世界を騙したあの事件が劇映画化! オスカー女優ローラ・ダーン&C・スチュワート『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』

世界を騙したあの事件が劇映画化! オスカー女優ローラ・ダーン&C・スチュワート『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』
『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited

■あの“謎の天才美少年作家”が詐欺事件の顛末を自ら映画化!

あなたはJ・T・リロイを覚えているだろうか? 2000年代前半、自伝的小説というふれこみの「サラ、神に背いた少年」「サラ、いつわりの祈り」で世界的にセンセーションを巻き起こした“謎の天才美少年作家”だ。実は彼が「ふたりの女性によって作り上げられた架空の人物」だったことは、現在では広く知られている。

ふたりのうち、いわばJ・T・リロイの“頭脳”として小説を書いていたローラ・アルバートが、事の顛末そして自らの半生を語ったドキュメンタリー『作家、本当のJ.T.リロイ』(2016年)は、3年前に日本でも公開され、静かな衝撃の波を広げた。

このたび届けられた『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年)は、もう片方のひとり、J・Tの“肉体”としてメディアに出ていたサヴァンナ・クヌープの回顧録にもとづいた劇映画だ。サヴァンナは本作の原作・脚本・製作総指揮としてクレジットされている。

『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited

■数々のセレブも騙された歴史的ゴーストライター事件!

経緯を整理しておこう。J・T・リロイは2000年に「サラ、神に背いた少年」を発表すると、またたくまに時の人となった。これはJ・Tが駐車場で客を取る娼婦の母親のもとに生まれ、自分も12歳から女装の男娼として働いてきた実体験をもとに、18歳で書き上げた作品とされていた。

『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited

J・Tは朗読会やレセプションなどの公の場に出る際、「シャイだから」という理由でいつも金髪のウィッグとサングラスをつけていた。胸にはアライグマのペニスの骨のペンダント。その中性的でミステリアスな存在感に、ウィノナ・ライダー、コートニー・ラヴ、ガス・ヴァン・サント、ボノといった錚々たる面々が夢中になった。2001年には2作目「サラ、いつわりの祈り」を発表。2004年にはアーシア・アルジェント監督・主演で映画化され、J・Tはカンヌ国際映画祭にも招かれた。

しかし、その頃から、J・T・リロイの実在を疑う声がメディアで囁かれるようになる。そして2006年、J・Tの小説とされる作品を書いていたのは、彼のマネージャーを務める中年女性ローラ・アルバートで、J・Tとしてメディアに出ていたのはローラのパートナーの妹、サヴァンナ・クヌープであることが暴露されたのだった。

『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited

『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』は、はたから見れば愚かにも見える行動も、単純に「利用されていた」わけではないのだ、というサヴァンナの主張が伝わる映画になっている。まだ10代のサヴァンナは親元を離れて兄の近くで暮らそうとサンフランシスコにやってきた。ローラに頼まれ、軽い気持ちで「J・T役」引き受けたサヴァンナは、J・Tとして脚光を浴び、セレブリティと交流するうちに、知らなかった自分を発見してゆく。

■抑えきれない承認欲求と自己顕示欲……心当たりがある人は悶絶必至!?

サヴァンナ役にクリステン・スチュワート、ローラ役にローラ・ダーンを配したキャスティングは、まるでマンガのように輪郭がはっきりしていて安定感がある。未来の可能性と不安を抱えたクールなトムボーイにクリステン。恵まれない生育環境で才能を磨いてきた末に、名声を求めて自分も周りも傷つけてしまうヤバい中年女性にローラ・ダーン。あまりに期待されるイメージ通りという感もあるが、いま絶好調の女優たちが一筋縄ではいかない共犯関係を演じるのを見るのはいいものだ。

サヴァンナがJ・Tを演じていたのは2000年代頭から半ばまでの6年ほど。現在の感覚では、「よくそんなに長いことバレなかったな」と驚いてしまう。SNSはすでに流行しはじめていたとはいえ、スマートフォンがまだ普及していない時代だったから可能だったのだろう(Facebookの創業が2003年だ)。今となってはあの頃が牧歌的にすら感じられてしまうことにゾッとする。

『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』© 2018 Mars Town Film Limited

「もし自分が若い美少年だったなら」と願ったローラの悔しさと自己愛。「自分には何もない」と思ってしまうサヴァンナの焦燥。どちらもさっぱりわからない人もいれば、思い当たるところがあってギャーッ! と叫びたくなってしまう人もいるだろう。社会に蔓延するルッキズムとエイジズム、また作品を発表することと自分のパーソナリティを売り物にすることについて考えていきたい人に、『作家、本当のJ.T.リロイ』とあわせておすすめしたい。ちなみにローラとサヴァンナ、両者とも現在も元気にアーティストおよび作家活動を続けており、関係も良好だそうだ。

文:野中モモ

『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』は2020年2月14日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国公開

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