“元・地下芸人”脳みそ夫が振り返る「マウントばかり取っていた」あの頃

“元・地下芸人”脳みそ夫が振り返る「マウントばかり取っていた」あの頃

撮影=後藤?秀二

「日経エンタテインメント!」(日経BP社) の<好きな芸人ランキング>では17位に急浮上。LINEスタンプやTikTokの“脳みそ夫体操”などSNSを駆使した活動で、子どもや女子高生の間で人気を集めている、脳みそ夫。永野氏と共に「地下に生きていた」脳みそ夫が、いかにして「デジタルネイティブ」「スマホ世代」に大人気といわれるようになったのか? 飄々としながらも、ポツリポツリと名言があふれ出す 。いま明らかになる、脳みそ夫の脳みそ――。

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脳みそ夫 サイゾーさんに取材していただくってことで、サイトを見せてもらったんですが、かが屋とか……なんかサイゾーらしくないというか。すごく普通の、「Quick Japan」(太田出版)的な感じだったんで。

――「Quick Japan的」(笑)。

脳みそ夫 やっぱり、サイゾーは恐ろしいイメージがあるので。

――芸人さんのインタビューは割と真面目に……いや全部真面目ですが。

脳みそ夫 でも自分のこと話すのって、ちょっと恥ずかしいです。

――4年くらい前に、永野さんにインタビューさせてもらったんです(参照記事)。永野さんと脳みそ夫さんは地下芸人時代のお仲間だったとのことですが、そこで永野さんが「自分を地下に閉じ込めようとしていたやつらはクソだ」みたいなことをおっしゃってて。

脳みそ夫 たぶんそれ、サイゾーさんに合わせてるやつです(笑)。

――自分の芸について語ることに、抵抗はありますか?

脳みそ夫 戦略的にこういうことしてますとか話しちゃうと、やっぱり冷めちゃう部分もありますしね。

――聖徳太子とOLとか、アラサーと武士とか、そういう斬新な組み合わせって、どうやって「発見」するんだろうと。

脳みそ夫 2014年にタイタンに入って、そこから1年くらいあとなんですね、確か。聖徳太子のネタができたの。

――ネタの構想みたいなものは、ずっとあったんですかね?

脳みそ夫 いや、全然 なくて。僕、それまでずっとフリーだったんですけど、34歳で事務所に入って。そこで初めてテレビのオーディションに行かせてもらったんですが、全然受かんないんですよね。テレビってやっぱり視覚メディアだから、今までの自分の芸には、そういう部分がすごく欠けてたなと思いました。パンチの効いた衣装とか、視覚を意識すれば、コントの設定もすぐわかってもらえるじゃないですか。

 あと、僕なぞかけがすごい好きで、〇〇と〇〇の共通点を考えるのが得意なんです。2つの異なる設定を入れて、その共通点をコントのギャグにしていこう、って感じで。顔で人、格好で職業みたいな。一番パンチのある顔って誰かなと思って……聖徳太子に。

――そこで聖徳太子が出てくる発想がすごいです。

脳みそ夫 聖徳太子って、パッと見てすぐ聖徳太子だとわかるじゃないですか。

――確かに、ちょんまげだとパッと見わかんないかもしれない。家康か信長か。

脳みそ夫 そうなんですよ。OLもね、OLの服着たら一発でわかるので。それでもわからない人用に、最初に「聖徳太子だってOLするっつーの」って言う。

――「聖徳太子」に「OL」を合わせたのは、どうしてですか?

脳みそ夫 聖徳太子が絶対やらなそうだなと思ったのが、OLだったんです。

――やらないですね、確かに。

脳みそ夫 時代もね、性別も違いますから。

――コントの中で聖徳太子は蘇我氏とちょっと恋仲になったり、推古天皇にどやされたりするわけですが、一方で小野妹子は隋に行っていたり、フィクションとノンフィクションが渾然となっていて……そういうストーリーは、どういうところから発想するんですか?

脳みそ夫 最初は「少女漫画あるある」みたいな感じで、唐突に胸キュンネタを入れたり、ちょっと皮肉で作ったんですよ。だけど、思ったよりそれがスッと受け入れられたもんだから、そこからはもう皮肉じゃなくて、本当に少女漫画読んで研究したりとかして。

――もともとは嫌み成分だったんですね!

脳みそ夫 ちょっとまだ地下芸人時代の毒気が残ってたというか。完全に抜きましたけどね。

――それは意識的に?

