撃墜されたクリスチャン・ベイル! 虫を食べてでも生き延びろ!!『戦場からの脱出』は栄養失調ベイルの熱演が光る実話ベースの戦争映画

撃墜されたクリスチャン・ベイル! 虫を食べてでも生き延びろ!!『戦場からの脱出』は栄養失調ベイルの熱演が光る実話ベースの戦争映画
『戦場からの脱出』©2006TOP GUN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

■肉体改造俳優クリスチャン・ベイル

ドクターストップがかかるまで痩せ細った(『マニシスト』[2004年])かと思えば、デップリ太ってチェイニー副大統領になりきった『バイス』(2018年)など、役作りのため自分の身体を改造してしまう役者バカ(褒め言葉)、クリスチャン・ベイル。外見だけでなく、『荒野の誓い』(2017年)や『フォードvsフェラーリ』(2019年)などにおける、キャラクターの内面にまで迫る演技でも高く評価されています。

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そんなクリスチャン・ベイルがベトナム戦争で共産軍の捕虜になり、栄養失調で痩せこけていくアメリカ軍パイロットを熱演したのが、実話ベースの『戦場からの脱出』(2006年)です。日本ではDVDスルーとなってしまいましたが、史実ネタや人間模様が凝縮された力作だと思います。

※注意:記事本文で物語の内容に一部触れています。

■秘密の爆撃

舞台は、アメリカ軍が本格的にベトナム地上戦に加わり始めた1965年です。北ベトナム(当時)が南ベトナム領域のNLF(民族解放戦線。通称「ベトコン」)に物資を送る、ホーチミン・ルートと呼ばれる補給路網を破壊するためアメリカ海軍の空母から、A-1スカイレイダー攻撃機が発進します。

A-1スカイレイダーは、太平洋戦争中に開発されたガソリンエンジンのプロペラ機というロートル機ながら、頑丈な機体と強力な搭載兵装、そして優れた操縦性に長航続距離と三拍子も四拍子も揃った傑作機で、ベトナム戦中に再生産の話も出たほどです。

パイロットからも信頼されていた、A-1スカイレイダー艦上攻撃機(写真:U.S.Navy)

閑話休題。この任務は「秘密作戦」でした。というのもホーチミン・ルートは、南北ベトナムの西に位置するラオスとカンボジアを通っており(両国の政情混乱に乗じて北ベトナムが勝手に補給路を作った)、いかなアメリカといえども当時は交戦状態にない国を公(おおやけ)に爆撃できなかったからです。ちなみに『グラントリノ』(2008年)でクリント・イーストウッド演じる偏屈老人の周囲に住んでいるのは、ベトナム戦争時にアメリカ軍に協力していたラオス地域の山岳民族モン族の人々という設定でした。

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■緑の牢獄

クリスチャン・ベイル演じるディーター・デングラーは、これが初出撃。ところが目標を5インチ・ロケット弾で攻撃(この描写がしょぼくてちょっと残念)した直後に対空砲火で撃墜され、ラオス共産軍の捕虜になってしまいます。

ここからいよいよ物語が動き始めます。捕虜になったデングラーは執拗な尋問を受けた末に収容所に送り込まれるのですが、そこは我々が想像する刑務所や収容所などとはかけ離れた、険しい岩山とジャングルに取り囲まれた“緑の牢獄”でした。

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なにしろ火起こしは摩擦式、1本の釘も貴重品という石器時代のような場所です。そしてそこには、やはり撃墜されたエア・アメリカの乗員たちがゾンビのような姿で囚われていました。エア・アメリカとはCIAがラオス地域で秘密活動をするために作ったダミー会社で、メル・ギブソンとロバート・ダウニー・Jr主演の『エア★アメリカ』(1990年)のネタにもなっています。

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ペーソス感すら滲む悲惨な環境のなかで、虫の幼虫を分け食べて励まし合う捕虜同士の連帯、それが脱走と同時に分裂し孤立していく諸行無常、文明を拒絶するかのように立ちふさがるジャングル、そして航空隊の仲間たちによるデングラー“奪回作戦”の痛快なラストまでを、ぜひお楽しみください。

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■機銃掃射の少年

捕虜になったあたりで、主人公の複雑な来歴が明かされていきます。ディーター・デングラーは第二次世界大戦後にアメリカに移民したドイツ人で、戦中に自分を機銃掃射してきたアメリカ軍戦闘機に魅せられてパイロットを目指した人物だったのです。

『戦場からの脱出』©2006TOP GUN PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ちょっと不思議な心情ですが、空を駆ける“戦闘機”は少年にそれだけ強烈な印象を残した、ということなのでしょう。筆者の父親は熊本県出身ですが、1945年の初夏に水田の草取りをしていたところをP-38戦闘機に機銃掃射で追い掛けまわされて死にかけました。その経験を「P-38という、梯子(ハシゴ)のような戦闘機がグワーっと……」とノリノリで話してくれたものです。

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P-38戦闘機。日本軍パイロットは「(干物の)目刺」、ドイツ軍パイロットは「双胴の悪魔」と呼んでいた(写真:U.S.A.F.)

実はヴェルナー・ヘルツォーク監督は1997年に、この題材でTVドキュメンタリー映画『Little Dieter Needs to Fly(原題)』を制作していて、この作品はディーター・デングラーについて二度目の映像作品なのです。

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ヘルツォーク監督としては、自身の代表作にして怪作『アギーレ/神の怒り』(1972年)にも似た、濃密なジャングルに呑み込まれそうになりながらも運命に立ち向かったデングラーの姿に、なにか惹かれるものがあったのかもしれません。小品ながらお薦めの1本です。

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文:大久保義信

『戦場からの脱出』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年1月放送

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