文句なしに面白いカンニング映画! 金持ち学生に“成績”を売る?! 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』

文句なしに面白いカンニング映画! 金持ち学生に“成績”を売る?! 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』© GDH 559 CO., LTD. All Rights Reserved.

■告白

大学卒業まではカンニングなどという卑劣な行為を行ったことがない。高校の数学の先生は試験前になると、テキストを置いて5分間必ずいなくなった。テストに出す問題2問に印をつけて、生徒にあまねく知らしめてくれるのであった。その2問の数式さえ覚えて、訳のわからない記号を書き込めば、赤点を取らなくてすんだ。私はその“仏壇”と呼ばれた先生のおかげで高校を卒業することができました。しかし、それはカンニングではない。温情をいただいただけのこと。

カンニングしかないと開き直ったのは、広告会社に就職して半年後に行われた社員登格試験の時のことである。それまでは形の上では「試用」で半人前。受からなかったら何度でも受けさせられる。

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私はほとんどが地方紙の名前(秋田県の地方紙は秋田魁新報、とか)、ローカル局(新潟放送のアルファベットの略号はなーんだ、とか)、その他さっぱり覚える気がなかった問題を前に目の前が真っ暗になった。就職したらテストなんて一生縁がないと思っていたのに、裏切られた気分でうなだれていた。

その時、私の前に座っていた村井くんが調子良さそうにガツガツ答えを書き込んでいたのを見て、決心した。椅子を蹴って「見せてくれ」と頼んでみた。彼は本当に優しい男で快諾してくれ、体を左に振って答案用紙を右に置き、丸写しさせてくれた。友情に感謝し、カンニングって楽チンでいいな、と心の底から思った。

私は彼のおかげで社員になれ、とりあえず喜んだのだが、その村井くんはなぜか落ちてしまっていた。筆記問題ができなかったらしい。申し訳ないことした、というのも違うし、どのように償っていいものかもわからなかったが、「私はカンニングをしました」と告白する気なんかさらさらなくて、正社員として働かせていただいた。村井くんはたまたま1回目の登格試験には落ちたけど、その後ぐんぐん出世していった。

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■天才だったらカンニングすんな

そう、天才はカンニングをしない。正解がわかっているのに、わざわざ人の間違った回答を写す意味がない。カンニングの“仕組み”を考えるのである。

舞台はタイ。主人公の女子高生リンは父子家庭で育てられお金に困っている。でも天才なので、特待生で高校に入学。友人のグレースは可愛いが勉強には向いていない。でも、お金持ちの家の娘。助けて、と頼まれれば自分が損をするわけでもないので、まずは古典的だが確実な方法で正解大放出。それを知ったクラスの金満バカ息子、娘たちは金なら払う、いくらでも払う、大学にさえ入れれば安泰と人生を舐めた生き方を選ぶ。

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リンとしてはそういうバカが今後の人生でどんな目にあっても関係ないので、金に目が眩むというより、合理的に割り切り、誰も考えつかないカンニング方法を編み出し、中身カラッポの成績向上委員会を作り上げる。しかし、巧妙なカンニングを成功させるにはそれなりの努力が必要で、いちいち面倒な合図を必死で覚えるより、素直に勉強したほうがよさそうだが、一度覚えた蜜の味はスリルと入り混じり、エスカレートしていく。

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ということで終わりだと面白かったね、だけなんだが、そんなに簡単に終わらせてしまってはせいぜいB級サスペンスにしかならない。130分を一気に息もつかせず見せてくれるのは、二重三重の意外な展開が仕掛けられているからである。人生、大学だけじゃないんだよ、金だけでもない。小さなことからコツコツと、ではないが、正直に正面から人生に立ち向かいたいですね、なんて余計なことを添えたくなる極上エンターテインメント。

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■大学進学の悪夢

過去にもカンニングがテーマの映画はあったが、これは群を抜いて面白い。しかもタイで作られたということに感慨無量である。アメリカの有名大学進学は私のようなものには縁がないし興味もないが、アジア各国では熾烈な受験競争が始まって久しい。

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アジアのエリート予備軍は日本の大学を目指していないが、世界各地の有名大学への入試には親も本人も目の色を変える。とんでもなく高額な授業料も特待生枠に入ればどうにかなる。勉強勉強で生きていく生活は私には思いもつかなかったが、それなりに得るものもあるでしょう。有名大学を卒業したからといって将来が保証されることなんてないし、貧富の差がそのまま大学進学率に反映される現状は薄気味悪くて息苦しい。その虚しさを含めて、こういう映画が作られるに至ったわけである。タイも例外ではなくなっていたわけだ。

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
Blu-ray&DVD発売中
価格:Blu-ray ¥4,800+税/DVD ¥3,800+税
発売・販売元:マクザム

しかし、スタイリッシュ。もはやエンタメの王道は日本ではなく、他のアジア諸国にあり。面白いよー、と一瞬のためらいもなくお勧めできる作品。

文:大倉眞一郎

※監督&キャストインタビュー
▶「ハリウッドのスパイ映画のように、学生のカンニングを描いた」 監督&女優が語る『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年6〜7月放送

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