あの名女優ダイアン・キートンが平均年齢72歳のチアリーディング・クラブを結成!?『チア・アップ!』

あの名女優ダイアン・キートンが平均年齢72歳のチアリーディング・クラブを結成!?『チア・アップ!』
『チア・アップ!』© 2019 POMS PICTURES LLC All Rights Reserved

■若き日の夢を求める高齢女性たちのチア奮闘記!

ひとり暮らしの高齢女性マーサ(ダイアン・キートン)は、自らの余生が長くないことを悟り、長年住んだ部屋を引き払って高齢者向けコミュニティに引っ越してきた。治安が良いとされる環境でのんびりリタイア生活を送る老人たちは、ゴルフや水泳などのクラブ活動を楽しんでいる。新しい環境に戸惑うマーサだったが、おせっかいな隣人シェリル(ジャッキー・ウィーヴァー)に焚き付けられ、チアリーディング・クラブを立ち上げることに。「チアリーダーになりたい」という若き日の夢を叶えようというのだ。そこでチア未経験、平均年齢72歳の8人の高齢女性たちが集まり、練習をはじめるのだが……。

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シルバーヘアのダイアン・キートンが「入りたいクラブが無かったら自分で作ればいい」と言ってはりきる姿に、過去数十年の映画と社会の変化を思って感慨をおぼえる中高年は少なくないだろう。このセリフで思い出されるのは、彼女のかつての恋人ウディ・アレンの有名なジョークだ。キートンを世界的なスタイル・アイコンにした代表作、アレン監督・共同脚本・主演の『アニー・ホール』(1977年)で、彼が演じるコメディアンは「僕は僕みたいなやつを会員にするようなクラブには入りたくない」と言う。

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■気軽に観られるハートフル・コメディだけど、背景にあるのは現実の社会問題

そういうわけで、本作は#MeTooを経てフェミニズムの重要性が広く再認識された現在の「自虐インテリギャグはもう古い、自分で自分を認めてあげよう」という時流に沿った「なんてことのないハートフル・コメディ」である。

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しかし、ずっと雑然とした都市部で不安定な生活を送ってきた身としては、郊外の高齢者コミュニティに生きる人々に心を重ねる難しさを感じてしまう映画でもあった。「55歳未満は入れない」年齢制限に加え、入居するにはおそらくある程度の資産が必要な落ち着いた住宅地、たとえお金を持っていたとしても絶対住みたくないなあ、と今の自分は思ってしまうし、主人公がどうしてその暮らしを選んだのかいまいち納得できない。物語に説得力を持たせるには、彼女がこれまでどんな人生を送ってきて、なぜそこにいるのかをもうちょっと掘り下げる必要があるのではないだろうか。

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チアリーディングをやりたい彼女たちに立ちはだかるのは、「高齢者がチアなんて」という保守的な家族や地域の管理責任者たちの無理解である。それは決して「古い」と一笑に付すことはできない現役の問題だが、たとえば「思うように動かない体でもできる見栄えのいい振り付けを考える」とか、もっと創作にまつわる工夫と喜びの部分が見たかった。高齢者が安全に楽しく体を動かすにはどうしたらいいのか、真面目に研究している人はたくさんいるはずなのだから、そういう知見を活かしてほしい。

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90分程度の軽い娯楽作に多くを求めすぎだろうか? この映画が抱えている問題、「世間体を整えたり偏見と闘ったりすることに労力を奪われてしまって本当にやりたいこと・やるべきことに集中できない」というのは、現実の女性たちの苦しみをそのままなぞってもいて、それもまた切ない。

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■ダイアンだけじゃない! 何気に豪華な共演者たちにも注目

とはいえ、年齢を重ねたベテラン女優たちがこうして活躍する機会を得ているのはやはり喜ばしいことだ。1946年生まれのダイアン・キートンは年齢を重ねてなおスタイリッシュで、そのシンプル・シックな出で立ちは、「おしゃれな映画」ではないからこそ普段着コーディネイトの参考になりそう。小さめの襟に比翼仕立ての白シャツの着こなしはさすがの完成度だ。ジャッキー・ウィーヴァー(『アニマル・キングダム』[2010年]『世界にひとつのプレイブック』[2012年])、パム・グリア(『コフィー』[1973年]『ジャッキー・ブラウン』[1997年])など、チアリーディング・クラブの他のメンバーもさり気なく豪華で、アメリカの映画やドラマを見てきた人は嬉しいはず。

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また、新型コロナウイルス感染拡大予防のために人との接触および外出の自粛が求められている2020年現在に観ると、「みんなで集まって声を出して体を動かすって単純に楽しいよな」と泣けてきたりもする。監督のザラ・ヘイズは、これまでテニスのビリー・ジーン・キング選手や霊長類学者ダイアン・フォッシーのドキュメンタリー、2013年のバングラデシュの縫製工場の倒壊事故からファッション産業の闇に迫る『Clothes to Die for(原題)』などの作品で高い評価を獲得してきたイギリスの女性。「女性監督の映画だから応援しなくちゃ」なんてことを考えずに済む世の中が到来し、文句を言いつつゆるい映画を楽しむ余裕がみんなに行き渡ってほしい。そんな想いがますますつのる映画だった。

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文:野中モモ

『チア・アップ!』は2020年7月3日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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