バットマン、あるいは(アメコミ映画からの卒業がもたらした奇跡)〜名優マイケル・キートンのキャリアを振り返る

バットマン、あるいは(アメコミ映画からの卒業がもたらした奇跡)〜名優マイケル・キートンのキャリアを振り返る
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』©2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

■人生の選択で成功を勝ち取った男!
【シネマ・タイムレス〜時代を超えた名作/時代を作る新作〜第2回】

連載第2回目の今回は、近年、円熟の域に達して次々と話題作に出演し第二の黄金期を迎えている俳優、マイケル・キートンの軌跡についてご紹介しよう。

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』©2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

■有名俳優と同じ本名を捨て、笑わぬ喜劇王にあやかる!

突然だが、マイケル・キートンの芸名の由来を御存知だろうか? 彼の本名は、実はマイケル・ダグラスという。 ん? どこかで聞いたことがあるような……。そう、名優カーク・ダグラス(2020年2月5日に103歳で逝去のニュースが世界を駆け巡った。『OK牧場の決斗』『五月の七日間』などバート・ランカスターとのコンビ作が最高だった!)の息子にして、『ウォール街』(1987年)、『危険な情事』(1987年)、『氷の微笑』(1992年)等で1980〜90年代に大活躍した、あのマイケル・ダグラスと同じ。――当然、既に大活躍している7歳年上の俳優と同じ名前では具合が悪いので、サイレント映画時代の“笑わぬ喜劇王”として知られるバスター・キートンからとって、マイケル・キートンとしたのだ。

ちなみに、同様の例としては『キング・ソロモン』(1950年)で知られる英国出身のハリウッド・スター、スチュワート・グレンジャーのケースがある。彼の本名はジェームズ・スチュワートだったが、やはり5歳年上の同名の大スターがいたため、自分の姓と母親の旧姓を組み合わせた芸名にしたそうだ。

さて、バスター・キートンにあやかったのは名前だけでない。デビュー当時のキートンは、エキセントリックで毒気の多い芸風で観客を笑わせていたにもかかわらず、自身はあまり笑わない個性をウリにしていた。映画デビュー作はロン・ハワード監督の初期の作品『ラブ IN ニューヨーク』(1982年)だが、ここでの彼は死体置き場の夜警のアルバイトをしている主人公の助手として採用され、なんと死体置き場を売春婦たちの仕事場として提供するビジネスを思いつく役で、完全に主役を食ってしまう怪演だった。

■ティム・バートンとの出会いでつかんだトップ・スターの座!

マイケル・キートンの名が一躍世界的に知られるようになったのは、ティム・バートン監督の『ビートルジュース』(1988年)での白塗りメイクの奇妙奇天烈なキャラクター。そして、ここでの怪演によって、バートン監督の次回作『バットマン』(1989年)の主人公バットマンことブルース・ウェイン役に大抜擢された。当時はまだアメコミ原作ものの映画化というと『スーパーマン』シリーズ(1978年〜)が製作されていたくらいで、昔のテレビ・シリーズのキッチュなバットマンをバートンがどう料理し、キートンがどんなバットマン像を創り上げるのか、世界的な注目を集めたのだ。

キートンのバットマンは喜怒哀楽を示さない抑制的な演技だが、キートンの持つ元々のエキセントリックな個性が滲み出る「静」のキャラクター。対するジョーカー=ジャック・ニコルソンが「動」のキャラクターゆえにバランスがとてもよく、そのバットマン像は続く『バットマン リターンズ』(1992年)でも変わらず快調で、それ以降、今日までリブートされながら続くシリーズの人気を不動のものとした。

この2作で世界のトップ・スターの仲間入りしたキートンだが、続く『バットマン フォーエヴァー』(1995年)でバートンが製作総指揮に回ると、自身もあっさりと役から降りてしまう。……もうアメコミものの主役などは卒業だ、とでも言いたげな処世術で、莫大な出演料を継続して得られることよりも、キャラクター・アクターとしてもっとチャレンジングな役柄を演じていくことを選んだのだ。

■キートン自身を彷彿とさせる役柄でまさかの返り咲き!

