本当の気持ちに気づいて、人はまた少し幸せになる――ドラマ『初めて恋をした日に読む話』最終話

本当の気持ちに気づいて、人はまた少し幸せになる――ドラマ『初めて恋をした日に読む話』最終話

火曜ドラマ『初めて恋をした日に読む話』|TBSテレビより

(前回までのレビューはこちらから) 

 物事の本質を見極めることは大切だ。

「自分が本当はどうしたいのか?」「自分にとっていちばん大切なものは何か?」それに気づくのは案外難しい。一時の感情に流されて、短絡的な判断をしがちだからだ。

 ドラマ『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)も最終話。匡平(横浜流星)にとって、そして順子(深田恭子)にとっていちばん大切なものは、何だったのだろうか。

 匡平の東大二次試験の日、順子がバイクにはねられ病院に運ばれる。命に別状はないということだが、手術後は意識が戻らず、周囲の人達も経過を見守るしかなかった。

 従兄弟の雅志(永山絢斗)は、会社で重要な仕事があったにもかかわらず、それを投げ出して病院に駆けつけた。一方、匡平は、迷った末、東大の受験を続けた。

 この時の2人の判断は、それぞれ大きく分かれたことになる。雅志は、「自分の出世のチャンスを投げ捨ててでも、今順子のそばにいたい」という気持ちを優先した。そして匡平は、「今まで順子と一緒に積み重ねてきたものを、結果として残したい。そして順子をも幸せにしてあげたい」そんな思いを優先させたのだ。

 お互いの事情は異なるものの、より先を見て、本当に順子が喜ぶ決断をしたのは、匡平の方ではないかと思う。匡平は、戦っていたのだ。もちろん自分のためでもあるが、父親のためにも、そして順子のためにも。

 順子と出会って一年半、匡平は大きく成長した。それは、勉強で増えた知識ばかりではない。人の気持ちを思い、「本当に大切なことは何か」を見極める力をつけた。それこそが、彼が順子から学んだ、最大の知恵ではなかったろうか。

 事故の翌日、順子は目を覚ました。しかし、入院中、匡平が彼女に会いに来ることはなかった。匡平は、順子が事故に遭った時、受験を選んだことに後ろめたさを感じていたのだ。「選択するということは、他を捨てるということ」「高みを目指せば、必ず厳しい選択をしなければならない時が来る」そんな言葉が、彼の頭にうず巻いていた。

 とかく世の中が複雑になると、目的を見失うことがある。繰り返すが、匡平が受験をしたのは、順子のためでもあるのだ。その気持ちの整理を、自分でもできていなかったのかもしれない。

 その頃、順子もまた匡平のことを考えていた。匡平のことが好きだという気持ちに気づきながらも、「彼の気持ちは、受験期のつり橋効果のようなもの」「彼の未来を邪魔するような足手まといにはなりたくない」と考え、会わない選択をしていたのだ。

 ドラマの後半、最終回ということで、いろんなエピソードが収束していく。

 美和(安達祐実)と西大井(浜中文一)はお互いの嘘がバレてしまうが、結局交際はうまくいき、婚約までこぎつける。

 順子は雅志のプロポーズを断る。どうしても、恋人とか結婚というような関係にはなれなかったのだ。

 そして、順子と母親(檀ふみ)との確執も溶けていく。「子育てに失敗した」と言う母に、順子は答える。「子育ては成功している。だって今、私はすごく幸せだから」。

 塾では、牧瀬(高梨臨)が順子の代理で働き始め、順子も正規の講師となることが決まる。そして……。

 匡平は東大に合格していた。

 合格の報告をし、改めて順子に告白する匡平。順子は、匡平をあきらめさせるため、「雅志と結婚する」と嘘をつく。お互いがお互いへの思いを抱えたまま、2人は別れるのだった。

 4月になって、大学が始まった。匡平は入学のガイダンスを受け始めていた。順子との別れを覚悟していた匡平の背中を押したのは、高校の元担任である山下(中村倫也)だった。山下から、順子と雅志の結婚が嘘だと聞いた匡平は、順子に会いに行く。

 思いを伝える匡平に、それでも順子は交際を断る。年齢差や、将来のことなど、“理性的に”考えて問題が多いと判断したのだ。

 ここで登場するのが、小ネタとして使われていた「スプーン曲げ」である。入院時の暇つぶしで興味を持った順子は、スプーン曲げに挑戦する。しかし、もちろん簡単には曲がらない。

 美和と西大井の婚約祝いの席で、集まった人たちに匡平とのことを全てを話し、「まっとうな大人として誠実にさよならできたと思う」と語る順子に、塾長(生瀬勝久)は言う。「普通ですね。春見先生は普通の大人じゃないと思っていた」。

 その言葉を聞いて、自分のあり方を思い出した時、順子の持っていたスプーンが曲がる。そう、自分は“変わった大人”だったのだ。そして、そんな大人にしかなれない自分を好きになってくれたのは、他ならぬ匡平だ。それに気づいた順子は、匡平に会いに行く。

 東大の教室で、思いを伝える順子。ようやく気持ちが通じ合った順子と匡平は、しっかりと抱き合い、キスをするのだった――。

 雅志や山下の気持ちを考えると、少し切ない展開だったが、幸せなラストといえるだろう。

 最終回は、目に涙を浮かべた順子の姿がたくさん見られたが、深田恭子に潤んだ瞳で見つめられたら、それはもうたまらない。全話を通して視聴率は1ケタどまりと苦戦を強いられたが、せめてその涙が、順子を演じきることができた喜びによるものであってくれるよう、祈るばかりである。

 全体としては、「東大受験」というテーマに収束しがちだが、このドラマが伝えたかったのは、“自分の正直な思いを見つめ、それに従って生きることの大切さ”なのかもしれない。最終回で雅志の言った、「失敗したっていい。実らなくても幸せな恋もある。成功も失敗も全部自分のせい。大人は自由なんだから!」という言葉に集約されている。

「自分はまっとうな大人になりきれていないな」と思っている大人も、「つまらない大人にはなりたくはない」と思っている若者も、自分の心の声に耳を澄まし、それに従っていけばいいのだ。正解なんかない、失敗してもいい。本当に、大人は自由なんだからさ。

(文=プレヤード)

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