岩井ジョニ男、コスプレだった“おじさん”が本当の“おじさん”になった日

 いま「おじさん」は、かつてないほど苦境に立たされている。ズレた発言、ズレたLINEは即さらされ、世間から厳しいジャッジを受ける。そんな中、インスタでの「昭和おじさん」っぷりが話題を呼び、このたびフォトブック『幻の哀愁おじさん』(文藝春秋社)を出版することになったのが、浅井企画所属・イワイガワの岩井ジョニ男だ。三つ揃えのスーツにくたびれた革のカバンを抱え、びっちり七三分けのちょびひげで東京にたたずむ。芸人界最後の秘宝、岩井ジョニ男に聞く、「愛されるおじさん」の作り方。

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――以前、日刊サイゾーで、ずん飯尾さんのインタビューをさせていただきまして(参照記事)。

岩井ジョニ男(以下、ジョニ男) え! この前も一緒に野球見に行きましたよ。出川(哲朗)さんと3人で。おじさん3人で、はしゃいじゃいましたね。飯尾さんとは普段から仲がよくて、よく飲みに行くんです。

――同じ事務所だからでしょうか、お2人にはなんかこう近いものを感じます。

ジョニ男 そうですね。やっぱり伝統なんですかね。関根(勤)さんも小堺(一機)さんもキャイ〜ンさんも、みんなそうなんですよ。

――温かい、人を傷つけない笑いというか。

ジョニ男 人を傷つけない……それはありますね。そういう人が偶然集まったのかもしれないんですけど。争いごととかが本当嫌いなんです。みんなで助け合って、結果みんなで溺れちゃうことのほうが多いんですけど。

――コントですよね(笑)。

ジョニ男 笑っちゃう。でも、「受けなかったけど全力でやったからね」っていう暗黙の了解があるんですよ。仕事終わった後のレモンサワーの味がね……違うわけですよ。

――レモンサワー?

ジョニ男 スベった時は、すごい酸っぱい。でも、そもそも何もなかった時は味がわかんないから、味がするってことはまだいいんだよ、って。

――レモンサワーの味に響いてくるわけですね、今日の仕事は。

ジョニ男 そうなんです。それはレモンサワーですね、やっぱり。あの酸っぱさを感じたいっていう。

――『幻の哀愁おじさん』拝読させていただきました。こちらもまた、甘くて酸っぱい。

ジョニ男 本当にみなさんのお力で、なんとか形にしていただけました。

――今「おじさん」というものが、非常に生きづらいと言われております。何かあると「○○おじさん」とひとくくりにされたり。おじさん独特のLINEをネットにさらされたり。

ジョニ男 そういうのあるんですか!? ドキッ。これは気をつけなきゃいけませんね。

――おじさんが嘲笑の的になりがちな世の中で、若い女性たちがジョニ男さんを「おじさん、めっちゃかわいい」と歓迎しているのです。

ジョニ男 お笑いでワーキャー言われたことは1回もないですよ。お客さんは、とにかくおじさん。家族連れには声かけられたことありますけど。たぶんそれは『ピタゴラスイッチ』(Eテレ)の影響で。ライブ出待ちのワーキャーはゼロですよ。

――ちなみに、ライブの出待ちには、どんな方がいらっしゃるんですか?

ジョニ男 悩んでる方……でしょうか。まれにですが、「いろんな宗教に行って最後警察にも相談したんだけど、解決しなかったから、ジョニ男さんにお願いします」って……。

――ど、どういうことですか?

ジョニ男 まぁ、それは手紙だったんですけど。最後終着駅がここだったのかと。

――すごい……。

ジョニ男 人の相談に乗ったこともないような人間に……。

――ジョニ男さんの中の何かを見抜いていたのでしょうか?

ジョニ男 ああでも、今までお笑いやってる時は何も言わなかった芸人が、辞める時だけ僕に相談するっていうのはある。

――やっぱり終着駅(笑)。

ジョニ男 「辞める」って言った時に、唯一優しい言葉をかけてくれそうな感じがあるのかもしれないんですよね。

――何かの答えを求めて相談するわけではなく?