脳みそ夫 そもそも僕、そういう感じじゃないんですよ。もうちょっと素直な人間なんです。

――無理して毒気を出していた。

脳みそ夫 はい。やっぱりね、そういうのって、年取ると疲れないですか? やるのも見るのも。

――すごくわかります。

脳みそ夫 きついですよね。仕事から帰ってきて、やっとホッとしたのに、誰かをくさすみたいな芸、見たくないじゃないですか。そういうのでストレス発散する人もいるんでしょうけど……。

――若い時はパワーがあって、毒も上手に分解出てきていた気がするんですけど、年取ってからの毒って、本当に嫌な回り方しかしないっていうか。

脳みそ夫 なんか、自分に浴びせられたような気になっちゃうと思うんですよね、ファンの方が。攻撃はしたくない。

――毒気を抜いていった自分に、物足りなさは感じなかったですか?

脳みそ夫 いや、ないですね。「そもそもコイツ何やってるんだ?」っていう域まで達したら超面白いじゃないですか。「いったい何を今見せられてるんだ?」っていう時間が、なんか面白い。

――確かに、聖徳太子がOLやってたり修学旅行行ってたり、そこにわかりやすいメッセージはなくて。すごい面白かったけど、これは一体なんだったんだろう、みたいな。

脳みそ夫 自分では、わりとわかりやすく作ったつもりなんですけどね。確か、最初は『BS笑点』(BS日テレ) の色物コーナーでやらせてもらったんです。観覧席にはおじいさんおばあさんが多くて、当然ね、笑うようには仕込まれてると思うんですが、「聖徳太子だってOLするっつーの」って言ったら、最前列のおばあさんが「は?」って。その時に「あ、これってそんなに一般的ではないんだな」とはなりました。

――「は?」(笑)。

脳みそ夫 お年寄りって、新しいシステムをインストールできないじゃないですか。もう既存のOSでやるしかない、みたいな。だからそれはもうしょうがないかなと。

――「あらゆる世代に笑ってほしい」という感じではないですか?

脳みそ夫 本当は、それがすごくあって。逆にターゲットって、まったく決めてないんです。幅広くやりたいから。年いった人って、ダジャレ好きじゃないですか。僕も好きなんです、ダジャレ。だから、そういう真似したくなるようなフレーズをネタに入れていこうみたいな気持ちはあります。

――「おったま遣隋使」とか「びっくら古今和歌集」とか。

脳みそ夫 そういうのだと、おじさんも気軽に言ってくれるんで。

――そこはかとない教養を感じます。

脳みそ夫 いや(笑)。教養っていうか、『おぼっちゃまくん』という漫画が昔から大好きで、その「茶魔語」からかなりのヒントをもらった感じなんですよね。「おはヨーグルト」とか「友だちんこ」とか。

――しかし言葉のセレクトが、ベタに見せつつも、ちょっとオシャレなんですよね。

脳みそ夫 あぁ、そうですね(笑)。でも、EXITさんも歴史の用語を語尾にくっつけたり、やってますね。

――了解道中膝栗毛的な

脳みそ夫 そうそうそう。だから僕の中ではわりとオシャレだと自分で思ってたんですけど、「あ、本当のオシャレって、こういうのなのかな」って思わされてはいますね(笑)。

――いや、脳みそ夫さんもオシャレです。

脳みそ夫 (笑)。ただの親父ギャグにはしたくはなかったんで。ちょっと普通にパッと思いつかない感じには、してるつもりです。

――自分の中で、なんらかの法則はあるんですか?

脳みそ夫 普段あんまり使わない「びっくらこいた」とか「おったまげた」とかを語呂のいい歴史用語に乗せる、ってことですかね。

――あえてちょっと今使わない言葉を引っ張ってくる。

脳みそ夫 ただそれだと限られちゃうんですよね、感情表現も。そこを「こんちわーっす」「あざーっす」「すいませーんっす」で補完するみたいなのはあります。

――なるほど。あと、ネタの途中で突然出てくる「こんちわーっす」は、どういうコンセプトなんでしょうか?

脳みそ夫 難しい質問ですね……。なんていうんですかね、“1回だけ使える復活の薬”みたいな感じ。ちょっとスベっても、それ1回やると戻せるんですよ。ただ、1つのネタの間に2回も3回もやるとウケない(笑)。

――脳みそ夫さんは一度、人生に「パチプロ」を挟まれたり、ストレートに芸人にはならなかった。そのちょっとした遠回りが、逆によかったなって思うことはありますか? 

