奇作・怪作を蒸し返す! 名脚本家たちが描いたデタラメ90〜00年代テレビドラマ回顧録

「日本のドラマにはない攻めた表現だ!」と評価されている『全裸監督』だが、テレビドラマ史を振り返ると、同作に負けないギリギリの表現はざらにあった。〈元〉批評家の更科修一郎が、90〜00年代のテレビドラマを回顧し、『全裸監督』以上の問題作を掘り起こす!

◇ ◇?

 数年に一度、『十年愛』(TBS/92年)の高速回転メリーゴーランド死が観たくなる。『男女七人夏物語』(TBS/86年)の明石家さんまを浜田雅功に置き換えたような90年代前半の典型的なトレンディ恋愛ドラマなのだが、ドラマティックにしようとするあまり、やたらと事故が起きて、人が死ぬのだ。特に大江千里が暴走メリーゴーランドに取り残された娘を助けようとして、遠心力で飛ばされる展開は無茶苦茶すぎたが、小説版ではダンプカーに轢かれていた。漫☆画太郎か。

 よく考えてみれば、92〜93年のTBS金曜ドラマは『ずっとあなたが好きだった』『十年愛』『高校教師』(真田広之版)という奇跡と狂気の連続攻撃だったが、そろってHuluとParaviとTBSオンデマンドの3つで配信されていた。「危険すぎるな……動画配信……」と思ったが、いったい90〜00年代の人気テレビドラマはどのくらい配信されているのだろうか?

配信で蘇る武田鉄矢『白夜行』の怪演伝説

 まずは配信されていたほうから。00年代の武田鉄矢と言えば、権威化して手に負えなくなった『3年B組金八先生』ではなく、別の意味で怪物だった『白夜行』(TBS/06年)の笹垣刑事だろう。ハンガーヌンチャクを振り回すこともなく、歎異抄を唱えつつ山田孝之と綾瀬はるかを執拗に追い立てる悪役っぷりは『太陽を盗んだ男』で沢田研二を追っていた菅原文太と双璧の「この世でもっとも追いかけられたくない刑事」である。東野英治郎、西村晃と名悪役が演じてきた『水戸黄門』役に鉄矢が抜擢された理由もわかるというものだ。

 それ以上に『鉄板少女アカネ!!』(同/06年)があったのは驚いた。堀北真希の地上波初主演作だが、誰が観たいんだこれ。日曜劇場史上初の平均視聴率一桁で全10話が9話で打ち切りになった、同世代にやたら多い「人生で一度だけ犯罪に手を染めるなら堀北真希を(以下略)」という因業で偏執的なファンですら忘れたい黒歴史だ。というか、どう見ても深夜帯の低予算アイドルドラマで、次作だった『華麗なる一族』の制作が遅れたから急遽入れたんじゃないのかこれ。この後『花ざかりの君たちへ』(フジ/07年)と『梅ちゃん先生』(NHK/12年)が当たったからよかったが、考えてみると人気のわりに作品には恵まれなかった女優だった。なお、実質的引退作品の『ヒガンバナ』(日テレ/16年)はHuluで配信されている。

『振り返れば猿がいる』『振り返ればゲイがいる』と多くの派生形(ネタ)を生んだ、説明不要な90年代前半の大ヒット作『振り返れば奴がいる』(フジ/93年)もフジのFODプレミアムで配信されている。『白い巨塔』から社会批評性を引いて、男同士の暑苦しいライバルものへ絞り込んだ本作は織田裕二のシリアス路線での初ヒット作だったが、演出・若松節朗の色が強いので、三谷幸喜脚本だったことは案外知られていない。BSフジ系の台湾・韓国ドラマが目立つFODだが、女装で闊歩する岸部一徳と風間杜夫という気の触れた奇跡が観られる山田太一脚本の傑作『ありふれた奇跡』(09年)や、中島丈博脚本のハードコア昼ドラ『牡丹と薔薇』(04年)もあり、HuluやParaviと比べると地味だが、なかなか面白いラインナップである。「たわしコロッケ」の『真珠夫人』(02年)がないのは惜しいが。

 ParaviとTBSオンデマンドを持っているTBSは比較的、動画配信のアーカイブ率が高いが、90年代以前になるとリアルタイムで大ヒットした作品でも配信していなかったりする。それにしても『鉄板少女アカネ!!』が配信されて、『高校教師』(93年)『人間・失格』(94年)『未成年』(95年)と続いた、野島伸司90年代ダーク路線絶頂期の傑作『聖者の行進』(98年)が配信されないのは間違っていると思うが。筆者の通っていたゲーセンでも主演・いしだ壱成の物真似がはやりまくったが、当時は裁判中だった実際の事件がモデルの上に、いかりや長介演じる弁護士が登場する終盤まで何の救いもない展開でスポンサーの三共も降りていたから、現代のコンプライアンス的に難しいのかと思いきや、実際には野島作品の常連だったいしだ壱成や酒井法子が逮捕されたことが大きいようだ。覚せい剤やめますか、それとも配信やめますか。