ジョニ男 そうじゃないんです。「辞める」っていうのは決めてくるんです。だからこっちもなかなか……まぁ「どうして?」くらいは聞きますけど。

――本人が決めた答えを肯定する役割ですね。

ジョニ男 そう、肯定して、次の道に……旅立ちですよね。旅立ちの言葉です。最近ね、飯尾さんと一緒に行く店行く店、初めて入った店でさえも「今週いっぱいで終わります」って、そういうことが立て続けにあったんですよ。それで僕が会計の時に「旅立ちですね」って言ったのを、階段下りて外に出た瞬間に「なにが旅立ちだよ!」って飯尾さんが(笑)。でも、それぐらいしか言うことがないから。よかったですね、ってことでもないですし。

――確かに(笑)。

ジョニ男 なぜか飯尾さんと行くところばかり。それがまた「いい店見つけたね」なんて話をしてるところへ、後ろからマスターに「いや、今週で終わりなんです。店閉めるんです」って言われて。確かに、僕らしかお客さんがいないんですよ、だいたい。その状況で、かける言葉難しいじゃないですか。

――そうですね。「おいしかったです」のひとつも、なんか意味ありげになっちゃいますよね。

ジョニ男 初めて来た店で「いや、もったいない」とか言うのもねえ。「じゃあなんで、今まであなたたちは来なかったんだ」っていうふうにね、責められるから。やっぱり、旅立ちですね。その手の言葉は、結構今までも送ってきてるなとは思ってたんですよね。やっぱり辞めるのを止めたところで、なんの保証もないじゃないですか。

――「あの時止められたから、もうちょっと頑張ったけど、やっぱりダメだった」とか言われても困りますね。

ジョニ男 そうですね。助成金みたいなのをこっちが出せればいいけどね。いつ売れるかわからないし、いつ落ちるかわからないみたいな仕事なんで。なかなか引き止める勇気も……っていう。

――芸人さんは今、新しい世代も台頭してきて。お笑い第7世代と呼ばれている……。

ジョニ男 え!? もうそんなですか? 7!?

――霜降り明星とかハナコとか、20代で賞レースを制する芸人さんが出てきてます。

ジョニ男 賞レース……みんななんか戦いにきてるよなぁ。僕が子どもの頃は、お笑い芸人がそういう「戦い」をしてると思ってなかったんですよ。関根さんや小堺さんしかり、選ばれた人だけがテレビに出てるんだなっていうのが、この世界に入ってようやくわかったくらい。でも、僕は賞レースがどうも苦手で……。

――以前『『内村さまぁ〜ず』の出演をかけたネタバトルの取材をしたことがあったんです。そこの控室にジョニ男さんもいらっしゃって。みなさん結構ピリピリとネタ合わせをしている中、ジョニ男さん1人、テーブルの上に散らかっているお菓子の袋とかを片付けていたんですよ。ちょっとニヤニヤ笑いながら片付けてて「あぁ、なんて肝の据わった方なんだろう」って。

ジョニ男 全然据わってないですよ!! めちゃくちゃ緊張してるんですけど、そういうふうに追い込んでいったら、なんかもっとダメになっちゃうんで。たぶん普段通りの、家でやってるような感じの方がいいんじゃないかなって思ってやってたと思います。まさか、そんなところを見られているとは(照)。

――誰かに勝とうとか、あまり思わないですか?

ジョニ男 そうなんです。なんか戦ってね……『爆笑オンエアバトル』(NHK)とか、勝っても負けてもやっぱり嫌だったなと思って。でも、それじゃダメじゃないですか。だから自分の性格をよくよく見直したけど、やっぱり「よっしゃぁ」みたいな気持ちになれないんですよね。それを最初に感じたのは高校生の時。麻雀に誘われたんです。負けたらジュースおごるとか、そんくらいのやつですけど、やっぱり友達からね、お金をとったりするっていうことがすごい嫌だなと思っちゃった。どっちにしても気分悪いなっていうのが、その後の関係性にも響くじゃないですか。それで麻雀覚えなかったんです。

――ああでも、すごくわかります。

ジョニ男 比較的、浅井企画の人はやらないんですよ。見栄晴さんぐらいじゃないですか?

