立川吉笑 元の設定の不条理さを一層推し進めた『あたま山』

立川吉笑 元の設定の不条理さを一層推し進めた『あたま山』

立川吉笑の魅力を解説

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、ロジカルな新作落語で知られる立川吉笑による、不条理さを推し進めた『あたま山』の魅力について解説する。

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 立川談笑の一番弟子、立川吉笑。二ツ目ながら、彼の活躍ぶりは立川流の若手の中でも際立っている。元気な「談志の孫弟子世代」を代表する演者だ。数学的発想と言葉遊びを特徴とする彼の「ロジカルな新作落語」の魅力は他に類を見ない。

「笑いを表現する大衆芸能」としての落語をテクニカルに分析してみせた著書『現在落語論』で、吉笑は落語の最大の強みとして「不条理な空間を描いた笑いを表現するのに適している」ことを挙げている。その吉笑が6月2日、不条理落語『あたま山』をネタ出しして渋谷ユーロライブで独演会を行なった。

 1席目は『蹴球部』。渋谷大学蹴球部の主将が「うちはゴールキーパーの俺が無失点で守りきって勝つ部なので『捕球部』と改名する」と言い出し、他の部員たちの試合中の動作を数値化して彼らがいかに「蹴ってない」かを証明、反論を封じる。数の論理を弄ぶ吉笑らしい小品だ。

 2席目が『あたま山』。徳さんという男がご隠居のところを訪ねて「さくらんぼの種を飲んだら頭の上に桜が生えた」と訴える。この桜が大木に成長して、頭の上は花見客でごった返す。そこは古典のままだが、ここから吉笑独自の展開に。

 あたま山を歩いていた男が、別の男に激しく突き飛ばされた。懐を探ると財布がない。「スリだ!」と思うが「待てよ、そんなわけないな」と思い返す。「いや、やっぱりスリだ」「いや違う」という自問自答の堂々巡りの挙句、「履き慣れない雪駄で追いかけるにはどうするか」を様々なパターンで検証し始めて一向に先に進まない。これは『八五郎方向転換』という吉笑の新作だ。

 ここまでを『あたま山・前半』とし、休憩を挟んで『あたま山・後半』へ。あたま山には寄席まで出来た。2人連れが寄席に行くと、噺家がこの日の自分たちの行動を落語として語り始めた。落語の中の2人が寄席に行くと、噺家がまた「落語の中の自分たち」のことを話し始める。「落語の中の落語の中の落語の中の落語の中の……」という無限ループ。廃業した立川春吾から吉笑が受け継いだ新作『明晰夢』である。

 頭の上の連中の騒がしさに嫌気が差した徳さんは桜の枝に首をくくって死のうとするが、「勝手に死ぬんじゃない」と下から声が。徳さんは別の男の「あたま町」の住人だったのだ。だが「あたま町」は別の男の「あたま列島」の上にあった……。

 新作2席を織り交ぜた吉笑版の『あたま山』。元の設定の不条理さを一層推し進めて聴き応えのある作品になった。さすがである。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2018年8月17・24日号

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