漫才のレベルは飛躍的にアップも……『べしゃり暮らし』に感動がない理由

漫才のレベルは飛躍的にアップも……『べしゃり暮らし』に感動がない理由

テレビ朝日『べしゃり暮らし』

 8月17日に放送された『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)の第4話。今回のテーマは「成長」と「中途半端」と「清算」である。

第4話あらすじ

 母・美津子(篠原ゆき子)が過労で亡くなった原因は、上妻圭右(間宮祥太朗)の父・潔(寺島進)の蕎麦店「きそば上妻」を、お笑いコンビ「ねずみ花火」が漫才で貶したことが原因だった。なのに、圭右の姉・しのぶ(徳永えり)と元“ねず花”の根津孝介(田中幸太朗)が交際しているらしい。芸人時代の根津には、女性絡みの悪いウワサがたくさんあった。

 そんな中、久保田はるみ(遊井亮子)に言い寄られる根津の姿を目撃した圭右は、根津をいきなり殴り飛す。しかし、はるみは根津の元マネジャーで、お笑いの世界へ復帰するよう説得していただけだった。根津のゴシップも、ねず花が自ら発信したネタが元になっていると判明。

 美津子が亡くなって以来、美津子への罪悪感にさいなまれた根津はネタをやることが怖くなり、ねず花は解散。根津の元相方・花田稔(駒木根隆介)は「MCフラワー」という名前でピン芸人として活動中だ。根津はあれ以来、美津子の月命日に欠かさず墓参りをしており、花田も潔に謝罪の手紙を何通も送っていた。2人はきそば上妻にそろって謝罪に行き、「いつまでもつまんねえこと言ってんじゃないよ」と潔は2人を許した。

 その後、花田は単独ライブを開催。しかし、かつてより毒がマイルドになった花田のネタを観た潔は「毒舌芸人が遠慮してちゃ売れねえ」とバッサリ。客席にいた根津は花田に直訴し、ねず花は復活漫才をすることになった。ネタは「きそば上妻」を貶した例の漫才で、結果、館内は大爆笑。ネタを観た潔は「今聞けば、こんなネタで店の客が減るようじゃ、俺の精進が足んねえってことだ」とつぶやいた。

 漫才が終わると、根津は舞台上からしのぶにプロポーズ。芸人を引退した根津はきそば上妻に入り、潔の跡取りになるべく修業を開始した。一方、潔は圭右に対し「芸人になることは認めてやる。その代わり、高校卒業したら家を出て行け」と言い渡した。

 いろいろな意味で、間宮の成長が見て取れる第4話だった。まず、機材トラブルが原因で花田のライブが20分遅れの開演になったとき。あの場面で「行こうぜ」と辻本潤(渡辺大知)を伴い、間宮は前説を買って出る。なかなかできることではないが、楽屋裏で「やらせてください!」と頭を下げて頼み込む姿には感銘を受けた。漫才コンクールで「客が馬鹿」とキレて帰ってしまった醜態が記憶に新しいだけに、すごく安心したのだ。

 そして、舞台である。今まで、間宮と渡辺はわざと拙く漫才していたのだろうか? 通常時は2人とも外側を向き、ツッコむ(ツッコまれる)ときだけ内側に体を向ける。テンポも以前とは見違えるように安定している。このドラマの漫才監修・ヤマザキモータースと小林知之(火災報知器)の指導の賜物だろうが、にしても、以前とは明らかにレベルが違って見える。観て笑えるレベルを漫才素人の2人に求めるのは酷だが、なんとか“らしく”なってきた。初回から順に成長の跡が見えるよう、以前は意図的に技術レベルを調節しながら漫才を演じていた可能性がある。感心した。

 寺島は間宮と渡辺の2人に、蕎麦屋を由来としたコンビ名「きそばAT」の使用を禁じた。つまり、「蕎麦屋を継ぐ」という間宮の選択肢をあえて潰す父からの厳しいエールである。間宮に残されたのは芸人への一本道だけ。正直、やっと始まったという感じだ。こうして、間宮は精神的な面でも成長した。

 息子の退路を断った父。これは、しのぶと田中の交際を認め、蕎麦屋の跡継ぎとして田中を認めたからにほかならない。「蕎麦屋の跡継ぎ」という保険を手放した間宮と、芸人にすがる自分を捨てた田中。2人は”中途半端”から脱した。そして、毒舌なネタを恐れる過去を清算したねず花と、芸人を恨む過去を清算した寺島。過去を捨て、前へ進む人間を描いた回だった。

 テレ朝土曜深夜枠のドラマは、全7話に設定されていることが多い。そして、原作『べしゃり暮らし』のコミックスは全19巻である。この長編を7話に収めるのは至難の業だと思う。だからこそ、エピソードの取捨選択が重要になってくる。時に、不要な箇所をバッサリ切り捨てる勇気も必要だろう。今回のドラマ化は、その辺がうまくない。多くのエピソードを網羅しようとするから、各話がいつもダイジェスト的になってしまう。駆け足すぎるのだ。

 ねずみ花火のエピソードを取り上げるなら、潔がねず花に「お前は花田っぽくないしお前は根津っぽくないから、名前が逆だろ」と指摘し、笑って許す場面をマストで描いてほしかった(花田役の駒木根がねずみっぽい顔ではないので難しいのもわかるが)。また、蕎麦屋を保険として考える圭右の甘さも描いてほしかった。そんな細部を端折っているため、観ていて感動がないのだ。

 次回予告によると、『べしゃり暮らし』で最もエグいエピソードが描かれる模様。「デジタルきんぎょ」を演じる駿河太郎と尾上寛之の演技力はわかっているので、そこについては心配していない。あとは、異常に濃いあのストーリーを腰を据えて再現し、心に響く重要回にしてほしいと願うだけだ。

(文=寺西ジャジューカ)

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