King Gnu初ライブ配信 ほとばしるエナジーとバンド哲学

King Gnu初ライブ配信 ほとばしるエナジーとバンド哲学

ミステリアスな宴をのぞき見する快感『King Gnu Streaming Live』(撮影:Kosuke Ito)

例年とは違う夏が終わりを告げようとしていた8月30日、有料ライブ動画配信サービス「Stagecrowd(ステージクラウド)」で『King Gnu Streaming Live』が配信された。これはKing Gnu初となる配信ライブであり、オリコン2020年上半期合算アルバムランキングで1位に輝いた『CEREMONY』リリース後、初めてとなる彼らのワンマンライブであった。事前にライブパフォーマンスを収録し、編集とMA(マスタリング)を行った映像を配信するといった形態がとられていたため、映像とサウンドがしっかりと作り込まれており、1つのKing Gnu作品として彼らの世界にどっぷりと入り込める工夫が為されていた。

 なお、常田大希(Gt/Vo)のインスタグラムを見ると、収録は8月14日頃に行われた模様。そこから約2週間で仕上げられた映像は、きれいに磨き上げるというよりも、どこかザラザラとした肌触りを感じさせるものとなっており、これもまたKing Gnuのダークヒーロー的な質感を際立たせる格好の演出だったと言えよう。

■ミステリアスな宴を覗き見するような画面演出

 肝心のライブは、定刻20時にオンタイムでスタート。夜の通りを歩く目線の映像から始まり、その歩みが進む先はライブハウスの中。こうしたストーリー展開によって、視聴者の感情は自然とライブモードにシフトしていく。すると映像は、スタンバイを始めるメンバーへと切り替わり、画面全体にライブタイトルが映し出されると、一気にテンションを引き上げてくれる「Flash!!!」で幕を開けた。

 ここで目を見張ったのは、そのシチュエーションだ。メンバー4人は、光るバンド・ロゴのモニュメントを中心に向かい合い、その周囲を、通常は天井に吊るされている照明トラスが無機質に取り囲み、閉鎖的な空間を作り上げている。対して、各人の足元に敷かれていた絨毯(じゅうたん)が、どこか有機的に感じられるから不思議だ。その様子は、まるで地下室、あるいは廃墟の中といった雰囲気で、そこでこっそりと、しかし華々しく行われているミステリアスな宴をのぞき見しているかのような感覚にとらわれていった。

 対面スタイルでのパフォーマンスのため、4人は必然的に、お互いに視線を送りながらプレイすることになる。すると、通常のライブならばバンドの外側(=観客)に向けて放たれるエネルギーが、ここではバンドの内側へと注入されていき、それによって演奏のエナジーが渦を巻くように高まっていく。その様子を画面越しに観て感じたものは、開放されるというよりも、圧迫されるような快感であった。

■ “フロント”の概念をなくし、リアルな目線を際立たせたカメラワーク

 そんな中で目を引く映像表現が2つあった。1つは、空間から前後左右の概念を排除した演出。もう1つが、ボーカルを担う常田と井口理(Vo/Key)の目線を際立たせたカメラワークだ。

 まず、空間の演出について考えてみよう。メンバー同士が向かい合って演奏するといったシーンは、他の配信ライブでもよく見られるものであり、決して珍しいものではない。しかし多くの場合、メンバーが円陣を組むように並んでいたとしても、ある方向にカメラが集中的に配置されることで、どうしてもステージに前後左右の位置関係が生まれてしまう。

 ところが今回は、向かい合う4人の背景はまったく同一に作られており、外側のカメラがあらゆる方向から内側を狙うことで前後左右の概念を消し去り、結果、勢喜遊(Dr/Sampler)と新井和輝(Ba)も含めた“4人全員がフロントマンである”という、King Gnuのバンド哲学を表現するかのような映像を作り上げていた(唯一、「The hole」のみ井口が外側を向いて歌ったことで、その瞬間だけ、3人の演奏をバックに井口が歌うといったシーンが生まれ、これがライブの中で新鮮な刺激を与えてくれた)。

