吉本騒動と千鳥・大悟の”すべらない話”に見た、芸人のすごみ

吉本騒動と千鳥・大悟の”すべらない話”に見た、芸人のすごみ

千鳥・大悟

テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(7月21〜27日)見たテレビの気になる発言をピックアップします。

太田光「テープなんかいらないんですよ。テープ以上のことが再現できちゃうから」

 吉本興業をめぐる一連の騒動は、20日の宮迫博之と田村亮の記者会見を機に、一層混迷を深めている。反社会勢力が関与するパーティーに宮迫ら複数の芸人が参加し、金銭を受け取っていたことに端を発するこの話題。2人の会見を受けた先週は、松本人志や加藤浩次が会社を離れる離れないの話になり、長時間に及ぶ社長の会見があり、宮迫の契約解除が撤回され、かと思うと契約解除の撤回の撤回が会社側からほのめかされ……と事態が推移していった。

 この騒動に関し、ワイドショーや情報番組で言及されるテーマも多岐に及ぶ。宮迫らと反社会勢力の関係をめぐる事実の確認だけでなく、吉本の若手芸人のギャラの安さ、契約書を交わさないマネジメントのあり方、経営陣と芸人たちの個人的な関係、テレビ局の芸能事務所への忖度、吉本が行政案件に食い込んでいる件、教育事業に乗りだそうとしている件、半グレ集団とは、そもそも芸人とは、池乃めだかの「(吉本興業に言いたいことは)背が高くなる薬を開発してくれということぐらい」発言、などなど。いまだにテーマは拡散し続けている。

 話題が大きくなるのは、語る人が多いためでもある。毎日放送されるワイドショーや情報番組には、吉本芸人や宮迫らをよく知る芸人が司会やコメンテーターなどで多く出演しており、先週は日替わりで誰かが当事者としてこの騒動に言及する状態になっていた。そ して、コメントは次々と連鎖していった。ある情報番組でのある芸人のコメントについて、別の情報番組で別の芸人がコメントする、それがまた別の……という具合に。膨大に交わされ、複雑さを増す言葉の収束点は、今のところ見えない。こういったコメントの連鎖が止まるのは、問題が解決したときではなくて、おそらくは時間がたって、みんなが飽きたときだ。

 今回の騒動に関し、日々積み上がっていく芸人たちの言葉。僕は先週の初めまで、テレビを見ながら一つひとつ書き起こしていた。こういう連載も持たせてもらっているわけだし。けれど、コメントする芸人のあまりの多さと、外野が「会社側」「反会社側」と芸人の対立を煽り始めたことなどに、辟易してやめた。というか、宮迫や田村、あるいは松本人志、加藤浩次、ビートたけしなど、芸人たちが次々とテレビで語る姿を見続けて、書き起こしの手が止まった。

 21日、宮迫・田村の会見翌日の『サンデー・ジャポン』(TBS系)で、爆笑問題の太田光は語る。

「芸人にとって一番つらいのは、舞台を奪われるってことなんですよ」

 宮迫らは、自分たちが自由に話せる状況下での謝罪会見を会社側から止められていた。そうだとすると、宮迫らが何よりも我慢できなかったのは、客に向けて自分の言葉を自由に発する舞台を奪われたことではなかったか、と。

「だからそれを奪っちゃったら、それは反乱しますよ。そこがたぶん、会社側が甘く見たんじゃないかなって僕は思うんだよね。(社長は)『テープ回してないですか?』って言ったけど、昨日の宮迫と亮のしゃべりっていうのは、見事に再現できちゃうんですよ、芸人って。舞台にさえ立てれば自分は表現できるって思ってるから。テープなんかいらないんですよ。テープ以上のことが再現できちゃうから。あれは見事な“すべらない話”だったと俺は思う」

