一本を顔の前でフリフリしながら「いや、『燃えよドラゴン』でもう既に勝負はついている」と。あの頃もちろんインターネットもなく、まだジャッキーやブルース・リーの関係を記事にしている特集本などが少なかったため、太田くんが何を言ってるかチンプンカンプンだったが、後々に知った情報によると『燃えよドラゴン』のハンの要塞島の地下でリーはジャッキーをやっつけているので、太田くんの発言はその事を指していたのだ。

とにかく太田くんのブルース・リー熱は激しく、いま思い返してみると学校のプールの授業の時間にも、それは垣間見えていた。普通は学校指定のネーム入りのダサい海パンを履いているのだが、太田くんだけはひとりだけ黒のビキニパンツで授業を受けていた。あの黒いビキニパンツは『燃えよドラゴン』でサモ・ハン・キンポーとオープンフィンガーグローブで見せた、バーリトゥードマッチの姿を真似ていたのだろう。

ブルース・リー信者の理想の部屋! 太田くんの凄まじいコレクションに脱帽

そんな太田くんとはことあるごとにブルース・リーとジャッキー・チェンの話で言い合いになっていのだが、ある日突然、太田くんから「今度オレの家に遊びにこないか?」とお誘いを受けた。「敵対しているオレを自宅に招くなんて、これはなにか企みがあるに違いない」と勘ぐったが、一つの挑戦状だと思い受諾して太田くんの家を訪ねた。

太田くんの家はお父さんが歯医者で自宅で歯科医院を営んでおり、それは立派な邸宅だった。要は太田くんは金持ちの坊っちゃんなのである。ピンポンを押すと、なんと太田くんが黒いカンフー着姿で出てきてオレを迎えてくれ、彼の部屋に通されてびっくりした。広い部屋の壁には様々なブルース・リーのポスターが貼られ、サイドボードの上にはヌンチャク、三節棍、サイ、トンファーが飾られており、ハンガーに吊るされたカンフー着や死亡遊戯のトラックスーツ。本棚にはブルース・リー関連の書籍、そして豪華なステレオセットの脇にはブルース・リーのサントラのLPレコードのジャケットが綺麗にディスプレイされていたのだ。

なによりオレを仰天させたのが、大きなブラウン管テレビのラックの下には当時まだ普及前だったビデオデッキがあり、部屋の端には黒いサンドバッグがぶら下がっていたことだ。太田くんの部屋はブルース・リー信者の理想の部屋だった。口にはしなかったが、完全にオレの負けだ。

すっかり太田くんの軍門に降ったオレは、彼が繰り出してくるブルース・リーコレクションに、ただただひれ伏すのみだった。当時、映画雑誌に広告が載っていた「西本商事」なる、カンフー映画のビデオやら海外のカンフー雑誌を扱っていた通販があったのだが、太田くんはその西本商事で発売されている当時2万円以上していた輸入カンフー映画のビデオやら雑誌を、ほぼコンプリートしていたのだ。中学2年生で、当時でもウン十万円相当のコレクションである。その中には日本未公開のジャッキーのビデオも入っていたんだから、やっぱり太田くんには敵わない。

「赤江(オレの本名)、面白いのはさ、ここで通販買うとカタログが送られてくるようになるんだけどさ」と言いながら、そのカタログが入った茶封筒をニヤリと笑ってオレに差し出した。茶封筒の中からカタログを引っ張り出すと、それはフルカラー印刷の洋物ポルノビデオ作品のカタログだったのだ!

「太田! これスゴいじゃん! まさかこのビデオも……」

「買わないよ、こっちは父さんだよ」

負けだ! エロでも負けた。オレのオヤジがこっそり隠していたのは汚い印刷で「ゼンブ、カラー」と書かれた、海外で買ってきたであろう洋物ノーカット本だった。ノーカットだからインパクトはあるが動画ではない。エロの部分でも太田くんに完敗したのだ。しかもオレだけでなくオレのオヤジも……。

それから太田くんとはブルース・リーとジャッキー・チェンの言い合いはなくなり、仲良くなった。「今度、ブルース・リーの命日にイベントがあるんだけど一緒に行かないか?」。 聞けばブルース・リーの命日に、東京は九段会館で行われる追悼イベントのお誘いだった。当日は映画の上映、ゲストのトークショー、そしてアトラクションがあるという。「そりゃ行くよ!」と答え、当日を迎えた。

「そっくリーさん大会」の優勝者はブルース・リーそのものだった!