 時代の徒花として野島伸司のダーク路線はよく語られるが、90年代のテレビドラマは70〜80年代を牽引した山田太一、倉本聰、市川森一などの大御所脚本家が失速した代わりに、野島、内館牧子、野沢尚、三谷幸喜、北川悦吏子などの野心的な若手脚本家がデタラメな話を書きまくり、ベテランの中島丈博や井沢満もゲイカルチャーに刺激を受けて新境地を開拓するなど、カオスな時代だった。後者はどうなのかと思わなくもないが、プロデューサー主導のチームライティングで積極的に海外市場へ展開していく洋ドラと違い、日本のテレビドラマはガラパゴス的に進化していった。

 結果として、脚本家や俳優個人の得意分野が強調され、90年代以降は小劇場演劇の影響も受けたことで、次々と異様な世界観の作品が生まれた。ターニングポイントは、アングラ劇団出身の佐野史郎が通俗的なキャラクターを山崎哲の実録犯罪戯曲で再解釈した怪演に引きずられ、古典的メロドラマだった企画がサイコスリラーになってしまった『ずっとあなたが好きだった』(92年)だと思うが、これによって、映画のヌーヴェル・ヴァーグの影響を受けつつ、古典的で教条主義的な『木下恵介アワー』(64年)や『ありがとう』(70年)へのカウンターとして成立していた久世光彦や佐々木守の「脱・ドラマ」路線……『お荷物小荷物』(70年)や『ムー』(77年)は完全に過去のものとなり、代わりに、アングラ演劇の影響が濃い、新世代の日本的テレビドラマが増殖したのだ。

 さて、女同士のドロドロ愛憎劇といえば内館牧子であり、『週末婚』(TBS/99年)は内館脚本の代表作だ。互いの不幸だけを願う因業な姉妹(松下由樹、永作博美)が誹謗中傷、公開暴露、ストーキングなどあらゆる手段で嫌がらせを繰り広げる物語は、喩えるなら『ダークナイト』のジョーカーが二人に分裂して互いに殺し合う地獄だが、内館作品といえば『寝たふりしてる男たち』(日テレ/95年)も忘れてはいけない。『週末婚』で阿部寛や仲村トオルを地獄姉妹の生贄に捧げ、『プロレスラー美男子烈伝』(文藝春秋)で「リングではこんなに美しい男が闘っている」と独自の美を提示しつつ、美の基準に反している朝青龍は罵倒し続けた稀代のマッチョイケメン愛好家・牧子の性の目覚めだったマイトガイ・小林旭を主演に担ぎ出したサラリーマンドラマだ。なので、いつもの女同士の愛憎劇ではなく、主人公へ嫉妬する男たちの感情を通してアキラの危険な雄の匂いを強調しているのが面白いが、つい最近も『バイキング』で坂上忍とお茶の間を恐怖で震撼させ、一回でコメンテーターを降ろされた昭和の人間凶器アキラである。ちょい悪オヤジ萌えどころではない牧子の危険すぎる萌えは世間には理解されなかった。

 しゃべらない中居正広は本当に格好いい。『ATARU』(TBS/12年)でもサヴァン症候群の役が好評だったが、当の本人はどうやら俳優仕事に消極的なご様子。

『失楽園』以前の渡辺淳一が真面目に書いた医療小説『無影燈』のドラマ化で、田宮二郎主演作のリメイク企画である『白い影』(TBS/01年)は、「しゃべらない中居正広は本当に格好いい」という『オードリー』(NHK/00年)の長嶋一茂にも通じる、巷のどうかと思う評価を確立した。続く『砂の器』(04年)もヒットし、馬鹿の一つ覚えのような池井戸潤原作ばかりになる前の福澤克雄演出の代表作となったことから、満を持して劇場向け大作『私は貝になりたい』を作ったのだが、ゲスト出演した草なぎ剛との演技合戦で完膚なきまでに喰われる大惨事が起きた。草なぎ剛のゲスト出演は高倉健の遺作『あなたへ』ですら同じ大惨事が起きているから、仕方ないのだが。『味いちもんめ』(テレ朝/95年)や『ナニワ金融道』(フジ/96年)のしゃべる中居正広も、ガラッパチだが真剣な青二才という雰囲気で、得難いキャラクターなのだが。

