偉大なる狂気の遺産! 絢爛たる浪費に圧倒される深作欣二監督の終末SF『復活の日』

偉大なる狂気の遺産! 絢爛たる浪費に圧倒される深作欣二監督の終末SF『復活の日』
『復活の日』
価格 Blu-ray¥2,000+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

■膨大な予算で製作された日本映画史上屈指の豪華映画

“史上最高額の製作費”を謳い文句にする映画が出る度に、私は「いやいや製作費史上最高額は『地獄の黙示録』(1979年)でしょ」と、なんの根拠もなく思う。実際は歴代10位にも入っていないのだが、画面の中で消費された無駄遣いの規模は、例えば歴代3位という『タイタニック』(1997年)と比べても、『地獄の黙示録』は遥かに大きいように感じる。スケールの大きさが狂気じみている。CGのない時代の映画の、画面の中で破壊される質量は凄まじい。

深作欣二がメガホンを取った、角川映画『復活の日』(1980年)も、今見ると腰が抜けるほどスケールが大きい映画だ。ちなみに日本映画の製作費ランキングでは、歴代8位で24億円となっているが、歴代ベスト10の中でも圧倒的に古い作品であるから、やはり日本映画史の中でも屈指の豪華映画といえるだろう。

わかりやすいのでついお金のことを書いてしまったが、それはただの数字であり、印象だけで判断すれば『復活の日』は、私が観た中で最もスケールの大きい邦画である。『地獄の黙示録』と同じく、絢爛たる浪費に圧倒される。

■「これ実際に撮ったの?」圧倒される壮大なシーン(とツッコミどころ)の数々

冒頭から画面の中で展開される出来事に度肝を抜かれて、意味不明の独り笑いを何度も漏らしながら鑑賞した。オープニングのタイトルバックでは、主題歌に乗せて、美しい南極の風景が空撮される。すると、ふいに海から潜水艦が水面に浮上してくる。私は「え〜! 本物!?」といきなり目を見張った。流氷の上のカモメやアザラシ、ペンギン。巨大な氷山の中を進む潜水艦。どれをこれも本物だ。あまりのことに、のっけからいちいち笑いが漏れた。

『復活の日』CS専門映画チャンネル ムービープラスで2019年12月〜2020年1月放送/(C)KADOKAWA 1980

本作は、スパイによって盗まれた細菌兵器「MM-88」が事故で撒き散り、人類のほとんどが死滅してしまう、世界同時ディザスタームービーだ。この手の作品の常として、フラッシュ的に連続して各国のパニックの様子が映し出される。そのロケ地は日本、アメリカ、ドイツ、イタリア、当時のソ連〜カザフ共和国、南米、南極、北極にまで及んでいる。それだけでも大変な労力なのがわかる。

細菌兵器の「MM-88」は、ごく低温の地では活動を止めるため、南極大陸に滞在していた少数の観測隊員が人類の生き残りとなる。そのため南極が物語の主な舞台となる。したがって、過酷な環境の中で、「これマジで実際に撮ったの?」と圧倒されるシーンが連続される。私は、吹雪の中を雪上車で移動するシーン、雪上車がスタックしスキーで移動するシーンが印象的だった。あと、これは南極ではないが、廃墟と化したホワイトハウスでのシーンはすごいスケールだ。これ一体どうやって撮ったの?

『復活の日』CS専門映画チャンネル ムービープラスで2019年12月〜2020年1月放送/(C)KADOKAWA 1980

ロケ地やセットだけでなく、キャスティングも豪華であり、特に男性俳優陣は錚々たる顔ぶれだ。そのため昔の俳優さんたちの「濃さ」を改めて思い知らされた。最初に南極昭和基地の様子を描くシーンで、雪焼けで真っ黒な顔をして髭面の、千葉真一、夏八木勲、渡瀬恒彦、森田健作らが一斉に部屋に集合すると、画面一杯に男性ホルモンが充満し、中年男性の私までが悲鳴を上げて、足をギュッと閉じた。25年前の近鉄バファローズが蘇ったかと思った。

『復活の日』CS専門映画チャンネル ムービープラスで2019年12月〜2020年1月放送/(C)KADOKAWA 1980

日本映画史上最高の意欲作と言っていい『復活の日』であるが、壮大なスケールを誇る反面、ツッコミどころが多いのもまた、もう一つの側面である。私はスケールの大きさに思わず笑いが漏れ続けたと書いたが、妙なところがツボにハマったのも、その笑いの原因であったことを告白しておく。

まずこの映画、ほとんどの台詞が英語なのである。これを「ツッコミどころ」と言ってはちょっと可哀想だが、一体どこの国の観客に向けて作ったのか考えてしまった。日本の観客は字幕を読まなくてはならず、外国人にとっては、主役は日本人だし、日本人の下手な英語に付き合わなくてはならない。しかし、小賢しいマーケティングなどしていて、こんな狂った映画は作れるはずはない。

■イビツな形になっても作りたいように作る! 世界を見据えた映画人の心意気

現在この映画を観ると、ストーリーのディテールは荒唐無稽だ。また、世界各地のパニックの様子を貼り合わせた構造であり、物語性も重視されていない。そのことと劇画チックな熱い演出が相まってか、思わず「なんじゃこりゃ?」と笑ってしまう悶絶シーンが多い。しかし、今この作品を観る者にとっては、それは立派な見所であり、ツッコミながら鑑賞するのが正しいと思ったりする。

『復活の日』CS専門映画チャンネル ムービープラスで2019年12月〜2020年1月放送/(C)KADOKAWA 1980

一番意味不明だったのは、浅見則子(多岐川裕美)の自殺シーンだ。多岐川裕美は主人公・吉住周三(草刈正雄)の妻である。しかし、地震の研究に没頭する正雄は則子を日本に残して南極に旅立つ。彼女は妊娠を隠している。そして日本も「MM-88」に冒されてしまう。則子は子供を流産する。看護師である則子はそれでも健気に戦場のような病院で働いている。ある時、ふっと病院で目覚めると、自分以外の全員が死亡している。するとなぜか則子は、友人の家を目指す。友人は既に死亡していたが、その息子は生きていた。則子はその小学生に向かって「お父さんのところ行く?」と言う。次のシーンでは、なんとナース姿のままモーターボートを操縦している。舵を操りながら、ぐったりと横になる子供に「これを飲むと寒くなくなるわよ」と言って睡眠薬を飲ませ、自分も口に含む。そして夕日に向かってモーターボートを走らせるのだ(!)。

ラストシーンも変だ。ネタバレになってしまうが、この映画の場合、それがわかったとて鑑賞に何の影響もないので書くが、ラストシーンは吉住周三が放射能に冒された世界を6年かけて、ワシントンから南米の南端まで歩いて移動する。その移動シーンだけのために、本物のマチュピチュ遺跡の中を歩かせて、それを俯瞰で撮影しているのだ(!)。意味があるとかリアリティは無視して、ただその画が撮りたいだけなのは歴然だ。

“映画ファン”を自負するのであれば、『復活の日』は必ず観なくてならない“課題作品”だ。なんと言っても邦画史上最大スケールなのだから。リアリティがあるとかないとか、もっと言ってしまえば、おもしろいとかおもしろくないとか、そんなちっぽけなことはどうでもいい。世界を見据えた映画人の心意気や、たとえイビツな形になっても作りたいように作るのだ、創作はそれでいいのだ、そんな情熱が必ず感じられるはずだ。偉大なる狂気の遺産を、ぜひツッコミを入れながら観て欲しい。

文:椎名基樹

『復活の日』はCS専門映画チャンネル ムービープラスで2019年12月〜2020年1月放送

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