ブルース・リー信者の集会だから、みんなブルース・リーの髪型やらコスプレをした信者が集まった。上映された映画はテレビドラマ「グリーン・ホーネット」をくっつけた、ブルース・リーがカトー役で活躍する『ブルース・リー/電光石火』(1966年)。トークショーは「ひらけ!ポンキッキ」で歌われた「カンフーレディー」で女の子と一緒にカンフーを披露していた中国武術研究家の松田隆智先生による「ブルース・リーは本物の中国武術家だった」トーク。う〜ん、マニアックだなぁ〜。そして最後はアトラクションコーナーだ。なにせブルース・リーの命日のイベントである。そこで行われたアトラクションとは……。

ブルース・リーのモノマネ大会、その名も「そっくリーさん大会」だ! 太田くんも出ればいいのにと思って「なんで出ないの?」と聞くと「笑いは嫌だ」とピシャリ。トラックスーツを着た高校生によるモノマネや、ヌンチャク振り回すお兄ちゃん、そして『ドラゴンへの道 最後のブルース・リー』(1972年)のチャック・ノリスと闘うブルース・リーをひとりで完コピした男性に、「彼が優勝だな」と会場のオーディエンスの意見は一致していた。太田くんも「うん、いいな」と満足げ。

これは多分仕込みだったのかもしれないが、司会が「ここで、誰か飛び入りする方いませんか?」とアナウンス。太田くんも絶対にブルース・リーのムーブは完璧にできるはずだから、内心はムズムスしているはずだが動かない。すると、客席から「オレがやる!」と一人の男が手を上げた。

もはや優勝は“ひとり『ドラゴンへの道』”だと思っていた観客は騒然として、手を上げた男に注目! 男は後方の席から舞台へ向って歩き出す。黒いTシャツに黒いジーパンの男は、格好だけのそっくリーさんではない「オレがブルース・リーだ」という自負を持って歩いている。歩きのムーブもブルース・リーだった。彼がステージに上ると会場がざわめいた! オレも思わず「うぁっ! なぁ太田、ありゃブルース・リーだぜ!」と声を上げた。

飛び入りしてステージに上った男、なんと髪型から顔まで本当にブルース・リーなのだ! 上半身裸になると、鋼のような筋肉美。そしてケツポッケに入っていたヌンチャクを引っ張り出すと、猛烈なヌンチャクさばきを披露。そしてもう一つのヌンチャクを出し、ダブルヌンチャクさばきを披露! 客席は言葉を失った。太田くんは黙って彼の演舞を見ている。まさかの命日に本物のブルース・リーが飛び入りして、「そっくリーさん大会」に参加しているのだ。

彼の演舞が終わると、司会が優勝者を発表! なんと飛び入りブルース・リー男が逆転優勝となった。客席はヤンヤの喝采! かと思われた。なにせ飛び入り参加して優勝したのが完璧なる「そっくリーさん」なのだから! しかし、会場は確かにブルース・リー男の華麗なるヌンチャクさばきに言葉を失ったが、なにか納得がいかない部分があったのだ。もちろん太田くんも納得がいかない様子だった。「なぁ太田、すごかったね? あの男! だって見た目が完全にブルース・リーだぜ!」― すると太田くんは「あれは整形だ!」と一言。会場の全員が全員、あのブルース・リー男の顔面整形手術は分かっている。納得いかない理由は分かる。「そりゃみんな分かってるよ! でも凄かったじゃない。完璧なブルース・リーの顔に整形してまで優勝してるんだからよぅ」……しかし、お客も太田くんも納得いかない、整形手術だけでない点がひとつだけあった。

「ブルース・リーはあんなに小さくない!」

そう、飛び入り参加で優勝をかっさらったブルース・リー男に対して、会場全員が一つだけ納得がいかない点を太田くんは喝破した。飛び入りで参加して優勝を飾ったブルース・リー男は、顔・筋肉・演武は完璧だったが、身長はわずか150センチほどしかなかったのだ!

顔も演武も完璧だったが、整形に整形を重ね150センチの身体でそれだけアンバランスなものを纏って生きて、この大会に参加してきた男。そんな“寸足らずのブルース・リー”の衝撃から30年近く経ったが、これもまたブルース・リーに捨てる部分がない由来なのである。ちなみに「そっくリーさん大会」の帰りの東西線の中で、太田くんは「オレは<そっくリーさん大会>には出場しなかったけども、ブルース・リーと身長と体重は一緒なんだよ」。なんと、太田くんは身長体重までブルース・リーに合わせていたのだ! 太田くんの「そっくリーさん大会」逆転優勝が決まった瞬間だった。

って、『燃えよドラゴン』の話はどこいったんだよ! まぁ考えないで、感じて読むのも必要だってことで許して頂戴!

文:玉袋筋太郎

『燃えよドラゴン』ほかカンフー映画11作品をCS映画専門チャンネル ムービープラスにて2019年11月放送

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