“母の執念”に全身硬直!『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』主演イ・ヨンエが『親切なクムジャさん』から14年ぶり映画復帰

“母の執念”に全身硬直!『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』主演イ・ヨンエが『親切なクムジャさん』から14年ぶり映画復帰
『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

■イ・ヨンエ、復活

最近は忙しい上に暑くて動けない。いい歳になったんで、外に出ることがためらわれる。映画評を書く者としては、そんなぐうたらな仕事ぶりだったのだが、『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』の案内をもらったときには、これだけは観に行くと即断した。イ・ヨンエの帰還である。『親切なクムジャさん』(2005年)に出演して以来、甘い結婚生活に溺れて、映画を振り返りもしなかった彼女が、14年ぶりに復帰したのである。

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偉そうにジャジャーン、みたいに書いたのだが、実は私は皆さんが夢中になった『宮廷女官 チャングムの誓い』(2003〜2004年)は観ていない。ドラマはハマると映画を観る、本を読む、泥酔する時間がなくなるのが難点なので、極力避けているからである。引退してからの楽しみに。

話を戻そう。イ・ヨンエは14年間、まったく仕事をしなかったわけではないが、映画は間違いなく14年ぶり。結婚して子育てに専念するといっても加減があるだろう。そこまでブランクあると復帰には躊躇うものではなかろうか。しかも、この衝撃的な作品は長編映画デビューとなるキム・スンウが12年前にあるきっかけから脚本を書き始め、それをイ・ヨンエが読んで、映画化が実現したという。力のある俳優はいい作品を引き当てる。たとえそれがこれまで実績のない監督の脚本であっても、ちゃんと判断ができるのである。よかったね、キム・スンウ監督、と喜んでいる場合ではない。そんなこと日本でありますかね。

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「イ・ヨンエが素晴らしかった」と友人に勧めたところ、「やっぱり綺麗だった?」とお決まりの質問が。「それはもう、若い頃のキラキラじゃなくて、歳を重ねてからの美しさは、私にはかけがいのない宝みたいなもんだね」と丁寧に話したのだが、「大倉さんはどうしようもない面食いですね」だって。そんなんじゃないんだけど。

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■えげつないまでの緊張感

登場する中年夫婦は仲が悪いということでもないが、話をしても互いに真剣に耳を傾けられないという、どこか虚ろな関係。いきなり息子が消えてから6年経つ。どれだけ必死に探しても確かな手がかりは得られない。寄せられる情報を手掛かりにどこへでも車を飛ばすが、微かな希望は失意に変わるだけ。もう疲れてしまった。でも、絶対に諦められない。

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どん底で苦しんでいる人間を笑う者もいる。そんな悪意に振り回され、夫は突然、事故死する。どこまでも突き落とす。しかし、その事故報道をきっかけに、ある村の巡査が「もしかしたらあの男の子では」と“余計なこと”に気がついてしまう。小さな村には揉めごとは必要ない。村の仕組みは出来上がっているのだから、くだらん妄想を膨らませるな、と上司から叱責を受ける。

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一人になったイ・ヨンエが演ずる母親は、夫がいなくなってもどこまでも息子を探し続ける。歪な形で伝わった「あなたの息子かも」という情報を得て、単身で田舎の怪しげな釣り場に乗り込む。何度も空回りしそうになるが、命をかけている母親は逆転を試みる。小さな言葉の衝突から事態はエスカレートしていく。

『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

この作品は息子を追い求める母親の凄まじいまでの執念を描いているのだが、そこに二重三重のサスペンスをまとわせ、観ている者も巻き添えにして、全身硬直状態にさせてしまう。最後の最後の本当の最後まで、どうなるのかわからない。これを観ないってどういう人なのかしら、とその人の映画人生を疑うくらいえげつないから是非ご覧くださいね。

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■世界中で子供が消えている

子供が誘拐され親が命がけで探し出す、という作品は世界中で製作されているが、なぜか私はアジアで作られたものが強く印象に残っている。

リーアム・ニーソンも娘を救出に向かうが、やたら悪い奴らを殺しまくるので、通常のアクション映画と大差なく感じるのだと思う。殺さないほうが怖いし、痺れるのにね。中国映画『最愛の子』(2014年 ※日本公開2016年)はサスペンスじゃないけど、観終わって数時間は頭抱えちゃったしな。

『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』© 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

世界中で消えている子供の数を知ると背筋が寒くなる。様々な統計の取り方があり、離婚した親による誘拐、自らの失踪等をどうするかで大きく数字は変わるが、中間あたりの数字を拾ってみると、ざっと以下の通り。いずれも1年間の統計。

アメリカ:46万人、イギリス:14万人、ドイツ:10万人、インド:7万人、韓国:3万人、日本:2万人(※19歳以下の数字、0歳から中学生まででは約5千人)

仔細に分析して、冷静な議論が必要だろうけれど、「子供は宝」のはずなのにこの現実を突きつけられると目眩がする。まず、この『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』を観てから考えましょう。

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11歳の妹は親の金欲しさに強制結婚させられた。僕は親を「生んだ罪」で告訴した… 虐待、移民、貧困を描く『存在のない子供たち』

文:大倉眞一郎

『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』は2020年9月18日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開

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