 連日さまざまな芸人の発言をテレビで見聞きする中であらためて認識したのは、芸人が観客の前で披露しているのが、身体的なパフォーマンスであるということだった。だから、テープなど回さなくても、社長との会話を見事に再現できてしまう。いや、その場の会話以上のものも再現できてしまう。世間の空気も動かしてしまう。身体の重みを乗せたそのパフォーマンスのすごみ。そのすごみの前に、文字起こしの手がひるんで止まった。

 太田は宮迫らの会見を「見事な“すべらない話”だった」と評したけれど、そんなタイミングで、『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)が27日に放送された。面白い話はたくさんあったけれど、ここでは最もすべらない話をした者に贈られるMVS(Most Valuable すべらない話 )を受賞した、千鳥・大悟の親父の話を紹介したい。2本話されたうちの1本目である。

「子どものころの、ちょっと切ない話でもいいですか?」

 そう前置きして、大悟は語り始めた。自分が生まれ育ったのは瀬戸内海の小さな島。そこではほとんどの家が採石業に携わっている。狭い島に同業者が集まっているため、誰が社長で誰が雇われているのか、誰が「金持ち」で誰が「金持ちじゃない」のかを、みんな明確にわかっている。自分の親父は雇われている側だった。子どものころ、自分が金持ちの家の子とケンカをすると、親父は自分を連れて頭を下げに回ったりもした。謝罪の帰り、軽トラの中で親父は自分に言って聞かせた。

「ワシは頭やったらなんぼでも下げちゃるけぇ。お前は好きなように生きろ」

 そんな父親が18万円で船を買ってきた。その船に乗って、当時小学4年生だった自分は親父と一緒に釣りに出た。島の岩場と船をロープで結び、船を流しながらやる釣りだ。そのとき、クルーザーがやってきた。ロープがあるので親父は「アカンアカン!」とクルーザーに向けて警告する。クルーザーはギリギリで止まり、中から人が出てきた。親父より10〜20歳ほど年下の、島の「金持ち」である。

「おいコラ! どこで釣りしとんねん、貧乏人コラ!」

 これから聞きたくない話が始まる。子どもながらにとっさにそう勘づいた。が、船の上なので逃げ場がない。聞くしかない。自分に背中を向けた親父は、「調子乗っとんかコラ!」と年下に引き続きボロクソに言われている。親父、せめて何か言ってくれ。そう願うが、親父は背中を丸めて何も言わず、罵声を浴び続けている。そうこうするうちに、クルーザーは立ち去る。ここで自分は急に悟った。

「(親父が)振り返ったときに言うセリフで、なんかワシの人生決まりそうな気がしたんです」

 自分の一生を左右するかもしれないタイミング。親父はここでなんと言ったのか。

「うちの親父、振り向いて、しわっくちゃな顔で、『お前はああなれよ』って言うたんです」

 大悟が芸人になることを決めたきっかけになったというエピソード。「〜って言うたんです」と大悟が話し終わると、松本をはじめ出演者たちは「切なっ!」と言いながら一斉に笑った。僕も笑った。

 が、なぜこの話で笑ったのか、いまだによくわからない。こんなジャンル不明な話を「笑い」の文脈に乗せる大悟の技量。おそらくこの話の面白さは、僕の筆力の乏しさを差し引いても、文字だけでは十分に伝わらないはずだ。舞台に立った芸人は身体の重みを乗せた言葉で、テープが回っていなくとも、テープ以上のものを表現できてしまう。だから、芸人のパフォーマンスを記録したテープからテキストだけを抜き出すと、テープ以上のものは漏れ落ちてしまう。大悟が披露した親父の話もまた、そういう種類の“すべらない話”だった。

 あの謝罪会見をきっかけに、舞台の上に立った芸人のすごみをあらためて感じた。ただ、だからこそ一層、ああいった謝罪会見ではない舞台で、芸人のすごみを感じたいと思った。吉本興業がこれからも芸人に自由な舞台を用意し続けられる会社であることを、視聴者として願う。

(文=飲用てれび<http://inyou.hatenablog.com/>)

 

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