――見栄晴さんは、それお仕事にされてますし(笑)。

ジョニ男 そうでした。本物のギャンブラーでした。

――浅井企画には、今回の企画趣旨である「愛されるおじさん」が、たくさんいらっしゃる感じがします。

ジョニ男 「愛されるおじさん」かぁ。あまりそういうことは考えたことないですけど。でも……自分は、人が好きなんですよ。それはもう年齢関係なく。あと、すっごい年下でも、尊敬してたらおのずと「さん付け」になってますね。流れ星も「ちゅうえいさん」って呼んでるし。

――芸人さんの世界は上下関係が厳しそうですが、ご自身の中にあんまりそういう感情はない?

ジョニ男 それ、面白くないですもんね。

――ああ。

ジョニ男 自分も面白くなくなっちゃう。後輩たちも最初は「ジョニ男さん」って言ってくれるけど、途中から「おっちゃん」「おっちゃん」って言い始めるんです。まぁ、それが一番いいなっていう。結構若い頃から「おじさん」「おじさん」って言われてたんで、最近やっとそれに年齢が追いついてきて……まぁ40〜50ですけど、一応年齢は非公表なんで(笑)。最近「思ったより若いですね」みたいなことを言われるようになったのもあるし。やっと本当のおじさんになれたんだなーって。

――ちょっと樹木希林さんみたいな感じですよね。

ジョニ男 ああ……希林さん、まさに。

――若い頃から、おばあちゃん役をやっていた。

ジョニ男 『寺内貫太郎一家』とか。自分は、昔から「おじさん」的なものが好きだったんです。ゴルフとか将棋とか、まぁお酒も好きだし、今もうやめちゃったんですけどタバコも吸ってましたし。オヤジがタバコケースからタバコを取り出して、それをね、縁側でこうやって吸ってるんですよ。それを見てね、なんかずいぶんおいしそうだなぁと思って。まぁ子どもながらに好奇心でちょっとやってみたら「うぇぇマズイ」。でも、おじさんになったらきっとああいうのがわかるんだなぁって思った。そしてやっと今、そういうものが、フキの味がわかってきましたよ。

――本当に小さい頃から憧れていたんですね、おじさんに。

ジョニ男 憧れていましたね。おじさんがお笑いをやってるんだと思ってたんですよ。ドリフもそうですけど、漫才だと瀬戸てんやわんやさんとかね、団しん也さんとか、みんなスーツでやってた。いま思えば皆さん30ぐらいだったと思うんですけど、ものすごいおじさんに見えて。

――確かに昔の動画を観たりすると「え、この人まだ25?」みたいな感じ……八代亜紀さんとか。

ジョニ男 いや、八代亜紀さんは本当貫禄ありましたよね。あの歌を、あの若さで歌ってたんです。「お酒はぬるめの燗がいい」なんてわかりませんよ、20代には。

――20代なんてカルアミルクとかじゃないですか。

ジョニ男 そうです。今になってやっと夏でも燗飲むっていうね、わかってきました。冷房が強くて燗酒飲むという。

――方向によっては冷風が直撃してきますしね。

ジョニ男 そうなんですよ。まぁ、みんな貫禄あっておじさんだった……いや、おじさんに見えた。三船敏郎さんとかハンフリー・ボガートとか。あっという間に時代も変わってね。30で若いっていう、今は。

――よくうちの祖母が俳優さんを見て「苦み走ったいい男」って言ってたんですよ。全然意味がわからなかったんですけど、きっとそういう……ジョニ男さんが見て憧れていたおじさんって、そういう感じなのかなと。

ジョニ男 そうです、ビターな感じです。もうそれはね、いろんなものを経てじゃないと出てこないものなんですよね。今の女性たちは、そういうものを男性に求めなくなったのかもしれませんが。

――今の若い女の子たちは、ジョニ男さんのインスタを見て「かわいい」ってなっています。

ジョニ男 「かわいい」か……。僕、20代の頃にタモリさんに言われて強烈に覚えていることがあって。「お前、絶対にかわいこぶるなよ」って。それはたぶんタモリさんのダンディズムみたいなものだと思うんですけど、かわいこぶってるやつを異常に嫌うんですよ、タモリさんって。前にですね、ちょっと袖の長いジャケットを着た男性マネジャーがいたんですよね。ちょっと手が隠れる感じの。