『味いちもんめ』と『ナニワ金融道』で思い出したが、人気マンガのドラマ化は90年代も多く、そのたびに大惨事が発生していた。そして、どう見てもアニメでないと成立しないロリコン&マザコン系ラブコメのドラマ化で、「現在」の安達祐実が演じる以外に実写では正解のないロリ系美魔女ヒロインをヘドリアン女王的ガチ魔女の夏木マリが演じてしまった『八神くんの家庭の事情』(テレ朝/94年)の惨劇がよく語られるが、史上最悪の大惨事となったのが『いいひと。』(フジ/97年)である。

 原作マンガは底抜けの善人が善意でトラブルを解決していくハートウォームなサラリーマンものだが、「たかがアイドル」だったはずの草なぎ剛と菅野美穂が予想外の批評的な演技を見せ、原作の異様な世界観を暴いてしまった。「そんな善人がいるとしたら、それはサイコパスな狂人である」と。かくして、平均視聴率20%超えの大ヒットでありながら、原作ファンから猛烈なバッシングを受け、原作者もドラマ版を批判して連載を打ち切った。もっとも、前年の『イグアナの娘』(テレ朝/96年)ですでに「やらかしていた」菅野美穂はさておき、全裸で暴れる前に服を丁寧に畳むサイコパス系ナイスガイに暴く意図があったかどうかは不明である。皮肉なことに初主演の草なぎはドラマアカデミー賞主演男優賞を獲得するなど、俳優として大ブレイク。97年の本作から17年の『嘘の戦争』までフジ&関テレで多くの主演作を残した。特に『僕と彼女と彼女の生きる道』(04年)と『任侠ヘルパー』(09年)はテレビドラマ史に残る傑作だが、SMAP解散の影響なのか、まったく配信されていない。というか、SMAP案件は木村拓哉主演作でも消極的で、10月開始の日曜劇場『グランメゾン東京』のついでに、北川悦吏子のユーモアが良いほうへ転がった代表作『ビューティフルライフ』(TBS/00年)などがようやくParaviで配信されたが、世紀の怪作『安堂ロイド』(TBS/13年)は入っていない!

 なお、自身の特異な世界観を信じ続けた『いいひと。』原作者の次作『最終兵器彼女』は大ヒットとなり、「セカイ系」と蔑まれつつも、近年の『天気の子』にまでつながる潮流を作り上げた。これはこれで驚嘆に値するといえよう。

 さて、今回は90〜00年代に限定したが、思った以上に未配信作品が多かった。名作、迷作、怪作……紆余曲折はあれど、日本のテレビドラマは芳醇な歴史を紡いできたし、話題の『全裸監督』にしても、そうした歴史の上に洋ドラの手法を加えることで爆発した化学変化的な作品だ。だからこそ、ひとつでも多く配信されることを祈りつつ……まだまだ語りたいことが尽きないので、いつもの巻末コラムに続けよ(なつぞら風に)。

取材・文/更科修一郎(さらしな・しゅういちろう)

コラムニスト&〈元〉批評家。90年代から批評家として活動。2009年、『批評のジェノサイズ』(共著/弊社)刊行後、休業。15年に活動再開。

 配信動画で過去の名(迷)ドラマをプレイバック!※9月下旬現在配信がある作品です。予告なく配信が打ち切られる可能性もあります。

●セックスシンボルとしてのトヨエツ
『青い鳥』(TBS/97年/Paravi、Hulu ほか)
脚本:野沢尚
出演:豊川悦司、夏川結衣

 近年は『半分、青い。』の秋風先生など変人奇人役が多いが、『NIGHT HEAD』以来、90年代テレビドラマのセックスシンボルだった豊川悦司の頂点ともいえるメロドラマ。視聴率的には『愛していると言ってくれ』に及ばなかったが、長期ロケと二部構成の丁寧なストーリーで人気を呼んだ。実は豊川と貴島誠一郎プロデューサーの共同企画で、土着的日本社会(佐野史郎)と個人(豊川)の対立に巻き込まれて死んだ女(夏川結衣)に囚われ、滅んでいく男たちの物語という舞台演劇的な裏テーマが存在している。そのため、助演の佐野や演出の土井裕泰など、アングラ劇団出身者でスタッフが固められていた。野沢尚脚本の最高傑作でもある。

