あの暗殺事件、どうなった?『わたしは金正男を殺してない』は国家レベルの陰謀渦巻く恐ろしいドキュメンタリー

あの暗殺事件、どうなった?『わたしは金正男を殺してない』は国家レベルの陰謀渦巻く恐ろしいドキュメンタリー
『わたしは金正男を殺してない』© Backstory, LLC. All Rights Reserved.

■“あの独裁国”の恐ろしさに改めてドン引き!

2017年にマレーシアの空港で起こった、ある暗殺事件を覚えているだろうか。朝鮮民主主義人民共和国=北朝鮮の第二代最高指導者だった金正日(キム・ジョンイル)の長男であり、現最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏が2人の女性によって毒殺された事件だ。当時、日本でも大々的に報道されたので記憶に新しいかと思うが、多くの人が忘れかけている、「そういえばあの事件どうなったの?」という疑問に答える衝撃のドキュメンタリー映画が『わたしは金正男を殺してない』である。

『わたしは金正男を殺してない』© Backstory, LLC. All Rights Reserved.

大勢の人が行き交うクアラルンプール国際空港で起こった真昼の凶行。事件当時は「北朝鮮の“美女暗殺部隊”が毒針を使って殺害」などとまことしやかに報じられたが、彼女たちの素性やその後の動向、行方などについて日本ではあまり報道されていないのではないだろうか。そして事件から約3年が経ったいま、このドキュメンタリー映画によって詳細が明かされることになるわけだが、多くの人が忘れかけていた事件だけに驚きのデカさもハンパじゃない、ドン引き必至の内容だ。

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■どう見ても犯人じゃない!? 素人感丸出しの容疑者たちの悲痛な叫び

本作のカメラが追うのは暗殺事件の実行犯であるシティ・アイシャと、ドアン・ティ・フォンという二人の若い女性。そして事件の真相を追っていたマレーシアの記者やワシントン・ポストの記者、彼女たちの弁護士、さらに家族や友人などなど、数々の関係者からの証言で構成されている。実際の監視カメラ映像やスマホカメラで撮影されたであろうプライベート映像は生々しく、滑稽にすら映る彼女たちの姿から、本当に何も知らない一般人であったことが伺い知れる。マレーシアで有罪となったら即死刑の重大事件にもかかわらず、その実行犯であるはずの彼女たちの素人丸出し感は容疑者としての説得力に欠けまくるのだ。

『わたしは金正男を殺してない』© Backstory, LLC. All Rights Reserved.

大学も出たが就職できずパブで働いたりモデルまがいのことをしていたドアンと、貧しさゆえに出稼ぎ先のマレーシアで性風俗業界に足を踏み入れていたシティという、国も背景も異なる二人。お互いに面識もなく、当然ながら自分たちが使用した液体が神経剤VX(オウム真理教も使用した猛毒性の化学物質)だったということも知らなかっただろう。過激な犯行と相反するドアンの“LOL(爆笑)”Tシャツも、その理由を知ると笑えないどころか頭を抱えてしまうレベルで……。

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■国家レベルの陰謀にも性搾取の構図……他人事では済まされない闇の深さに言葉を失う

若い女性たちの自意識や貧しさを利用し、「日本のイタズラ動画の撮影」などという名目で近づいた工作員たちの非道。ささやかな夢を追っていた女性たちが文字通り“搾取”されたという事実に憤りを覚えるが、二人がSNSに親しんでいる若者だったおかげで北朝鮮の関与を裏付けるような証拠が大量に残っていたことは不幸中の幸いか……。工作員たちは日本の“豊かなアジアの大国”というイメージを利用して二人を勧誘していたりして、この国でもいまだに性搾取が横行していることもあり、なんだか罪悪感というか他人事ではないような気がしてくる。

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『わたしは金正男を殺してない』© Backstory, LLC. All Rights Reserved.

実の叔父までも手にかけるなど恐怖政治を敷いてきた正恩だけに、かねてから独裁体制に否定的で「世襲が3代続くことは恥」などとメディアに語っていた正男を“粛正”しようとしていたことは想像に難くない。後継者問題だけではない正男殺害の動機も見当がついているが、そのあたりの事実関係も改めて知ることができる。シティとドアンそれぞれの母国、そして北朝鮮とマレーシアとの関係など、国家レベルの思惑が絡み合うこの事件について本作が“一段落”つけることができるのか、ぜひ実際に観て確認してほしい。

『わたしは金正男を殺してない』は2020年10月10日(土)よりシアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

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