『脱力タイムズ』から考える、”番宣”俳優の正しい取り扱い方

『脱力タイムズ』から考える、”番宣”俳優の正しい取り扱い方

フジテレビ『全力!脱力タイムズ』

 

テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(7月7〜13日)見たテレビの気になる発言をピックアップします。

中村倫也「脳にシナプスってあるじゃないですか」

 ドラマの改編期である。バラエティ番組にも主役級の俳優が数多く出演し、ドラマの宣伝、いわゆる番宣をしている。

 で、番宣でゲスト出演をするそんな俳優たちについては、芸人や若槻千夏などが以前からこんなふうにネタにしてきた。しゃべらない、つまらなそうにしている、トークが面白くない――。なるほど、確かにそういう俳優もいるような気がする。そんな俳優がいると、いくら画面上は楽しそうに番組が進行していても、見ている側は真顔で虚空を見つめてしまうかもしれない。

 ただ、実際のところ、番宣だけして帰るみたいな俳優はもうあまりいない。バカリズムも以前、こんなことを言っていた。

「番宣に来たイケメン俳優さんが、全然しゃべらなくててこずるってことは昔からよくあるじゃないですか。最近はもう、そうじゃない人のほうが多いじゃないですか。イケメンなのに全然気取ってなくて、しゃべりが達者で性格がいい、みたいな」(『アメトーーク!』テレビ朝日系、2019年6月20日)

 バカリズムのトークはこの後、「あんなにチヤホヤされてんのに、ねたむ隙すら与えてくれない。どうしていいかわかんないから、そういう人たちは僕、性格悪いって見なすようにしてる」というねたみを交えたネタに展開していくのだけれど、性格の良し悪しはともかく、俳優が積極的にバラエティ番組に参加する姿を見る機会が増えているのは確かだ。

 たとえば、11日放送の『櫻井・有吉 THE夜会』(TBS系)。この日は、新ドラマ『凪のお暇 』の番宣で、黒木華と中村倫也が出演していた。

 中村は言う。自分は割と周囲から「冷静だね」と評価されることが多い。何があっても動じない、感情をコントロールしている、冷静でいられる。そんな自分は「まったく動じない王」である、と。

 中村はさらに語る。いつも冷静でいるにはコツがある。これを自分は、高校時代のアルバイト中に編み出した。

「高校生のとき飲食店の厨房でバイトしてたんですけど、揚げ物とかすると油がはねたりして、『熱っ!』てなるじゃないですか。それが何回か続いたときに、『熱っ!』てなるのめんどくさいなと思ったんですよ。熱がるのやめようって決めたんですよ」

「脳にシナプスってあるじゃないですか。あれを外せばいいんじゃないかなと思ったんですよ。それをやってみようと思ったら、油がはねても熱くなくなったんですよ」

 シナプスを外す。この時点で話はすでにトンチキなゾーンに入っているわけだけれど、番組は続けて「動じなさ」の検証へと移る。中村の目の前に運ばれたのは、日本一酸っぱいといわれているポン酢を入れたところてんだ。果たしてこれを、自称「まったく動じない王」は、むせずに食べきれるのか?

「確認します。……(シナプスは)外れてます」

 そう神妙な顔つきで前置きした上で、ところてんを一気にかっ込む中村。しかし、見事にむせてすべて吐き出す。「まったく動じない王」や「シナプスを外す」という設定のけったいさと、中村の真剣な顔とのギャップ、そしてところてんを吐き出す勢いの良さに思わず笑った。中村のシナプスは外れなかったし、僕のシナプスも快楽物質をたくさん伝達した。

 確かにこの面白さは、有吉や平成ノブシコブシ・吉村、島崎和歌子らバラエティ番組の手だれが「なんだシナプスって」とかツッコんで盛り上げることで、成立しているものかもしれない。だがいずれにしても、番宣に来た俳優がつまらなそうにしているみたいな話は、もう実態とズレているのは確かだ。

 だから、たまに真顔で虚空を見つめてしまう。芸人や若槻千夏がそういう話をしているのを聞くと。

 バラエティ番組に番宣で出演する俳優は、いまや笑いを生む重要なファクターになっている。そして、多くのバラエティ番組では常時ゲストを迎え、何かしらの番宣をやっている。

 とはいえ、番宣それ自体は、バラエティ番組の中では余計な部分かもしれない。なくても番組は成立するかもしれない。

 他方で、番宣自体を番組の笑いに欠かせない要素として組み込んでいるバラエティもある。たとえば、『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)である。12日のゲストは志田未来。月9『監察医 朝顔』の番宣での出演だった。

 この日の番組のテーマは、コミュニケーション力を上げる会話術。解説員の元TBSアナウンサー・吉川美代子によるレッスンを踏まえた上で、初対面の相手と対談する実践コーナーが始まった。対談のために用意されたセットに、芸人ゲストのダイアン・津田が向かう。対談相手として登場したのは、コワモテの反社会的な感じのお兄さん2人組である。

津田「ご職業は?」

男性 「あ?」

 冒頭からそんな感じで始まった対談は、終始お兄さんの側がケンカ腰。コワモテを前に、汗をかきながら会話を成立させようと奮闘する津田が笑いを誘う。もちろん、『脱力タイムズ』の視聴者ならおわかりのように、これらはすべて津田以外には渡されている台本通りのやりとりである。

 続けて、同じセットに志田が向かう。対談相手として出てきたのは、先ほどと同じコワモテのお兄さんたち。この対談も成立せずに終わるのか。そう匂わせて始まった会話だが、徐々に男性のトーンは柔和になる。

