「マチネの終わりに」がCDに 平野啓一郎作品、異色のコラボ

「マチネの終わりに」がCDに 平野啓一郎作品、異色のコラボ

「マチネの終わりに」の著者・平野啓一郎

 芥川賞作家の平野啓一郎(41)が大人の恋愛を描いた「マチネの終わりに」(毎日新聞出版)とタイアップしたCD「マチネの終わりに」が19日、発売された。クラシックギタリストの蒔野(まきの)聡史(38)と、フランスの通信社に勤める記者、小峰洋子(40)との出会いやすれ違いを描いた全9章には、蒔野の演奏シーンが数多く登場する。曲を動画サイトなどで探し、聴きながら読んでいるという読者の声から、「1枚のCDにして小説とギターファンに楽しんでほしい」と平野と、蒔野のモデルとして平野から取材を受けたギタリストの福田進一(60)が企画。福田が演奏し、異色のコラボ作品に仕上がった。

 収録したのは、蒔野と洋子が初めて言葉を交わした2006年の秋に演奏したホアキン・ロドリーゴの「アランフェス協奏曲より U.アダージョ」、紛争下のイラクでテロに巻き込まれた洋子が、心を癒やすために聴いたバッハの「無伴奏チェロ組曲第3番BWV1009よりI.プレリュード」など、各場面が浮かぶ14曲。

 小説の中で唯一、架空の曲だった「幸福の硬貨」は作曲家の林そよか(27)が平野のイメージを元に書き下ろした。この曲は蒔野にとって、ギターを本当に好きになったきっかけ、洋子にとっては父が監督を務めた映画の主題歌という大切なもので小説に幾度か登場する。

 たった3度しか会ったことのない二人だが、5年半、互いに思い続けた。人生の中で最も深く心にあった人に愛を込めた楽曲は、物語の中で光り輝く存在でもある。
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 小説の主軸は恋愛だが、リーマン・ショック、東日本大震災など、現実世界の出来事が張り巡らされている。

 イラクでテロを経験した洋子が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症後、「自分がどういう考えの人間に共感するのか。今後の人生をそうした人と過ごしたい」という思いに至る。

 〈人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです〉

 何げないはずだった過去の思い出が突然自分を苦しめることになったり、逆に救いになったりすることがある。蒔野の言葉は多くの人の共感を集めた。

 「人としてどう生きるのかを考えさせられ、ページをめくる手が止まった」。熟年層を中心とする読者から熱烈な声が上がり、小説は発売から約5カ月で4万5千部(電子版含む)を売り上げるベストセラーとなっている。
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 京都大学在学中、軽音楽サークルに在籍していた平野は、ロックからクラシックまで音楽に造詣が深い。福田とは13年ほど前にスウェーデンで開かれた日本の音楽文化を現地に紹介するイベントで出会って以来の縁だ。今回執筆中、福田の助言で新しいクラシックギターを購入した。執筆の合間に息抜きとして触っていたが、「だんだん演奏時間の方が長くなって、仕事に差し障りがあるぐらい弾いていたので(ギターを)仕事部屋から隔離した」と言う。

 一方の福田は出来上がった小説に目を通し、「僕がしていないのは、ジャーナリストとの恋だけ。朝3時ごろまで飲んだときに話したこともしっかり書かれていた」と作家としての平野の仕事ぶりに驚いた。

 CD発売後の11月2日には、そうした平野と福田がともに登場する無料のトークショーを、東京都世田谷区の二子玉川蔦屋家電、2階ラウンジで午後7時から行う。平野の朗読や福田のギター演奏も予定されているという。