「アダムが僕の古いアイデアを覆してくれた」鬼才監督が苦節30年を語る『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』

「アダムが僕の古いアイデアを覆してくれた」鬼才監督が苦節30年を語る『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』
第71回カンヌ映画祭 (左)テリー・ギリアム監督 (右)アダム・ドライヴァー

テリー・ギリアムが帰ってきた。1970年代に「モンティ・パイソン」シリーズで一斉を風靡した後、『未来世紀ブラジル』(1985年)『フィッシャー・キング』(1991年)『12モンキーズ』(1995年)『ラスベガスをやっつけろ』(1998年)など、数々の傑作、怪作を生み出してきた鬼才。その5年ぶりの新作『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(2018年)は、構想から完成までなんと30年。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU

当初はジョニー・デップとジャン・ロシュフォールの配役で、2000年に撮影が始まるも、洪水による撮影中止、ロシュフォールの怪我による降板など、度重なる障害で延期が続いた後、ついにアダム・ドライヴァーとジョナサン・プライスを据えた新キャストで2018年に完成し、第71回カンヌ映画祭でワールド・プレミアを迎えた。

17世紀に書かれたミゲル・デ・セルバンテスの古典も、ギリアムの手にかかると、現代を舞台にした破天荒な空想劇に生まれ変わる。主人公のトビーは元映画青年で、いまはご都合主義のCM監督。そんな彼が仕事で訪れたスペインで、かつて自分の学生映画でドン・キホーテを演じた老人に再会する。いまや老人は自分を本物の騎士と思い込み、周囲から変人扱いされているが、そんな彼の存在がトビーの気持ちに変化をもたらしていく。

ギリアム自身の投影も見られるこの物語に、彼が込めた思いの丈を、記念すべきカンヌの地で語ってもらった。

第71回カンヌ映画祭 テリー・ギリアム監督

■「なぜ自分がこの題材にこだわり続けたのか? まるで魔法にかかったみたいだ」

―いまの率直なご気分はいかがですか?

30年近くずっと苦労してきたけれど、ついにこの映画が完成し、しかもカンヌで披露することができたなんて、自分でも信じられない。最高にハッピーだよ。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU

―そこまでこの古典に魅せられた理由は何でしょうか?

セルバンテスの小説は、とても滑稽で面白いし、多くのメタファーがある。僕にとってドン・キホーテとサンチョ・パンサは、文学の世界におけるもっとも魅力的なヒーローだ。彼らは人々の夢と人生のリアリティを象徴する存在。こんな素晴らしい題材を映画にしない手はないだろう。

でも本当のところ、なぜここまで自分がこの題材にこだわり続けたのかは、よくわからない。まるで魔法にかかったみたいだ。僕はウディ・アレンじゃないから、精神科に行って分析してもらったりしないけれど(笑)。自分がなぜそれをするかなんて知りたくないし、知る必要もないと思う。でも正直言って、本当にこの作品を完成させられると信じていたわけじゃない。でも、だからこそ純粋に自分のために、そしてどんな瞬間も楽しもうと思いながらやっていた。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU

―長い年月のなかでキャストも変更になりましたが、ストーリーは変わったのでしょうか。

脚本はキャスティングが変わるたびに書き直され、最終的にずいぶん変わったよ。ジョニー(・デップ)とジャン・ロシュフォールが演じていたときは、17世紀の物語だった。でもそれが最終的に、現代を舞台にした映画監督の話になった。彼は若い頃は純粋で情熱的で、野心があった。でも成功するとともに変わってしまった。そんなとき、自分をドン・キホーテだと信じる老人と再会し、また若い頃の気持ちを取り戻していくんだ。脚本がどんどん変わっていったことは、この映画に生き生きとしたライブ感をもたらしてくれたと思う。

■「アダム・ドライヴァーの緊張をジョナサン・プライスがほぐしてくれた」

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU

―ジョニー・デップからアダム・ドライヴァーへの変更は意外な印象もありますが、アダムに惹かれた理由は?

アダムがどうしてこの役にぴったりだと思ったのか、正直わからない(笑)。直感だね。彼を推薦したのは娘のエイミーなんだ。もちろん彼はジョニーとは全く異なるタイプの俳優だし、僕がはじめにイメージしていたトビー像とも異なった。でも、彼によって僕の古いアイディアが覆されてハッピーだよ。

アダムははじめ、すごく緊張していた。というのも、彼はこの映画を牽引する役目だから、そういう重責を感じていたんだ。でもジョナサン(・プライス)のおかげですごくリラックスするようになった。ジョナサンはとても面白い人だし、周りの人を楽しくさせるような才能があるんだ。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU

アダムは俳優としても人間としても素晴らしい。そして僕にとって、若い頃のトビーがアンジェリカ(ジョアナ・ヒベイロ)と過ごす純粋で愛らしいシーンを観るのは、とても幸福な気持ちにさせられたよ。

この映画を撮っているとき、果たしてこれが面白い映画になるのか否かわからなかったけれど、確かだったのは、素晴らしいキャストに囲まれていたということ。そして、どんな大変な撮影になっても、彼らが僕を支えてくれるだろうということ。実際その通りだった。だから彼らには感謝の気持ちでいっぱいだ。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU

―トビーにはあなた自身が投影されていますか?

トビーに限らず、すべてのキャラクターに僕自身が投影されているよ。ペテン師だけは別だけど(笑)。

―ただストーリーの設定には、業界に対するシビアな皮肉を感じさせられます。

フィルムメイキングはタフなビジネスだ。情熱と信念と粘り強さが必要とされる。お金を稼ぐためなら、トビーみたいにコマーシャルをやった方が手っ取り早い。僕も2002年W杯の際にナイキのコマーシャルをやったことがあるが、10日間の仕事で、この映画の1年分以上のギャラをもらった。だから、多くの才能ある監督たちがコマーシャルをやりたがるのもわかるし、それを批判するつもりはないよ。コマーシャルは夢を売る仕事だ。でも、あいにく僕自身は夢を売るよりも、自分が夢を見ている方が好きなんだ(笑)。

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』© 2017 Tornasol Films, Carisco Producciones AIE, Kinology, Entre Chien et Loup, Ukbar Filmes, El Hombre Que Mató a Don Quijote A.I.E., Tornasol SLU

取材・文:佐藤久理子

『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』は2020年1月24日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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