――「萌え袖」っていうやつですね。

ジョニ男 萌え袖っていうんですか? そのちょっとかわいこぶってる仕草を、タモリさんが嫌がって。タモリさんと4年半一緒にいたんですけど、この人はかわいこぶることを異常に嫌うんだな、と。だから俺も気をつけようと思って。

――「かわいい」に自覚的になると、結局かわいくはならないですからね。ジョニ男さんとしては、小さい頃に憧れていたおじさんを、ずっと今までやってきただけ。

ジョニ男 もともとは、スーツに関してはデヴィッド・ボウイの影響なんですけど。学生の頃からスーツを着てましたし、ポマードつけて。いま学園モノの映画はやってますけど、あそこに私服でスーツ着てポマードつけてる学生なんています? 山崎賢人くんや竹内涼真くんは、そんなことしないじゃないですか。だから、今考えるとだいぶ気持ち悪いです。

――当時の自分を冷静に振り返ると……?

ジョニ男 気持ち悪い。ポマードをつけてサイドにメッシュを入れて、それで学ランにヨーロピアン……尖った靴を履いて、セカンドバッグで学校に行ってたんですよ。偽物のルイ・ヴィトンとかヴァレンチノとか持って。

――ちょっと目は合わせられないかも(笑)。

ジョニ男 ですよ。好きな俳優やミュージシャンの格好をひたすら真似てましたけど、でもあれって人前に出る人だから着こなせたんであって。千葉の田舎の普通のやつが、なにも成し遂げてないやつがスカーフ巻いてバルーンジャケット着てるんですよ。それで気取ってサングラスしてあぜ道を歩いてる。

――あぜ道……。

ジョニ男 トラクターの跡があるあぜ道を……。そりゃ、やっぱり周りの人は声かけられないですよ。異様ですもん。

――でもそれが、ジョニ男さんが憧れた「大人」だった。

ジョニ男 同世代の人間には憧れないじゃないですか。やっぱりちょっと上の人たちが格好いいなぁと思って、音楽でもなんでも。

――国内外のかっこいい俳優やミュージシャンに憧れてやってきたことが、今は「昭和のおじさん」イメージになってるのも、なんか不思議ですよね。

ジョニ男 確かになぁ。僕が司会者で相方がラッパーのネタがあるんですけど、「NHKの堅い司会者をイメージしてるから、なんかスーツ持ってきて」って言われて持っていったら、ああいうスーツだったわけですね。それまで私服では、一応普通のスラックスとかジーパンとかはいてたんですよ。だけど、ある時期からそういうネタをいっぱいやるようになって、お客さんから「あのスーツの衣装で今度写真撮ってください」って言われるようになったんです。「だったら毎日スーツで行きゃいいんじゃない」って。もちろんスーツは好きですから。それからは、ワイシャツを着てカフスをはめてネクタイを締めて。髪の毛も、メイクさんにやってもらったことないんですよ。ぼさぼさの頭でスーツを着て行きたくないから、家出るときにはこうなってる。

――すごい。やっぱり美学があるんですね。

ジョニ男 飯尾さんはサンダルで登場したりするんで、よく言われるんです。「ジョニ男さん、面倒臭くないの? それ」って。「いや、僕はこれが好きなんですよ」と。

――スーツはすべてリサイクル品だから、元の持ち主の名前の刺繍が入っていたり。

ジョニ男 歴史を感じるんです。いま僕が着てますよ、と。まさかちょびひげ生やしてるやつが着てるとは思わないでしょうけど(笑)。すごく気が弱いんで、その人の力も借りてなんとか、という気持ちもあるんですよ。

――そうやって、見知らぬおじさんの魂を受け継ぎながら……。

ジョニ男 いま本当のおじさんになりました(笑)。
(取材・文=西澤千央)

●『幻の哀愁おじさん』(講談社)

「インスタ映えしすぎるおじさん」として注目を集める岩井ジョニ男。
そのインスタ(ジョニスタグラム)写真を中心に編んだ、おじさん愛とノスタルジーに満ちた心癒されるフォトエッセイ

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