●90年代の社会不安を巧みに反映
『ケイゾク』(TBS/99年/プライムビデオ、Hulu、TBSオンデマンド)
脚本:西荻弓絵 ほか
出演:中谷美紀、渡部篤郎

 90年代中盤のテレビドラマは地下鉄サリン事件などの社会不安を反映してか、香取慎吾の出世作となった『沙粧妙子―最後の事件―』や『あなただけ見えない』など、サイコスリラー色の強い作品が目立ったが、本作は刑事ドラマでありながら、小劇場演劇風の虚構性が強い世界観や滑り気味の小ネタギャグ、『ジョジョの奇妙な冒険』第5部や『多重人格探偵サイコ』の影響をうかがわせるマンガ的なキャラ立て、演出・堤幸彦の極端な映像志向で異彩を放ち、00年代以降の若者向けテレビドラマに強い影響を与えている。10年代の『SPEC』『SICK’S』は続編だが、こちらは海外ドラマ『HEROES』の影響を受け、超能力ものになってしまった。

●池脇千鶴の被虐っぷりに胸ざわつく
『リップスティック』(フジ/99年/FODプレミアム)
脚本:野島伸司
出演:広末涼子、三上博史

 90年代末、『ときめきメモリアル』以降の男性向けギャルゲーは、恋愛やセックスよりも美少女キャラの心的外傷を癒やすことに主眼を置き、共依存的な傾向を強めていたが、少年鑑別所を舞台に女囚たちと共依存ギャルゲーを繰り広げる本作の奇想は、時代の狂気に敏感な野島伸司以外は誰も思いつかないだろうし、思いつかれても困る。絶頂期の広末涼子が主役なのに。結果として『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』とは対極の、極めて日本的な「女囚もの」となった。なお、本作の池脇千鶴に至ってはギャルゲーどころか鬼畜系エロゲーの被虐ヒロインで、野島伸司の慧眼に震えつつ『月刊池脇千鶴』(新潮社)も買ってしまった。最低だ(碇シンジ風に)。

●桃井かおり90年代ベストバウト
『ランデヴー』(TBS/98年/Paravi、TBSオンデマンド ほか)
脚本:岡田惠和
出演:田中美佐子、桃井かおり

「ひと夏だけのランデヴー」と銘打ち、怪獣マニアの夫(吹越満)から逃れ、女流ポルノ作家の桃井かおりと、オーナーの岸田今日子が住む魔女の館……もとい、ホテルへ転がり込んだ平凡な主婦(田中美佐子)が、女同士の友情や不思議な恋愛を通して青春を取り戻していく「奇妙な味」のラブコメディ。ちょいちょいシリアスで不穏な心理描写が紛れ込むのに、夏の夕凪のような独特の空気感が楽しい。岸田今日子もメイクは怖いが、吉行和子や冨士眞奈美とバラエティ番組に出演するときのようなハイテンションで演じており、終盤、ジョージ・チャキリス(!)の登場シーンでは、テレビドラマでは珍しいマジック・リアリズム的な感動を覚える。

●言わずと知れた藤木直人の黒歴史
『ギャルサー』(日テレ/06年/Hulu)
脚本:藤本有紀 ほか
出演:藤木直人、戸田恵梨香

「もしも『クロコダイル・ダンディー』が00年代の渋谷に現れたら?」という発想で作られたカルチャーギャップ系青春コメディ。アリゾナ育ちの熱血カウボーイに扮した藤木直人の無個性なのに不思議なフラのある演技が、若手時代の戸田恵梨香や新垣結衣と絡んでシュールな人情喜劇を展開していく。放映当時ですら死語になりかけていた流行語「ギャルサー」を元にしていたことから冷笑的な小品と思いきや、予想以上に大風呂敷なホラ話と化していくのが面白い。古田新太が演じるネイティブ・アメリカンは現在の制作基準では(WAHAHA本舗のイヨマンテの夜的な意味で)たぶんアウトなのだが、テレビドラマでのベストバウトだ。

●キヤノンがスポンサーを降りた問題作
『銭ゲバ』(日テレ/09年/プライムビデオ、Hulu)
脚本:岡田惠和
出演:松山ケンイチ、ミムラ(現・美村里江)

『すいか』(03年)から『Q10』(10年)まで、日テレ土9ドラマは河野英裕プロデューサーを中心に前衛的な企画を連発していたが、まさかのテレビドラマ化。もっとも、70年に発表されたジョージ秋山の原作マンガは公害問題や金権政治を描く同時代性の強い社会派ピカレスクだったので、岡田惠和脚本は厭世的な若者の復讐譚へ換骨奪胎したが、ラストシーンまで観ると案外、原作に忠実だ。実際、当時の派遣切り問題を描いた御手洗経団連会長への批評性が嫌われ、キヤノンを含めた提供スポンサーは次々と降板、コカ・コーラの一社提供になる「勲章」も得ている。主演の松山ケンイチは一世一代の名演だが、相棒の柄本時生も泣かせる。

(月刊サイゾー11月号『Netflix(禁)ガイド』より)

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