「仙台母子心中事件」母が残した170枚の手記……学校・教育委員会だけの責任なのか?

「仙台母子心中事件」母が残した170枚の手記……学校・教育委員会だけの責任なのか?

NHK ストーリーズ 事件の涙「“170枚の日々”をたどる〜仙台 母子心中事件〜」

 昨年11月29日、仙台市で起きた母子心中事件。40代の母親が小学2年生の娘と共に命を絶ったこの事件は、娘へのいじめがきっかけだった。学校や教育委員会に何度も対応を求めるも相手にされず、次第に孤立を深めていった末、自ら死を選んだのだった。

 事件から約11カ月、ひとり残された父親を追ったドキュメンタリー『事件の涙「“170枚の日々”をたどる〜仙台母子心中事件〜」(NHK総合)が放送された。

 明るい性格で、学校が大好きだった娘に異変が起きたのは、昨年5月。小学2年生になってすぐのことだった。登校時、同級生2人にアサガオの竿でたたかれそうになり、たびたび置いていかれるなどのいじめに遭っていることを、泣きながら両親に訴えたのだ。

 この件を学校に相談すると、担任教師は両者を呼んで「仲直りの会」を開いた。嫌がる女児に無理やり、加害児童と握手させたのだ。

 この「仲直りの会」は学校でいじめが起きるとよく行われるものだが、実際のところ、「なぜ、自分のつらい気持ちを加害者にわかってもらえないのか」というわだかまりを被害者の心に残したり、逆にいじめがエスカレートするきっかけにもなっている。この女児も、「仲直りの会」がきっかけで、学校を休みがちになってしまう。

 事態を重く見た両親は、加害児童に謝ってもらおうと学校との対話を始める。その窓口になったのが、母親だった。父親は仕事で帰りが遅いため、母親は娘の体調や学校とのやりとりを毎日、手記として残していた。

 当初は、教室に入れない女児を校長が自ら引き取り、勉強を教えるなど、学校側の対応に期待していた母親だったが、話し合いの場を求めても先延ばしにされ、なかなかうまく進まない。教育委員会などにも相談したが、解決には向かわなかった。

 その間にも娘のメンタルはみるみる弱っていき、8月には人の視線が怖いと訴えたり、腹痛で眠れないといった症状が出たり、習いごとにも通えなくなってしまう。

 2学期が始まるとほとんど学校に通えず、そんな折、娘はこんな手紙を両親に書いた。

<しにたいよ しにたいよ なにもいいことないよ わるいことしかないよ いじめられてなにもいいことないよ しにたいよ しにたいよ>

 たった8歳の娘が小さな心を痛め、死にたいと訴えている――。親として、こんなにつらいことはないだろう。娘をなんとか救いたいとの思いで何度も学校を訪れる母親だったが、皮肉なことに、そういった行為から“モンスターペアレント”といったウワサを立てられ、周囲から孤立を深めてしまう。次第に友人付き合いも減り、10月ごろには好きだった料理も作れなくなる。そして、毎日欠かさず書いていた手記も途絶え、「今日も欠席した」といった簡単な連絡が父親の携帯に届くだけになっていた。

 そして11月29日、母娘は自宅で無理心中した。

 夜中までパソコンに向かって手記を書くこともあったという母親は、子煩悩で、真面目な人だったのだろう。また、専業主婦で、学校や地域が生活のすべてだったことも、事態を悪化させた原因といえる。第三者から見れば、転校するなどほかに選択肢はなかったのかという気持ちにもなるが、精神的にも追い詰められた母親は、娘を早く楽にしてあげたい、という気持ちに取りつかれてしまったのかもしれない。

 事件後、父親は妻が残した170枚の手記とあらためて向き合い、妻の無念を晴らそうと奮闘している。当時は「仕事が忙しい時は深く読み込めない時もあった」という父親だが、学校とのすれ違いや、妻の無力感を知ることとなった。

「もっと近づいて一緒に(無力感を)感じてあげられなかったことが申し訳ない」(父親)

 事件から2カ月後、学校は保護者会を開き、そこでいじめがあったことは認めたものの、“無理やり握手させるようなことはなかった”と否定した。また、「しにたい」と訴えた手紙についても、母親に夏休みの宿題をやっていないことをしかられたことが原因ではないか、と答えている。

 現在、この事件は仙台市が設置した第三者委員会によって事実関係の調査が行われているが、焦点のひとつが、いじめ防止対策推進法が定める重大事態にあたるかどうか。年間の欠席日数30日というのが重大事態の目安となっており、認められれば保護者も含めたケアを担う専門家などが派遣されるという。そのため、父親は教育委員会に娘の成績表の提出を求めた。欠席日数を確認するためだったが、中身は1学期の分だけで、2学期の出欠の記録は空白だった。

「これはどういうことですか?」

と困惑する父親に、担当者は「学校に確認しなければなりませんが、学校からお預かりしているのはこれだけです。2学期の分はおそらく評価できなかったということじゃないかと思います」と答える。「(いじめを)軽視しすぎではないか」と語気を強める父親に、「そういうわけではないが、そう捉えられてしまう対応だったと思う」と、担当者は平謝りするばかり。

「ここまでひどいとは思ってなかった。そういう対応を妻が取られてきたんだと思うと、もう本当に悔しい」(父親)

 本当に欠席日数は30日を超えていなかったのか? 父親は娘のクラスの出席簿を取り寄せ、妻の残した手記や携帯とのやりとりと見比べた。すると、不審な点を発見する。出席簿では遅刻となっている日も、実際は妻が学校に出向いただけで、娘は「人に会いたくない」と家で留守番していた。つまり、事を大きくしたくない学校側による、隠ぺい工作が行われていたのだ。

 父親は今年9月、妻の手記を手がかりにした娘の欠席日数を第三者委員会に資料として提出し、「重大事態となる30日を超えていた」と訴えた。

「今まではスタートの準備。これからが本当の始まり」

 そう語る父親の声からは、強い決意が感じられた。

 今回の番組は、学校や教育委員会の対応のまずさを浮き彫りとするような構成だったが、母娘を無理心中に至らしめた要因はこれだけではないはず。親同士の関係や狭い学区ゆえの閉塞感、あるいは頼れる親族が近くにいなかったこと……。母親の苦しみのはけ口が少しでもあれば、悲劇は起こらなかったと思わざるを得ない。

 果たして第三者委員会がどのような結論を下すのか、注目が集まる。

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