東出昌大・唐田えりかの不倫報道で再注目! 『寝ても覚めても』ビッチ=自分に正直に生きる女?

 東出昌大と唐田えりかの不倫報道で再注目を集めることになった映画『寝ても覚めても』。第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されるなど、公開当時から高く評価されていた同作だが、唐田が演じた”危険な恋に身を焦がすヒロイン”とは――。

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(初出:2018年8月31日)

 ビッチとは尻軽女や浮気性の女性を指す侮蔑語だが、映画の世界ではその意味は反転し、自分に正直な女として輝きを放つことになる。世間のしがらみに縛られず、自由に生きる女性の称号となる。清純そうに見えるヒロインのビッチな側面を暴き出してこそ、初めて映画は面白く転がり始めると言えるだろう。逆にビッチな女性の一途な一面を知ることで、男はキューンとなってしまう。類型化されたヒロイン像からはみだした部分にこそ、カニミソ的な味わい深さが隠されている。『寝ても覚めても』と『きみの鳥はうたえる』は、どちらもヒロインのビッチさがとても魅力的に抽出された作品となっている。

 柴崎友香の同名小説を原作にした『寝ても覚めても』のヒロイン・朝子を演じる唐田えりかは、オーディションで抜擢された新進女優だ。自動車保険のCMに出演するなど、いかにも清楚なルックスだが、本作では危険な恋に身を焦がすことになる。主演の東出昌大がタイプの異なる2役を演じていることでも注目されている。

 大阪で暮らす朝子(唐田)は、ある写真展で独特な雰囲気を漂わせる青年・麦(東出)と出逢った。自由奔放な麦に朝子はひと目惚れしてしまい、2人はたちまち恋に陥る。酒場で朝子に近づく男がいると、平然と暴力を振るう危うさを持った麦だが、そんなところを含めて朝子はぞっこんだった。親友の春代(伊藤沙莉)は「あの男はやめとき」と忠告するが、朝子の心はしっかり麦のものとなっていた。そんなある日、麦は「新しい靴を買う」と出掛けたきり、消息を絶ってしまう。

 2年後、麦のことを吹っ切るために朝子は上京し、カフェで働き始めた。近くの日本酒メーカーにコーヒーを届けに行った朝子は、驚いてしまう。スーツ姿の麦がいたからだ。朝子は「麦!?」と呼び掛けるが、麦ではなかった。双子かと思うほど、顔がそっくりな亮平(東出:2役)だった。麦とは赤の他人の亮平は、ちらちらと自分の顔を盗み見る朝子のことが気になって仕方ない。麦のことを知らない亮平は朝子へ積極的にアプローチするも、朝子は亮平が近づけば近づくほど距離を置こうとする。2011年3月11日。大震災によって帰宅難民が溢れ返った東京の暗い夜道で、朝子は亮平と遭遇する。運命を感じた2人は一緒に暮らすようになる。

 人が人を好きになる要因はルックスなのか、それとも内面なのか。根源的な問題すぎて小説の世界ではあまり扱われることのなかったテーマが、本作では深く掘り下げられていく。かつての恋人とそっくりな顔の持ち主である亮平を意識する朝子だが、彼女はそんな自分の心情にビッチさを感じて戸惑う。単に顔が好きなのなら、クローン人間でもいいことになる。放浪癖のある麦と違って、亮平は家庭的で真面目な男だ。2人を結びつけてくれた震災のことを忘れず、被災地への復興ボランティアを朝子と一緒に続けている。2人で暮らすようになって5年、麦と過ごした時間よりもずっと長く亮平と生活を共にしている。それでも、まだ朝子の心にはわだかまりが残っていた。週末のボランティアで疲れた亮平の身体を、丁寧にマッサージする朝子。うつ伏せになった亮平の背中や腰を揉む分には、顔を見ずに済むので朝子自身の気持ちも安らいだ。

 ひとりの女性の8年間にわたる心の揺れ動きを追った『寝ても覚めても』。上映時間5時間17分の前作『ハッピーアワー』(15)が話題を呼んだ濱口竜介監督は、今回は1時間59分の凝縮された時間の中で、ヒロインの葛藤を丁寧に描き出していく。2010年に発表された原作小説にはない震災のエピソードを盛り込むことで、震災前と震災後という時間の隔たりを巧みに表現してみせた。震災では多くのものが失われ、また隠されていた事実が明らかになった。大阪への転勤が決まった亮平は朝子に結婚を申し込むが、その直後に彼女は思いがけない衝動に駆られる。それはビッチと呼ぶのに相応しい行為だった。

