かわいいおじさん大集合! 64歳のウィレム・デフォーが30代のゴッホを演じる『永遠の門 ゴッホの見た未来』

かわいいおじさん大集合! 64歳のウィレム・デフォーが30代のゴッホを演じる『永遠の門 ゴッホの見た未来』
『永遠の門 ゴッホの見た未来』© Walk Home Productions LLC 2018

画家としても大成したシュナーベル監督がゴッホの生涯最後の数年間を描く

『永遠の門 ゴッホの見た未来』は、19世紀の半ばにオランダで生まれ、37歳で亡くなったフィンセント・ファン・ゴッホの生涯最後の3年弱を描いた作品である。監督は、ファインアートの世界で画家としても大きな成功を収めてきたジュリアン・シュナーベル。ヨーロッパ映画界でルイス・ブニュエル(『忘れられた人々』[1950年])やフォルカー・シュレンドルフ(『ブリキの太鼓』[1979年])らと組んで数々の名作を手掛けてきた大御所ジャン=クロード・カリエールが、共同脚本に名を連ねている。

牧師の家に生まれたゴッホは、画商に就職してロンドンやパリでの勤務を経験するが、解雇され、聖職者を志す。しかし挫折して、芸術こそ自分の進むべき道と悟った。そうして弟テオの援助を受けながら絵を描き続けたものの、なかなか認められずに生活は困窮を極めた。

本作は、そうしたゴッホの生涯の大部分を潔くカット。映画は画家として身を立てようとしながらパリの画壇に馴染めないゴッホが、ポール・ゴーギャンとの出会いをきっかけにアルルに引っ越すところからはじまる。彼は南仏の美しい自然のなかで独自の芸術表現を深めるのだが、しばしば心神喪失を起こすようになり、追い詰められてゆくのだった。

30代のゴッホを演じるのは64歳のウィレム・デフォー! あの痛ましい事件も描写

主演のウィレム・デフォーは現在64歳。弟のテオを演じるルパート・フレンドとは親子ほど年が離れている。30代後半でその生涯を閉じたゴッホを演じるのは年齢的に厳しそうなものだが、生活苦に憔悴し、俗世のリズムから外れて生きる芸術家としてはありなのかもしれない。

画板をしょって草原を駆けるゴッホ、名画を前に芸術論をぶつゴッホ、弟やゴーギャンに行かないでくれとすがるゴッホ……ひとりの男の動きと表情にフォーカスした結果、まるでウィレム・デフォーのアイドル映画のような印象に。精神に不調をきたしたゴッホによる女性や子供への暴力、そして例のショッキングな自傷行為も描写されているのだけれど、狂気の激しさよりもむしろ「天才」の弱さや繊細さが印象に残る仕上がりだ。それを欺瞞とするか今日的とするかは評価が分かれるところだろう。

マッツ、ルパート、オスカー、マチュー……かわいいおじさん大集合!

デフォーだけでなく、他にも濃くてかわいげのある大人の男性の顔を次から次へと見せる映画だ。テオ役のルパート・フレンド、ゴーギャンを演じるオスカー・アイザックに加えて、施設に入れられたゴッホのもとを訪れる聖職者の役にマッツ・ミケルセンを起用。ふたりの対話のシーンは、デフォーが30年前に『最後の誘惑』(1988年)でイエス・キリストを演じていたことを思い出させる。そして最晩年のゴッホを迎えた田舎の芸術愛好家の医師としてマチュー・アマルリックが出てきた時は、この上さらにかわいいおじさん乗っけてくる!? と思わず笑ってしまった。

撮影は『青いパパイヤの香り』(1993年)『博士と彼女のセオリー』(2014年)などで知られるブノワ・ドゥローム。手持ちカメラを多用し、「ゴッホ視点」で田園の美しい四季を捉えている。映像はところどころ焦点がぼやけ、セリフは英語とフランス語が混在して、どこか夢の中のような感触を残す。

ここで描かれたのは「シュナーベルによるゴッホ」。これでゴッホという人物とその作品が「わかる」ことはないけれど、その謎に自分なりに近づいてみたくはなる。現在、上野の森美術館で開催中のゴッホ展(2019年10月〜2020年1月13日(月))に実物をこの目で確かめに行きたくなったし、デフォーのファン必見の一本であることは間違いない。

文:野中モモ

『永遠の門 ゴッホの見た未来』は2019年11月8日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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