「男気ジャンケン」が失った勝負論を描写してみせた『水曜日のダウンタウン』“勝ちたくない競技者”が持つ独特の闘志

「男気ジャンケン」が失った勝負論を描写してみせた『水曜日のダウンタウン』“勝ちたくない競技者”が持つ独特の闘志

TBS系『水曜日のダウンタウン』公式サイトより

 3月終了が決定している『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の人気企画に「男気ジャンケン」がある。ジャンケンで勝った者は、敗者の分を含む代金を支払うのだが、内心では勝ちたくない。大枚をはたきたくない。だけど、男気のない行動(支払いを渋る、商品を欲しがらない等)を取るとケツバットされてしまう。

 勝ちたくないジャンケンがあり、勝てば喜ぶフリが義務付けられる。でも、本心では是が非でも負けたい。そんな裏腹な心理を映し出すことが、この企画の狙いだった。

 しかし、次第にそのコンセプトは薄れていった。ほとんど、ただのジャンケンになってしまったのだ。太鼓の音が鳴る前はOKだが、叩かれて以降の男気なき態度は厳禁となる新ルール「男気タイム」が導入されるなど対策は取られたものの、結局、「勝ちを嫌がる」心理描写はないがしろにされていく。単に、支払いの権利を争うためのジャンケンへと意味合いは変わってしまった。

■試合に負けるため、秘策を出し合うワッキーと内藤大助

 そんな中、本気で勝ちを嫌がる者同士の勝負を目にすることとなる。成し遂げたのは、2月21日放送『水曜日のダウンタウン』(TBS系)。今回、同番組が検証を行ったのは「お互い負けるよう指示された八百長対決 逆に目が離せない接戦になる説」であった。

 まず用意されたのは、TBSお得意のスポーツ特番。身体能力に自信を持つ芸能人を揃え、アスリートとしての資質を競わせる趣旨だ。

 この偽番組の予選に臨むのは、ペナルティのワッキーと内藤大助。何も知らぬ両者は、ビーチフラッグスによる決戦に備え意気込んだ。……が、試合直前にマネジャーから「決勝の日程が他の仕事で埋まっている」と打ち明けられる。バッティングを避けるため、負けを選ばなければならない。勝てば、ダブルブッキングになってしまう。

「相手は勝つ気マンマンだから負けるのは簡単」、そんな風にお互いが考えていたはずだ。実は、密かに2人とも負ける気マンマンなのだけれども。

 そして、両者の“勝ち気”ならぬ“負け気”は交錯する。スタートの合図が鳴るや、速攻で転倒するワッキー。それに気付いた内藤は、フラッグとは全く違う方向へダイブして挽回する。だが、ワッキーはさらにその上を行く。またしても転倒し、内藤にフラッグを独り占めさせるのだ。

 あまりにもわざとらしいと、スタッフは不信感を抱く。負けるならば、本当っぽくやらなければいけない。白々しさを避けるため、内藤は観念してフラッグを掴んだ。ビーチフラッグスは内藤の勝利! ワッキーは試合に負けて勝負に勝った。

■試合に勝利してしまい無念の表情のなかやまきんに君

 競技がアームレスリングになると、もっと面白い。「負け」をつかみ取りたい2人のアスリートの思惑が、理想的な形でつばぜり合いへ昇華するのだ。

 この試合に臨んだのは、ボビー・オロゴンと、なかやまきんに君。力自慢の2人は自分が負けるため、相手の手をグリップしたまま自分の方へ引き寄せた。押せば勝つから、負けるために引く。というか、そもそも腕相撲で引く人間などいないはずだが。

 しかし、今回は2人とも引いている。ついには両者のグリップが解け、ボビーときんに君のハンドは宙を泳いだ。引きたい両者の闘志が弾けすぎた結果だ。

 最終的にはパワーで上回ったボビーがきんに君の手を引き切り、見事に敗北。収録日に予定が埋まっているはずの決勝に勝ち進んだのは、なかやまきんに君であった。ここで「クソー!」と悔しがるフリをするボビーの芝居が完璧である。彼は趣旨を忘れていない。勝ったのに無念の表情を浮かべるきんに君とは対照的だ。

 この要素こそが「男気ジャンケン」にはなかった。本来なら嫌がって然るべきの「奢る」という行為なのに、誰も腰が引いていない。普通に男気を見せるだけになってしまっている。

 一方、「負け」を手にするため競技者がさまざまな策を講じた『水曜日のダウンタウン』。勝負論があるからこそ、緊迫感と笑いどころが鮮明になった。ひねりを利かせた笑いを見事に成就させている。

 それにしても世間がオリンピックに熱中している中、堂々とテーマに「八百長」を取り上げるTBSの制作陣には脱帽だ。
(文=寺西ジャジューカ)

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