傑作ヤクザ映画『極道の妻(おんな)たち』! 五社英雄監督は岩下志麻に惚れていた!?

傑作ヤクザ映画『極道の妻(おんな)たち』! 五社英雄監督は岩下志麻に惚れていた!?
『極道の妻たち』
価格:DVD 2800円+税
発売元:東映ビデオ
販売元:東映

■荒々しい東映作品に躊躇する岩下志麻を説得した五社英雄

『極道の妻(おんな)たち』(1986年)の五社英雄監督は岩下志麻が好きだった。岩下が篠田正浩監督と結婚した時は悔しくて、「俺という男がいながら、なんで篠田なんだ! あいつはもう使わん!」と言って、本当に10年以上にわたって岩下志麻を起用しなかったという。

岩下志麻が「極道の妻役」を最初に演じた作品は、五社英雄の『鬼龍院花子の生涯』(1982年)である。この時、岩下には躊躇があった。岩下が育ってきた松竹は文芸映画やホームドラマが中心であり、女優は大事に扱われてきた。しかし『極妻』を作る東映はヤクザ映画やポルノ映画を撮る「不良性感度」を売り物にする、荒々しい撮影所。岩下が不安を五社に相談すると「僕が監督なんだから大丈夫だ。任せなさい」と言い、懇切丁寧に演技指導したという。

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その後『極道の妻たち』のオファーを受けた当初、岩下は演じ方に悩んでいた。そんな岩下に、「岩下志麻は今まで色気が役柄の中になかった。だから僕が作ってあげる」と五社英雄は言った。この一言で岩下は吹っ切れたのだという。また、岩下が撮影所に行くと毎朝、入り口に子分役の役者たちを並ばせて「姐さん、おはようございます」と出迎えをさせた。次第に岩下は“姐さん”になりきっていった。

80年代後半の東映は女性客を獲得する必要に迫られていた。代名詞であるヤクザ映画は時代遅れであると言われていたが、方法を変えれば女性ファンのニーズに応えられるはずだと考えていた。すなわち、大物女優を起用し、任侠の世界で女が活躍する映画である。そうした戦略の中で生まれたのが『鬼龍院花子の生涯』をはじめ、宮尾登美子の小説を原作とする五社英雄の三部作(『鬼龍院花子の生涯』、『陽暉楼』[1983年]、『櫂』[1985年])であり、『極道の妻たち』であった。『極妻』はそうした戦略が最もデフォルメされた作品といえる。

■派手なアクションと過剰な暴力描写、そしてエロス――ケレン味あふれる五社英雄の作風

五社英雄ほど異例な経歴を持つ映画監督もいない。フジテレビに籍を置く社員でありながら、映画監督としてヒットを連発した。派手なアクションと過剰な暴力描写、そしてエロスを前面に押し出したケレン味あふれる作風が売りであった。

映画業界の中で大きな存在感を発揮していたが、プライベートの問題で転落する。妻が2億円の借金を作って家出。取り立てに来た金融業者をピストルで脅し(!)、それを通報され逮捕される。フジテレビを退職し、映像業界にも居場所を失う。

そんな五社に救いの手が差し伸べられ、監督を任された復活作が『鬼龍院花子の生涯』である。それまでの男のバイオレンス一辺倒だった作風はがらりと変わり、五社英雄は、女の情念を描く作家となっていた。この頃に五社は背中からお尻にかけて「鬼」の刺青を入れたという。

『極道の妻たち』は五社が監督した1作目以降、様々な監督によって10作品が制作され、大ヒットシリーズとなった。しかし、五社英雄の作品群の中で『極妻』はあまり重要視されていないようだ。デビュー当時の『御用金』『人斬り』(ともに1969年)、逮捕復活後ならば件の「宮尾登美子の三部作」が五社英雄の代表作品として数えられることが多い。

確かに『鬼龍院花子の生涯』は文芸作品でもあり重厚で格調高い。復活にかける五社英雄の情熱が画面からほとばしっている。それに比べて『極道の妻たち』は漫画だ。予定調和なストーリーが目立つ。リアリティーのない人物設定も気になる。しかし、私は『鬼龍院花子の生涯』よりも『極道の妻たち』の方がずっと好きだ。おもしろい。

「漫画である」と言うのは、腐すと同時に賞賛もしている。なんと言ってもリアリティーを超えた岩下志麻のキャラ立ちが素晴らしい。少しはだけて着付けた着物の胸元にプチネックレス、耳にはダイヤのピアス。妖気漂う冷たい美貌は人間離れしている。一人称が「アテ」のあのドスの効いた喋り方もはまっている。

■ツッコミどころはご愛敬! ユーモラスなアイデンティティーと絶妙のバランスを持った娯楽作

フィクションにおいてストーリー以上に、完成されたキャラクターを作り出すことは難しく思える。それは運や偶然の力をより多く必要とするからだ。その点において『極妻』は奇跡を起こしている。

予定調和なストーリーと安易な設定は、物語に軽妙なテンポをもたらしている。脚本は非常によく考えられていて、登場人物は無駄なく絡み合い、伏線となり意外な結果をもたらす。ツッコミどころ満載だが、それがご愛敬と感じられる、ユーモラスなアイデンティティーを作品自体が持っている。娯楽作品として絶妙のバランスがある。

『極道の妻たち』
価格:DVD 2800円+税
発売元:東映ビデオ
販売元:東映

私が最も「いいなー」と思ったところは、岩下志麻とかたせ梨乃の大乱闘シーンと、世良公則とかたせ梨乃のめちゃくちゃ濃厚なラブシーンが段積みとなっている構成だ。最後にあれだけ開放感を味わうと、もう全てが素晴らしかったように思える。そして最後の最後の「オチ」が観客の心臓を撃ち抜く。

五社英雄はテレビ界出身だったため、映画ジャーナリズムから完全に黙殺された。しかし、もし五社作品の中でもあまり重要視されていないこの『極道の妻たち』の10作品を全て五社英雄が監督し、さらにシリーズナンバーが増えていたら(五社が監督した1作目以降作品の人気は徐々に落ちていった)、五社英雄を無視することは難しくなったかもしれない。

最後に蛇足。五社英雄はラブシーンの演技指導では、自ら裸になり男役女役どちらも演じて見せたという。そのエピソードはあの全裸監督・村西とおると共通する。痩せていて知的な女性が好みのタイプであることも共通している。

文:椎名基樹

『極道の妻(おんな)たち』はhuluほか配信中

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