ブームではなくムーブメントに コロナ禍で加速するアナログレコード需要

ブームではなくムーブメントに コロナ禍で加速するアナログレコード需要

今年の「レコードの日」アンバサダーを務めた竹内まりや

国内最大級のアナログレコードの祭典「レコードの日」。7年目を迎えた今年は、恒例の11月3日に、11月27日も加えた初の2日間での開催となった。今年のアンバサダーは、近年の世界的なシティ・ポップ人気を象徴する竹内まりやが務めている。

■7年目を迎えた「レコードの日」リリース数は初年度の2倍強に発展

 「アナログレコードの魅力をひとりでも多くの方に知ってほしい」という思いから、2015年に国内随一のアナログレコードプレスメーカー・東洋化成の旗振りで始まった「レコードの日」。国内アーティストの新譜や過去の名盤がアナログレコードとして一斉に発売されるイベントで、今年は3日に74タイトル、27日に74タイトルの全148タイトルを発売。ちなみに初年度の発売数は65タイトルだった。

「分散開催にした理由は、コロナ禍ということでレコードショップの密を避ける意図もありました。また、全国どこからでもアナログレコードの魅力に触れていただけるよう、商品の事前予約やオンライン販売の制限は設けていないのも特徴です」(東洋化成営業本部長・本根誠氏/以下同)

 アナログレコードの人気再燃と言われて久しいが、コロナ禍でさらに需要が加速しているようだ。RIAA(アメリカレコード協会)の報告書によると、2021年上半期のアナログレコードの売上は前年比94%増と大きく伸長。フィジカル全体の売上の3分の2以上を占めている。

 日本もまた同様の状況で、アナログレコードの売上規模は表のように年々伸長を続けている。最近ではこんな記録も生まれた。11月3日のレコードの日に発売された竹内まりやの「PLASTIC LOVE」が、11月15日付のオリコン週間シングルランキングで5位(週間売上1.4万枚)にランクインしたのだ。同作は、85年発表の12インチ・シングル「PLASTIC LOVE」を36年ぶりにアナログ盤として発売したもので、アナログ盤のみの発売で同ランキングにTOP10入りするのは極めて珍しいケースとなる。同じくアナログ盤で発売された「プラスティック・ラブ」収録のアルバム『VARIETY』も同日付の週間アルバムランキングで6位を記録したのも、昨今のアナログ人気の一端を示していると言えるだろう。

■良好な共存関係にあるストリーミングとアナログレコード

 東洋化成のプレス工場も年々増え続ける受注にフル稼働で対応している。今年の「レコードの日」を2日間の分散開催とした理由も、2回に分けなければイベント当日に納入が間に合わないという事情もあったようだ。

 1959年創業の東洋化成はCDの登場により次々とレコード工場が閉鎖する中、「モノではなく文化と価値を作り続ける」という気概から事業を継続。一時期は「日本最後」かつ「アジア唯一」のアナログレコード製造会社として需要に応え続けてきた。そして「レコードの日」が始まった15年、アップルが定額制の音楽ストリーミング配信サービス「Apple Music」を日本で開始している。

 安価かつ手軽に豊富な音楽に触れられるストリーミングサービスの普及と足並みを揃えるように、それとは真逆な特性を持つアナログレコードが売上を伸ばし続けているのはなぜか。

「ストリーミングとアナログレコードは、実はとても良好な共存関係にあります。たとえばSpotifyのイチ推しで紹介されたアーティストはアナログの売れ行きもとてもいいのです。ストリーミングによって音楽に触れる物量もスピード感も上がったからこそ、“これぞ”というアイテムはアナログという付加価値のある形で手元に置いておきたい。そんな取捨選択をするユーザーが増えているように思います」

 購入層は従来のコアなファンである50代以上の男性層に加えて、近年は若者や30〜40代女性も目立ってきているという。

「たとえばガーデニングやアウトドア、自転車…そういった大量消費ではなく生活を豊かにする価値観の1つにアナログレコードがジワジワと加わり始めていました。その矢先のコロナ禍で、おうち時間の充実を求める人の増加により、アナログレコードの需要はますます伸びています」

 社会の変化に伴う人々の行動や価値観の変容が後押しする形で、今また熱い視線が注がれているアナログレコードだが、もちろん東洋化成も普及に向けて、これまでさまざまな施策を行ってきた。同社のディストリビューション部門では、レコードショップだけでなく、アパレルやカフェ、雑貨店などにもアナログレコードを流通させて、タッチポイントを広げている。そういった地道な展開も、現在の「アナログレコード=生活を彩るオシャレなアイテム」というムードに繋がっているのは確かと言えるだろう。

■品質と価値にこだわる東洋化成のものづくり

 15年の「レコードの日」の立ち上げにあたって、本根氏はビクターエンタテインメント「SPEEDSTAR RECORDS」創設者・高垣健氏に相談を仰いだという。

「そのときに高垣さんに言われた『懐かしのアイテムを売るんじゃなくて、アナログレコードという新人を育てるつもりでやってごらん』という言葉で、いきなりこのイベントの本質が見えました。アナログレコードをブームとして位置付けるのではなく、ムーブメントとして訴求するのが『レコードの日』というイベントの目的です」

 昨今はハイエンドのレコードプレイヤーの売れ行きも好調で、「あえてアナログレコードを選択する」という価値観を持った人は確実に増えている。東洋化成の20年3月決算におけるアナログレコードの生産数は過去10年最多となったが、今年度はさらに大幅に記録を更新する見通しだ。

「とは言え、要請があればそれだけどんどん増産できるかというと、そうもいかないのがアナログレコードの難しいところです。特に当社はカッティングやプレスに携わる技術者の腕の高さで存続してきた会社です。安価で早いプレス工場が海外で増えている今、品質を守りつつ、その価値をいかに発注側に伝えていくかという時期に来ているように感じています」

 増え続ける受注に応えるべく、数年前には工場を増床。現在も市況に合わせ、さらに環境を拡充する検討を行っている。しかしアナログレコードはモノである以上に「文化」としての側面が大きい。現在の盛り上がりを一過性のブームで終わらせないためにも、これからも東洋化成の品質と価値にこだわったものづくりに期待したい。

文・児玉澄子

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