志田「普段は何されてますか?」

男性「そうだなぁ……パチンコ」

志田「パチンコですか。勝ちますか?」

男性「まぁまぁだな。ねーちゃん行かねーの? パチンコ」

志田「ちょっと仕事が忙しくて、行ったことはないです」

男性「何やってる人?」

志田「一応、女優をやってます」

男性「へー、女優。何に出てんの?」

志田「えっと、月曜9時からのドラマに出演させてもらいます」

男性「なんてドラマ?」

志田「『監察医 朝顔』というドラマです」

 会話が成立しないと思われたコワモテのお兄さんが、流れるようなコミュニケーションで俳優を番宣へと誘導する展開。もちろんすべて台本通りなわけだけれど、一部始終をスタジオで見ていた津田も叫ぶ。

「巧妙な番宣!」

 志田がドラマの内容を説明し始めると、コワモテのお兄さんはドスの利いた声で尋ねた。

「見どころとかあんの?」

 バラエティ番組に俳優が番宣で出演する際は、その俳優の素顔やプライベートが、「意外な一面」と共に披露されることが多い。なんだか番宣は、「意外な一面」と引き換えにされるご褒美のようにも見える。番組冒頭から番宣を始めようとする俳優に、周囲の芸人らが「まだまだ!」とストップをかけるという展開もおなじみだ。言ってみれば、茶番だが。

 けれど『脱力タイムズ』は、そんなよくある展開とは反対に、俳優に台本通りの演技をさせる。もちろん、これはこれで茶番なわけだけれど、意図的に仕組まれた茶番であることをすべての前提にしている分、そこから意図せずあふれ出てしまっているように見える部分(芸人のリアクションにこらえきれずに笑ってしまうところとか、逆にまったく動じず真顔を貫くところとか)に、俳優の「素」を感じたりもする。何より、番組が用意する毎回異なる番宣の仕掛け、その巧妙さにはいつも驚かされる。

 バラエティ番組の中で、余計な部分であるようにも感じる番宣。そんな番宣それ自体に「見どころとかあんの?」と問われたら、僕は迷わず『脱力タイムズ』を番宣しようと思う。

 だからといって、俳優はいつも番宣を目的にバラエティ番組に出るわけではない。たとえば、7日放送の『モヤモヤさまぁ〜ず2』(テレビ東京系)には、安藤サクラが代打アシスタントとして出演していた。特に番宣とかはなく、単に番組のファンだからという理由で。ポーカーフェイスでババ抜きをしたり、お面をつけて運動器具にぶら下がったりしていた。

 あるいは、8日の『テレビ千鳥』(テレビ朝日系)に出ていた佐藤健。彼もまた、番組のファンだからという理由だけで出演していた。冒頭の千鳥とのトークから、佐藤の番組愛は止まらない。

「いま一番おもしろい番組です、これが。テレビの1位です」

 この日の企画は「ガマンめし」。普段当たり前に食べているファストフードも、極限まで我慢して食べるとめちゃくちゃウマいのではないか。そんな想定のもと、食べたい気持ちを抑える過程や、ようやく食べたときの喜び、その一部始終をお送りする企画である。

 今回我慢するのは、すき家のキムチ豚生姜焼き丼。このメニューが大好きで週5で食べていた時期もあるという佐藤は、前日の昼から何も食べずに収録に臨んでいた。カメラが回るずっと前から、すでに佐藤の我慢は始まっていたのである。

 空腹の佐藤を、次々と試練が襲う。ビニール袋に閉じ込めた厨房の空気を店外で吸引するなどし、丼への気持ちを高めていく。高まったところで、あえて店に入らず30分ほど散歩する。そうしてようやく店内へ。が、まだ食べない。まずは、キムチ豚生姜焼き丼のスーパースロー映像を見る。そして、いよいよ本物を目にする時間。目の前に運ばれたキムチ豚生姜焼き丼を見た佐藤はつぶやく。

「完璧な料理だ……」

 嗅覚に続き、視覚も刺激された佐藤。しかし、その後も我慢は続く。体格のいいスタッフが丼をかっ込む様子を見る。空のどんぶりと箸を手に持ち、エアーで食べる。改めて一度ロケバスに戻り、20分ほどドライブする。紅生姜を3ミリだけ食べる、大勢のスタッフがキムチ豚生姜焼き丼を食べる様子をただただ見る。そんな苦行が延々と続くロケに、「想像以上にしんどいっすね……」と佐藤からも弱音が漏れる。

 そうやって我慢に我慢を重ねた末に、ようやく注文。キムチ豚生姜焼き丼をまっすぐ 見つめ、「いただきます」と手を合わせる佐藤。ロケ開始からすでに2時間。食事を抜いてからは、もはや30時間。極限まで我慢して口にした味は、果たして。

「おいしい〜」

 口に含んだ瞬間に思わず笑みがこぼれた佐藤から出てきた感想は、積み重ねた時間の長さや我慢の過程の紆余曲折さとは裏腹に、とても短くてプリミティブだった。そんなうれしそうな佐藤を見ているこちらも、なぜだか笑ってしまうから不思議だ。

 番宣のために出演したバラエティ番組でつまらなそうにしている俳優は、もはやほとんどいない。多くはトークやリアクションなどで場を盛り上げている。そんな俳優についてバカリズムは、「性格悪いって見なすようにしてる」とねたみ目線でネタにした。しかし、今回の佐藤に至っては、もはや番宣ですらない。動機は単純な番組愛である。

 どうやら、ねたみを差し挟む最後の余地すらふさがれてしまったようだ。

(文=飲用てれび<http://inyou.hatenablog.com/>)

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