■ 画面に映り込むカメラマンの動きも演出の一部

 さらに特徴的だったのが、メンバーそれぞれにカメラマンを当てがい、常に4人の傍らで演奏中の表情を追っていたことだった。特にボーカルの常田と井口に関しては、ほぼ真正面から表情を狙うことで、“目は口ほどに物を言う”ということわざのとおり、感情の高ぶりや緊張感、メンバー同士のアイコンタクト、そして、観客のリアクションがない状況への戸惑いや、テンションのわずかなゆらぎまでもが、画面越しにも関わらず、手に取るように伝わってきた。

 目線が泳ぐような場面は、ネガティブに捉えれば編集段階でカットすることもできただろう。しかし、そこも含めてライブをリアルに見せることで、収録による配信でも十分にライブ感を伝えることに成功していた。このことは、「配信は生ライブだからこそ面白い」という流れに一石を投じるに値するものであった。
 加えて、メンバーの正面から撮影するということは、当然、そのカメラマンは他のカメラアングルに映り込んでしまう。しかし、こうしたカメラマンの動きさえも、舞台の“黒子”のようにあえて見せるという演出も、King Gnuの魅力的な悪童感を印象付けるために一役買っていた。

■アーティストの個性を活かす新しい配信サービス「Stagecrowd」

 ライブを堪能した後は、メンバーがアーカイブ映像を観ながらトークを行うという企画を続けて配信。このチケットは、ライブ本編のチケット購入者のみが購入可能となっており、内容的にもシステム的にも、配信ならではの実に興味深い試みであった。そのトークの中身は、この4人ならではの笑いに満ちた賑やかなものだったが、そんななかにも、ライブ中に感じたことやプレイ時の意識、あるいは過去のエピソードなどが随所に語られ、メンバー同士だからこその、他では聞けないトークが展開された。こうしたアフタートーク的な配信は、バンドやアーティストのキャラクターによってざまざまなアプローチが考えられるだろう。これを配信ライブの付加価値としてプラスしていくという考え方は、リアルな有観客ライブ、あるはライブBlu-ray Disc/DVD作品とは異なるエンタテインメントとして配信ライブを成立させるための、1つのヒントになりそうだ。

 このリアルタイム・ライブコメンタリー配信を含め、今回の『King Gnu Streaming Live』には、ライブ動画配信サービス「Stagecrowd」が使用された。これは、ソニー・ミュージックソリューションズが今年6月29日にスタートさせたもので、チケット販売からステージ制作や運営、グッズ制作、Eコマースとの連携などの多彩な特色を持ったサービスなのだが、一番の注目ポイントは、アーティストごとにオリジナル性の高い動画配信サイトを構築できる点にありそうだ。

■ 配信サービス側の技術力とアーティスト側のユニークな発想の融合がライブ配信の可能性を拡大

 なお、肝となる映像クオリティは、高画質(フルHD1080p)、高音質(192kbps/設定によりさらに高音質での配信も可能)。このクオリティは、世界的配信プラットフォーム「Brightcove(ブライトコーブ)」の採用により実現されており、さらに同時配信数に上限がないという同プラットフォームの特長によって、配信中にサーバーが落ちてしまう心配がない。これは、配信者側、視聴者側の双方にとって、とても大きなアドバンテージになりそうだ。

 同サービスは、年内にすでに100件以上の配信を予定しているという。今後もインタラクティブ機能やマルチアングル機能、投げ銭機能の搭載が予定されており、海外向け配信への対応も意欲的だ。こうした配信サービス側の技術力と、アーティスト側のユニークな発想が上手く融合し、新たな機能が実装されていけば、配信ライブの可能性も、今まで以上に大きく膨らんでいくことだろう。
(文・布施雄一郎)

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