錦戸亮主演『トレース〜科捜研の男〜』視聴者に負担を与えつつも……“禁じ手”に挑戦した第8話!

錦戸亮主演『トレース〜科捜研の男〜』視聴者に負担を与えつつも……“禁じ手”に挑戦した第8話!

『トレース〜科捜研の男〜』公式ホームページより

(これまでのレビューはこちらから)

 2月25日放送の『トレース〜科捜研の男〜』(フジテレビ系)第8話。まずはそのあらすじから。

 同居する友人・根岸秀司(落合モトキ)を刺殺したと自首する御手洗治(渋谷謙人)。取り調べを担当する虎丸(船越英一郎)は、御手洗が根っからの悪人とは思えずにいた。

 根岸・御手洗と共に児童養護施設で育った人気女優・橋本梨央(石井杏奈)もまた、同じ理由で、事件の調べ直しをノンナ(新木優子)に願い出る。

 皆が御手洗を心配する中、彼自身は嘘の証言を続け、真相を隠そうとした。

 礼二(関ジャニ∞・錦戸亮)は、現場の血痕の乾き具合を見て刺殺から通報(自首)までの“空白の1時間”を発見。さらに現場から猫の毛を検出。珍しい猫種であったことから、飼い主がフリーライター・益山英彰(弓削智久)と特定される。虎丸は益山の自宅を訪ねるも、益山は遺体となって発見された。

 以上が物語前半の内容だ。新たに死体として発見された益山は、根岸と御手洗とどのような関わりがあるのか? そして御手洗はなぜ、下手な嘘をついてまで真相を隠そうとするのか?

 その2つの問いに焦点が当たり、根岸と御手洗との友情、そして彼ら2人の女優・梨央への献身が明らかになっていく。

 前半は事件関係者が多いためか複雑でわかりづらい部分もあったが、後半の解決パートは映画『砂の器』(1974年・監督:野村芳太郎)のラストを彷彿とさせる感動があった。

 そして第8話は、とある禁じ手を使った意欲作。その事に関して次章から触れていきたい。

■禁じ手に挑む演出家と脚本家の勇気!!

 冒頭で述べた禁じ手とは、以下の2つである。

・重要なキャラ(本作だと御手洗)を嘘つきにさせる

・セオリーを度外視した構成

 なぜ嘘をつくのが禁じ手かと言えば、テレビドラマ的な観点からすると、視聴者に与える負荷が多くなるから。人物がひとつ嘘をつくごとに、“覚える”と“忘れる”の二つの脳内作業を強いることになる。その取捨選択に加えて、正しい情報も覚える必要があるのだから、真実と嘘で頭がこんがらがってしまう。視聴者の混乱を防ぐ方法は、瞬時に嘘だと気づかせることだ。

 嘘つきの動揺や焦りを見せればいいのだが、これがなかなか難しい。動揺が露骨になれば重要キャラが安っぽくなってしまうし、抑え過ぎれば間違った情報だと気づいてもらえない。高度な役者の演技力と演出家の腕が要求される。

 だが、本作の第8話を担当した松山博昭氏は、絶妙な塩梅で視聴者に嘘だと見抜かせた。

 御手洗は梨央を守るために必死に嘘をつき、虎丸は彼が嘘をつくたび心配そうにする。二段構えで嘘とわかる場面を置くだけでなく、両者が献身的な気持ちを持つゆえに、キャラの高尚さを損なわずに済んだ。

 一方、小悪党が保身のために嘘をつく時には水をゴクゴク飲ませ、あえて安っぽく仕上げていた。登場人物の重要度に応じて、演出の技量を上げ下げするのは見事だった。 

 とはいえ、嘘をつかせ続ければ情報は増える一方。冒頭で“前半は分かりづらい”と述べたが、たぶん制作サイドは織り込み済み。だから構成のセオリーをぶっ壊して、難解な捜査の時間を極力短くし、後半30分全てを解決パートに当てたのだろう(通常なら解決パートは10分前後)。解決パートなら、人情劇で視聴者を引き込む事ができる。

 けれど、そこには大きなリスクが潜む。第8話のゲストたちの過去回想となり、メインのキャラはほとんど画面に映らない。主人公・礼二たちの目線で物語を追う事ができなくなり、感情移入しづらくなる。

 しかし、僅かな登場時間で礼二たちに存在感を出させることで、その問題は解消されていたようにも思う。礼二は「離れていても思い合うのが家族」と梨央を慰める。虎丸は「一人でよく頑張ったな」と嘘で梨央を守ろうとした御手洗を慰める。

 慰めるに至った経緯は見逃し配信などでチェックしてほしいが、その台詞があるから礼二たちの物語という体は保てた。そして家族と死別した礼二と、離れて暮らす息子と御手洗を重ねる虎丸に、相応しいセリフだったとも言える。

 メインキャラを出せないハンデを背負いながら、構成のセオリーに逃げず、セリフでの真向勝負に出た岡田道尚氏には、脚本家としての高尚なプライドを感じる。また、嘘がテーマとなる難しい回を引き受けた松山氏の自信と周囲からの信頼には頭が下がる。

 ただ面白いものを作るだけで終わらない、プロの仕事を見せつけられた気がした。

■視聴率は1ケタ続き。それでも……

 前回の第7話の視聴率は9.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下同)。そして今回の第8話は9.8%。

 視聴率は下がる一方だし、1ケタを二回連続で出してしまった。

 けれど、全話平均視聴率は2ケタをキープしているし、本作の性質から見れば大健闘なのではないだろうか。

 科捜研という過去起きた事件を解決する組織であるため、現在進行形での第2第3の事件の連鎖を起こしづらい。また、見応えのあるアクションシーンなどに逃げることもできない。

 それら刑事ドラマのメリットが出しづらいだけでなく、チャンネルを変えたくなるような陰惨な事件も多い。今回も幼少期の性的虐待が絡むなど、家族そろって観づらい内容。なおかつ前述のとおり難しい題材に挑戦し、メインの役者を長時間映せないハンデまであった。それでも、0.1%ダウンだけで踏ん張れたのは、多くの視聴者が、「最後は絶対に感動させてくれる」とこの作品を信頼しているからではないだろうか。

『トレース』を毎週追ってるひいき目かもしれないが、また2ケタ視聴率に復調してくれることを願っている。

■視聴者と登場人物の感情をつなぐ音楽

 このドラマの売りと言えば、事件のスリリングさと解決パートでの感動だろう。

 そのふたつを際立たせるのは音楽。タイトルバック前に必ず流れるテクノ調の曲『TRACE』が事件の緊迫感と物語への期待を高め、バラード調の『Never Again』が解決パートで明らかになる事件関係者の悲しみに対する共感を誘う。そして、『Your Broken Heart(Reprise)』で捜査員や事件関係者が前に進む希望を感じさせる。(タイトル名はサウンドトラックより引用)

 本作の音楽を手掛けるのはKen Arai氏。『鍵のかかった部屋』(2012年・フジ)や『失恋ショコラティエ』(14年・フジ)など、先ほども紹介した松山博昭氏の過去の作品でも音楽を提供しているようだ。作り手同士の関係性や、作品に込める想いを想像するのもまた、ドラマの楽しみのひとつである。

 第8話ではサウンドトラックCDのプレゼントの告知があったが、連ドラのプレゼント告知は作品が大詰めになっている時期なのだと実感させる。次回より最終章突入。3月4日放送の第9話も見逃せない。

(海女デウス)

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