パニック障害を乗り越え気象予報士に。小林正寿が本当に伝えたいこと

NHK朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』でも注目の気象予報士。

合格率5%という超難関の資格ですが、現在『ZIP!』でお天気キャスターを務める小林正寿さんは、その爽やかな笑顔の裏にグレた高校時代、そしてパニック障害で苦しんだ過去があったことを明かします。

小林正寿

気象予報士

1988年9月22日生まれ、茨城県出身。専修大学卒業後、2012年に気象予報士となる。2013年からウェザーマップに所属し、お天気キャスターとして、「TBSニュースバード」や「ひるおび!」、「ZIP!」などに出演。目標は、日本一思いやりのある気象予報士。

天気予報は原稿のない「物語」

1日の流れは、午前0時に起きて筋トレとストレッチ。2時に局に入って、気象庁発行の天気図を読み解き、数字や記号を頭の中で「空」に変換して、今日はどういう物語になるんだろう?と思い描きます。

右手を前に出す小林正寿さん

3時からディレクターと打ち合わせ、3時半までに天気図にのせるCGを発注、4時までに着替えとメイク。

最終的な打ち合わせをしつつ、天気の現況も把握した後、5時半からリハーサルをして本番に臨みます。

僕の場合、原稿は用意せず、頭の中に入れた「空」を尺に合わせて喋っていく。

笑顔の小林正寿さん

本番中に尺が変わることもよくあるし、間違った画面が出ることもあります。

臨機応変に対応するためにも、視聴者が見る画面と同じものを見ながら、長編物語にするのか、短編物語にするのか、考えながら喋っています。

高校時代の口癖は「どうせ」

気象予報士の勉強を本格的にはじめたのは、大学の卒業直前でした。

そういう職業があることを知ったのは、中学生時代。野球部だったんですが、ある冬の朝にテレビで見た予報が「雪」だったので、練習がなくなるかと思って部員に教えたら、実際は晴れ。

以来“デマ”というあだ名がついてしまって……。それがきっかけで、気象予報士に興味を持ったんです。

過去を思い出しながら話す小林正寿さん

ただ、その時も高校時代も気象予報士になりたいとまでは思っていません。

むしろ、高校時代は荒れちゃったんです。反抗期で、野球も勉強もやる意味がわからなくなって、口癖は「どうせ」。野球もやめて、当然成績はビリ。どうせやったって仕方ない、というのが決まり文句でした。

中学までは、特に何もしなくてもスポーツも勉強もできていたんです。高校では、やってもないのに自分は何もできなくなったと錯覚していました。

笑顔で質問に答える小林正寿さん

でもうちの高校の野球部、僕が3年生の時に初めて県の決勝に行ったんです。あと一つで甲子園。野球やっときゃよかったなって(笑)。

あの頃って、人生一度きりって思わないんですよね。

大学生でパニック障害を発症

周囲に流されて行った大学は、文学部環境地理学科。幼稚園の頃から地図好きで、親からもらった全国版・関東版・茨城版の道路地図を毎日見ているほど。地理は唯一の得意教科でした。

ただ、高校時代からの自分に自信がない状態を引きずっていて、自己嫌悪に陥って…。自分は何をやっているんだろう、という気持ちは拭えないまま。サークルにも入らず、昼に帰ってはゲームをする日々。

パニック障害を発症したのがこの頃です。

真剣な表情の小林正寿さん

僕のいちばんの症状は、会食恐怖症でした。残さず全部食べなきゃいけないという強迫観念で、人とご飯を食べられない。

常に忙しいフリをして、誘われないための術を磨きました。でも、本当は断りたくない。友達と距離ができるのが申し訳なくて、キツかったです。

ひじをつき、前を向く小林正寿さん

大学1年生の時に、なんとなく気象予報士試験用の参考書は買っていたものの、1ページで放置。すっかりやらない癖がついていました。

一方で教員免許は取っていたので、採用試験を受けるも不合格。これはヤバい、とようやく焦りました。

親が会社員ではないこともあって、元々自分が一般企業に就職するイメージはなく、教員、公務員……と考えていた時に、ふと気象予報士が浮かんだんです。

笑顔を見せる小林正寿さん

その時、今まで人生で頑張ったことが一つもなかったから、一回ぐらい戦ってみようと決意しました。

教員採用、公務員、気象予報士の3つ試験のうち、いちばん最初に受かったところで働こうと決めて、1日15時間の猛勉強。これで最後にしようと思ったとき、気象予報士に試験合格しました。

パニック障害の克服は「グラデーション」

病院には、社会人になってから、ようやく行きました。

24歳で気象予報士になって、気象キャスターのオーディションの話を頂いたんですが、テレビに出演するのは、あと20〜30年くらい経っておじさんになってからだと思っていたんです。パニック障害の症状に少し不安があったこともあり一旦はお断りしました。

