大定番の古典を現代に生まれ変わらせた意義とは?『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

大定番の古典を現代に生まれ変わらせた意義とは?『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

■『レディ・バード』のグレタ&シアーシャによるミレニアル版『若草物語』

ルイーザ・メイ・オルコット の「若草物語」といえば、これまでに何度も映像化されてきた少女小説の古典。舞台は19世紀後半、南北戦争下のアメリカ北東部ニューイングランド地方。北軍に従軍している父の帰りを待ちながらつつましく暮らすマーチ家の四姉妹の物語は、日本でも明治時代に翻訳されて以来、世代を超えて愛されてきた。これを監督・脚本グレタ・ガーウィグ、主演シアーシャ・ローナンの『レディ・バード』(2017年)のコンビが映画化。超有名な原作付きの時代ものだからこそ、ガーウィグの作家性が際立つ作品となった。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

この映画では、美人で優しい長女メグ(エマ・ワトソン)、小説家志望のおてんば娘ジョー(シアーシャ・ローナン)、控えめで天使のような三女ベス(エリザ・スカンレン)、おしゃまな末っ子エイミー(フローレンス・ピュー)の四姉妹が、時に衝突しながらもお互いをいたわりあって楽しく暮らす少女時代と、それぞれが別々の道を歩みはじめ、さまざまな人生の困難に直面する“7年後”の、ふたつの時系列が交互に語られる。速めのテンポにギュッと詰まった情報量、恋愛よりも家族の描写に力が入っていること、お金の問題へのフォーカス……2000年代前半のティーンエイジャーを描いた前作『レディ・バード』に見られたのと同じ個性が、この19世紀の少女たちの物語でも前面に出ているのだ。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

主人公のジョーは、原作者オルコットが自身を投影したキャラクターと言われている。しかし、残された書簡や日記などからは、オルコットが編集者や読者の意見を汲んで、本意ではない「一般受けする結末」を選んだことがあきらかになっているそうだ。「若草物語」の姉妹たちは結婚するが、オルコット自身は生涯独身だった。1883年のインタビューでは、「私は自分が何らかの不思議な現象で女の体に男の魂を入れられた人間なんじゃないかと思っています……これまでたくさんのかわいい女の子たちに恋してきたけれど、男性にはただの一度も無いですから」と発言していたのだとか。これだけで彼女のセクシュアリティを断定することはできないが、異性愛規範や婚姻制度、固定的な性役割への批判的な視点を持っていた作家だったことは間違いない。今回の映画化は、こうした作品の成立過程の事情も取り込んだ脚色がなされているのがポイント。いま新しく作る意義が考えられた映画ならではの語りを見せてくれる。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

■性差別が根深いハリウッドでキャリアを積み重ねてきた女性プロデューサーたちの存在

自然豊かな美しい風景や、姉妹たちが身につける衣装も細部まで見応えがある。暗闇を照らす蝋燭の光や印象的な移動撮影は、トリュフォーを引き合いに出す人が多いのも納得。アレクサンドル・デスプラの音楽も物語を盛り上げる。

▶「モーツァルトとボウイの間」という難題に挑んだ映画音楽家デスプラ『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

出演者では憎まれ役になりがちなエイミーをいきいきと演じたフローレンス・ピューが絶賛されているが、メグにエマ・ワトソンを配したのも、ともすれば退屈な人物と思われてしまう役がちゃんと「きれいで優しくて妹たちが慕うと同時にコンプレックスを抱いてしまいもする素敵なお姉さん」に見えてよかった。さらにマーチ家のお向かいに引っ越してくるローリーにティモシー・シャラメ、母親にローラ・ダーン、叔母にメリル・ストリープというオールスターキャスト。アメリカの人たちにとっては、「みんなが知ってる話を知ってる顔で」「今回はどんなふうに表現されているか」を楽しむ、日本で言うNHKの大河ドラマみたいなものなのだろう。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

そうやって手厚くおもてなしされて「よくできているなあ」と感心しつつ、いまの自分は熱のこもった大絶賛の声をちょっと離れたところから眺めている感じだ。それは巧妙に組み立てられている故に没入しにくいからというのも、素敵なドレスの影には往々にして過酷な奴隷労働があることを意識せざるを得なくなったからというのもあるけれど、まず第一に、これがいま10代や20代の人たちのための映画であって、自分がもう若い女性ではないからだろうな、と思う。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

とはいえ、あるいはだからこそ、エンドロールにデニーズ・ディ・ノビの名前を見つけたときには思いがけず目に涙が滲んできた。80年代末から90年代にかけてマイケル・レーマンやティム・バートンの作品を送り出し、1994年にはジリアン・アームストロング監督、ウィノナ・ライダー主演の『若草物語』を手掛けた女性プロデューサーである。自分にとってはまだインターネットにもアクセスできなかった四半世紀以上前、映画雑誌やパンフを読んで覚えた名前だ。2000年代には『旅するジーンズと16歳の夏』(2005年)などをヒットさせている。本作はディ・ノビと94年版の脚本を手掛けたロビン・スウィコード、『スパイダーマン』シリーズ(2017年〜)で知られるエイミー・パスカルの3人による共同プロデュースだ。まだまだ激しい性差別が残っていることが明らかになってしまったハリウッドでキャリアを積み重ねてきた女性たちの存在が嬉しいし、自分もいまこうして元気で映画を楽しめていてよかったな、という感慨がある。

古典は繰り返し参照され、語り直されることで、もういなくなってしまった人たちといま生きている人たちをつないでいく。今回の新しい『若草物語』、もともと思い入れのある人はガーウィグの手さばきに刺激を受けるだろうし、これまでオルコットの四姉妹たちを知る機会がなかった人にとっても、大衆文化の大定番作品へのよい入口となるに違いない。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

文:野中モモ

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は2020年6月12日(金)より全国順次ロードショー

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