その後のキートンは、自ら選んだキャラクター・アクターの道を突き進む。『バットマン』と『バットマン リターンズ』の合間に出演した『パシフィック・ハイツ』(1990年)のサイコな隣人役を皮切りに、『マイ・ライフ』(1993年)では一転して末期がんの診断を下された男の生き様を切々と演じ切り、『絶体×絶命』(1998年)では脱獄目的で骨髄移植への協力を申し出る知能犯、といった役どころで演技派としての実力を発揮する。

その一方、声優としても2005年に米で公開された『紅の豚』(1992年)のポルコ・ロッソ役をはじめ、『カーズ』(2006年)のチック・ヒックス役、『トイ・ストーリー3』(2010年)のケン役などで活躍する。

……と記すと、そのマルチな活躍ぶりがポジティヴに聞こえるのだが、正直言って『ビートルジュース』や『バットマン』の頃のトップ・スターとしての立場を想うと、やや小粒な俳優になってしまったな、というのが当時の偽らざる感覚だった。

しかし、マイケル・キートンの名前は1本の作品への出演によって、再び最もホットなものに返り咲いた! ――それが、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞など世界中の映画賞で26冠の圧倒的評価を受け、アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014年)だ。

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』©2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ここでの彼は、かつて「バードマン」というブロックバスター映画の主演シリーズでスーパー・スターになったものの今は落ち目の役者、という、まさしく自分自身をモデルにしたような役柄を演じているのだが、その彼だけに見える“バードマン”が時々彼に語り掛けるという設定は、ジェームズ・スチュワートの舞台・映画での代表作のひとつ『ハーヴェイ』(1950年)と同じ趣向で、同じく『ハーヴェイ』をモチーフとして援用していたケヴィン・コスナーの『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年)とも通ずるもの。キートンは、このリアリティとファンタジーの両面を併せ持つ不思議な映画に、彼自身のキャリアがあってこその説得力をもたらしたのだ。

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■そして第二の黄金期へ!!

『バードマン』後のキートンは快調そのもの。――『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(2016年)では、マクドナルド兄弟にハンバーガー店のチェーン展開を持ち掛け、やがて乗っ取ってしまうセールスマンあがりのやり手経営者を、何とも憎めない魅力的な人物造形でものにした。

一方、『アメリカン・アサシン』(2017年)ではCIAのヴェテラン工作員で、かつての教え子との対決の為に才能あふれる新人を鍛えていくストイックな上司役を熱演、捕らえられて爪をはがされる拷問にあっても(脂汗を流しながら)表情ひとつ変えずに堪える演技で、若い頃からの“喜怒哀楽を示さない抑制的な演技の中に滲み出るエキセントリックな個性”が更なる進化を遂げて完成形に近づきつつあることをアピールした。

『アメリカン・アサシン』
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ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 2017 CBS Films Inc. and Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved. Artwork & Supplementary Materials © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

そして、かつては自ら主役の座を降りてしまったアメコミ・ヒーローものにも改めて悪役として登場、映画ファンをあっと言わせたのも記憶に新しいところ。作品は、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)で、ここでのキートンはウィング・スーツを身にまとって飛び回る癇癪持ちの悪役ヴァルチャーを喜々として演じている。

劇中、ヴァルチャーがスパイダーマンから命を助けられるシーンがあって、残念ながら本篇からはカットされてしまっているのだが、ここで「なぜ助けた?」と彼が訊くと「なぜなら僕はスパイダーマンだからだ」という答えが返ってくる。すると、すかさずキートン=ヴァルチャーは「だがオレはバットマンだ!(But I’m Batman!)」とアドリブで言い返したのだという。カットされたのはおそらく権利関係の処理が不可能だったからだと思うが、バットマンを卒業してセルフ・パロディとしてのバードマンで返り咲き、さらにマーベル・コミックものでバットマン・ジョークを口にするウィング・スーツの悪役を演じる、という流れは、常に人生の岐路に究極の選択をしてきたマイケル・キートンだからこその味わいだと言え、その積み重ねてきた歴史があるからこそ映画ファンをうならせるのだと言えよう。

『スパイダーマン:ホームカミング』© 2017 Columbia Pictures Industries, Inc. and LSC Film Corporation. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & ™ 2017 MARVEL.

『スパイダーマン:ホームカミング』からマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)との提携をスタートさせたソニー・ピクチャーズの新作『モービウス』(2020年公開)では、予告編の最後に再びマイケル・キートンが登場して話題をさらっている。果たして彼が再びヴァルチャー役を演じるのか、それとも別の役として登場するのか、今からその公開(アメリカはサマー・シーズン公開)が楽しみなところだ!

文:谷川建司

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『アメリカン・アサシン』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年2月放送

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