脳みそ夫 いや……今のところないですね(苦笑)。以前、テリー伊藤さんと対談させてもらった時に、パチプロ時代のことを話したらテリーさんがすごいウケてくれて、その時はよかったなと思いましたが。それ以外はないですかね。もっと早く芸人やってればよかったなって、すごく思います。

――芸の肥やしには、ならなかったんですね。

脳みそ夫 最初、「脳みそ」とコンビを組んでたんですけど、相方は水槽に浮かんだ脳みその模型で、そいつとしゃべるっていうのを8年やってた。その頃は、そういうのが好きだったんです。とりあえず、好きなことをやっとかないと、って。

――そこでとことんやったから、また違うものにも挑戦できる。

脳みそ夫 そうですね。あと、いきなり僕が芸歴1年目から今の感じだったら、たぶんアンチも多かったのかなと思うんで。

――ああ……。確かに、“この人、かつて脳みそとコンビ組んでたのに”って思うと、より滋味深く感じるかもしれないです。

脳みそ夫 芸人が芸人を引き上げてくれるみたいなところって、あるじゃないですか。そういう仲間からの助けを、すごく感じます。変なことやっていた、その頃があるから。

――フリーでやってる時と事務所に入ってからは、全然違いますか?

脳みそ夫 あぁ、もう全然違いました。フリーの時って、自分のためだけにしかやってなかったんですよね。でも、事務所に入ったら事務所の人たちも仕事で動いてくれてるんで、結果出さないと申し訳ないし、お金にもならないなっていう意識が芽生えたりとか。それが、よりお客さんに向けてどうやるか、みたいなのを考えるきっかけになったと思います。

――意識が変わるんですね。

脳みそ夫 そうなんです。あとね、今も地下の劇場ですごい面白いフリーの子いっぱいいるんですけど、やっぱり世界が狭いんですよね。すごい狭いコミュニティで褒められて、それで満足してしまう。需要と供給がすごい狭いところでぐるぐるしてる。それだとやっぱり……もうちょっと年齢を重ねていくと、この先何もいいことないなって気づきました。

――永野さんも、「売れるのは悪」という空気は、なんとなく地下にはあったとおっしゃっていました。

脳みそ夫 そうですか(笑)。いやいや、すごいセンシティブな問題でよね。もともと繊細な方だと思うんですよね、永野さんって。だからすごく自意識が強いというか。僕、最近思ったんですけど、たとえばワタナベコメディスクールに入る人って、そういうこと考えないんですよ。最初から売れることを善として、もうセルアウトのために生まれてきたみたいな感じがするんです。そもそもの出自が違うというか。

――メジャーに対するゆがんだ感情が、「俺たちのほうがすごい」「すごくなくて逆にすごい」みたいな、謎の論理を生み出しているのかもしれないです。そういうところは私にもあります……。

脳みそ夫 その頃は、そういうマウント取るみたいなことを無意識にやってて。メジャーなものに対してこっちのほうがいいんだ、みたいな。それって結局、終わりがないというか。そんなことやってもあんまり意味がないなと思って。だから「勝った」「負けた」みたいなのとか、誰より上だとか下だとか、そういうのじゃないところに行きたいと思いました。で、すごく年いったときのことを考えて、ちょっと独特になっていかないときついなって。常に漫才とかコントで、同じ種目で争うみたいな感じだと……だって、爆笑問題みたいにメチャクチャ化け物みたいな人がいますから。やっぱそれより、性格的にあんまり争いが好きじゃないんで。競争のない世界に行きたい。

――ああ、まさに「和を以て貴しとなす」。

脳みそ夫 そうそう。それが本当に偶然、太子様の考えに近くなった(笑)。

――目標にしてる人はいますか?

脳みそ夫 僕、なぎら健壱さんにずっと憧れてて、なぎらさんって漫談がすごい面白いんですよ。『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)でもすごくベタなこと言って、タモリさんがそれにツッコむ。そんな人って、いなくないですか? タモリさんがめちゃめちゃツッコむって。すごいなぁって。

――もし自分が『タモリ倶楽部』に出るとしたら、どういう回がいいですか?

脳みそ夫 味噌ですかね。味噌すごい好きなんで。今みそソムリエの資格を二浪中なんですよ。誰でも取れるんだと思ったのに……受験料3万5,000円するんですよ。でも取りたい。やっぱり肩書がないとね、テレビも使いづらいだろうし。

――お味噌好きだから、脳みそ夫なんですか?

脳みそ夫 逆です。脳みそだから、味噌に詳しくなろうと思って。打算的なやつです。みうらじゅんさんが言ってたんです。「趣味とは自分をいかにだませるか」だと。もう尋常じゃないくらい趣味に関するものを集めて、物量で自分を圧倒するみたいな。だから今ちょっとその段階なんですよね。味噌に関するものをいっぱい集めてて……すみません、話がちっちゃくなりました(苦笑)。

――いえいえ、ソムリエ資格を取得したらCMとかもきそう、マルコメとか。

脳みそ夫 あ、それ、いいですね!!

――(永野さんが「メイクマネー」と言ってた時と同じ目だ……)

(取材・文=西澤千央)

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