でも、もう一度打診をいただき、出演が決まって。

ライター越しの小林正寿さん

その後、森田正光さん(ウェザーマップの創業者であり会長)恒例の“カレーの会”?では症状が出ないかと不安やプレッシャーを感じていましたが、もっとプレッシャーのかかるはずのテレビ出演の本番では全然緊張しないんです。

もともと、生放送向きの体だったのかもしれません。生放送より、当時のカレーの会の方が緊張しました(笑)。

最初のうちは不安もありましたが、生放送でパニック障害が出たことはありません。

笑顔の小林正寿さん

昔から積極的に前に出るタイプではないんですが、表現することや人にものを教えるのも好きでしたね。

そういえば、本当に偶然なんですけど、幼稚園のお遊戯発表会の演目が「お天気ボーイズ」というテーマでした。しかもいろんな役があるなか、僕は“曇り”。我ながら地味ですよね(笑)。

小林正寿さんの子どものころお遊戯会の写真

今、パニック障害の症状は全くありません。

パニック障害って、なる時も治る時もいつの間にかで、入り口も出口もわからないグラデーション。だから、「治す」ことを意識しすぎなくていい。

そして僕の結論なんですけど、暇になると、余計なことやネガティブなことを考えるので、暇になっちゃいけない。今は仕事で忙しいんですけど、充実しています。

夢は見つけなくていい

今の目標は、息の長いお天気キャスターでいたいということ。実は過去2回、辞めようかと考えたことがあるんです。

左を向く小林正寿さん

1回目は、気象予報士になりたての頃。仕事は週に1回だけで、生活できるのかなと不安になって。この資格って、直接は仕事に結びつかないんですよね。

気象予報士を目指すと決めた時、それを全く考えていなかった。資格を取るだけでは食えないのを知っていたら躊躇していたと思います。今思えば、なんて恐ろしいことをしていたんだろう……。

小林正寿さんの横顔

2回目は30歳になる年。レギュラーが欲しいと考えていたけど、なかなかオーディションがなくて。そんな時にやってきたのが、『ZIP!』でした。

そこで受かっていなかったら、僕はやめていたかもしれません。

笑顔の小林正寿さん

もし、今夢があるならそれに向けて頑張ればいいし、ないんだったら、できた時のために準備しておく。準備とは、勉強でも運動でも遊びでも、いろんな経験をすることです。そうしたら、そのうち夢がついてくる。

夢は、無理やり見つけなくていいんです。

また、何かをはじめたらやめるのはダメみたいに言われるけど、僕はやめてもいいと思っています。限られた人生の時間、合わないと思ったら、次の道にチャレンジすべき。

とりあえず動く、すぐ行動するというのが大事じゃないかな。

右手で指さす小林正寿さん

自分の人生を天気に例えるなら、春の天気でしょうか。

春って、天気が変わりやすい。低気圧と高気圧が交互にやってくるから晴れになったり、雨が降ったり、気温も変わる。春一番が吹くとポカポカになるけど、その後寒の戻りで急に寒くなったり……。

あがるということは、絶対落ちるということ。それを自分でちゃんと知っておくのは大切です。
僕は一回すごく落ちたので、それが今度いつ来てもいいように心の準備はできている。「あ、このターンか」と受け止められる気がします。

ジェスチャーをする小林正寿さん

「止まない雨はない」という表現があります。

人生の“雨”が降っている間、僕は腐るばかりで、上手に雨宿りできなかった。それは、頑張って何かを乗り越えたことがなかったからです。

今なら、気象予報士試験に受かったとか、パニック障害を克服したといった経験があるので、あれを乗り越えたんだから何があっても大丈夫だと思える。

自分が頑張ったことを思い出せるのは大事なことで、そのためにもいろいろなことを経験しておくといいかなと思います。

いのちを守る気象予報士に

印象的な天気は2013年の竜巻の現場……。衝撃的でした。

正直、気象予報士って予報を当てる職業だと思っていたんです。?でも、実際現場に入ったら、いのちに関わってくる職業であることを痛感しました。

真剣な表情の小林正寿さん

僕は「思いやりのある気象予報士」を目標に掲げていて、単なる予報、「今日は雨が降るでしょう」で終わりにしないことを心がけています。

今日は上着持って行ったほうがいいですよとか、どうしたらいいかというところまで伝えたい。だって予報だけだったら、スマホでも確認できるので。

でも、いちばん大事なのは、いのちを守ることです。

手を胸に当てる小林正寿さん

そして、いざという時、いのちを守る行動に移してもらうためには、気象予報士との間に信頼関係が必要です。そのために僕は普段から思いやりのある天気予報をして、信頼関係を築きたい。

普段笑顔で伝えている小林が、なんだか怖い顔をして伝えている時は、本当にヤバいんだなって思ってもらえたらいいなという想いがあります。僕の一言で、誰かの行動が変わる。

それがやりがいですし、第二の“デマ”を生まないようにしなきゃいけないなと思っています。

傘を持つ小林正寿さん

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