 41歳の若さで亡くなった函館出身の作家・佐藤泰志は多くの映画人たちに愛され、熊切和嘉監督『海炭市叙景』(12)、呉美保監督『そこのみにて光輝く』(14)、山下敦弘監督『オーバー・フェンス』(16)と映画化されてきた。そして初期代表作である『きみの鳥はうたえる』が、北海道出身の若手監督・三宅唱によって映画化された。『きみの鳥はうたえる』のヒロイン・佐知子もとても印象に残るビッチな女性だ。

 函館の書店に勤める佐知子(石橋静河)は店長(萩原聖人)と不倫関係にありながら、店をちょくちょく無断欠勤する僕(柄本佑)と付き合い始める。僕が暮らすアパートの二段ベッドで、昼間からSEXに興じる僕と佐知子。その部屋は失業中の静雄(染谷将太)とルームシェアしており、やがて僕と佐知子と静雄は3人で毎晩のように酒を飲み歩くようになっていく。夏の短い北海道の過ぎ去りゆく季節と若さを惜しむかのように、3人は夜通しで遊びほうける。

 暴力衝動が抑え切れない僕と家族の問題を抱える静雄との間を、気ままな猫のようにふらふらと行き来する佐知子。気に入った男を見つけると、放っておけないビッチ気質の女性である。演じる石橋静河は、池松壮亮とダブル主演した『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(17)ではずっと固い表情だったが、今回は一転してリラックスした自然な笑顔を見せ、ロケ地の函館に溶け込んでいる。柄本佑、染谷将太と一緒に過ごすのが本当に楽しそうだ。母親が原田美枝子、父親が石橋凌なだけに、スクリーン映えする顔立ちをしており、これからますます映画界で活躍するに違いない。また、原作からドラマチックな部分を削ぎ落とすことで、主人公たち3人のユートピア的な世界を浮かび上がらせた三宅監督の演出も特筆したい。

 世界的に著名で、時間を経ても色褪せることのないビッチなヒロインといえば、米国の人気作家トルーマン・カポーティーが1958年に発表した小説『ティファニーで朝食を』に登場したホリー・ゴライトリーだろう。「ただいま旅行中」と記した名刺を持つホリー・ゴライトリーは、駆け出しのモデル兼女優で、親切な紳士たちからお小遣いをいただきながら浮き草生活を送っている。言ってみれば、ビッチさを生業にしている女性である。

 オードリー・ヘップバーンが主演した映画『ティファニーで朝食を』(61)のほうが原作小説よりも遥かに知られることになったが、映画を観たカポーティーが怒ったのは有名なエピソードだ。小説版のホリー・ゴライトリーは能天気そうに見えて、こだわりがあった。「自分に不正直な女になるくらいなら、病気でくたばったほうがずっとましだわ」と小説の中のホリー・ゴライトリーは主張する。狩猟民族のように旅を続け、自由に生きる気高さこそが、ホリー・ゴライトリーの魅力だった。映画版ではその自由な気高さは見事なまでに否定されている。タイトルと設定を借りて、作品の根底に流れるものを無視した映画版に、カポーティーが腹を立てたのも当然だろう。

 自分に正直に生きると、周囲の人々だけでなく、自分自身もボロボロに傷つけることになる。誰にでも容易に予測できることだ。それでもビッチと呼ばれる女性は、自分が本当に欲しいと願ったものに手を伸ばす。ボロボロに傷つくことを恐れない。野生の本能に忠実に生きるビッチほど、残酷で美しい生き物は存在しない。ビッチとは、自分に正直に生きる女に与えられた尊称である。

『寝ても覚めても』
原作/柴崎友香 脚本/田中幸子、濱口竜介 監督/濱口竜介
出演/東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤莉沙、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子
配給/ビターズ・エンド、エレファントハウス 
C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

『きみの鳥はうたえる』
原作/佐藤泰志 脚本・監督/三宅唱
出演/柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、山本亜依、柴田貴哉、水間ロン、OMSB、Hi’Spec、渡辺真紀子、萩原聖人
配給/コピアポア・フィルム、函館シネマアイリス 
C)HAKODATE CINEMA IRIS
http://kiminotori.com

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