『あなたのことはそれほど』波瑠が体現する、“不倫妻”のいびつさ

『あなたのことはそれほど』波瑠が体現する、“不倫妻”のいびつさ

『あなたのことはそれほど』(TBS系)

 火曜夜10時から放送中の『あなたのことはそれほど』(TBS系)は、W不倫を題材にしたドラマだ。

 主演はNHK連続テレビ小説『あさが来た』で主演を務めて以降、国民的人気女優となった波瑠。

「2番目に好きな人と結婚するといい」と占い師に言われた三好美都(波瑠)は、渡辺涼太(東出昌大)と結婚する。しかし、初恋の人だった有島光軌(鈴木伸之)と偶然再会。あれよあれよという間に、不倫関係になってしまう。

 結婚していることを隠して有島と付き合う美都。しかし、2人で温泉旅行に行ったときに、有島には妊娠中の妻がいて、子どもが生まれたことを知らされる。
 
 普通ならここで関係は破たんするものだが、美都は「大丈夫、私も結婚……してるから」と告白し、「無茶なこと言わないから安心して」と言って指輪を見せる。

 ドラマは現在折り返し地点に差し掛かり、妻の不倫を知って奇行に走る東出の怪演に注目が集まっているが、当初から気になってしょうがないのは、波瑠演じる美都の醸し出す「こいつ、なんなの?」という違和感だ。

『昼顔〜平日午後3時の恋人たち』(フジテレビ系)や『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)など、不倫を題材にしたドラマは多数あるが、本作が特殊なのは、ヒロインの美都に、不倫に対する罪悪感や葛藤が見えないことだろう。

 美都は、初恋の人と再会したという恋愛感情だけで有島と結ばれる。原作はいくえみ綾の少女漫画だが、美都の思考回路は、少女漫画のヒロインがそのまま大人になったかのような恋愛至上主義である。

 中高生なら許されたかもしれないが、大人になってもそのままだと「動物じゃないんだから、いい加減にしろ」と言いたくなるくらい、美都の思考は幼い。

 そんな美都を演じるのが、クールで落ち着いたイメージが強い波瑠だというのが、本作の面白いところだろう。

『あさが来た』以降、波瑠は聡明で落ち着いているが、周囲とどこかズレた変わった女性を繰り返し演じている。会社の社長と恋愛関係になるクールで強気な女性を演じた『世界一難しい恋』(日本テレビ系)。一見普通だが、犯罪者の異常心理に引かれている女刑事を演じた『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジテレビ系)。

 そして、何より面白かったのは、母親に溺愛されて育ったために精神的にスポイルされてしまった女性教師・早瀬美月を演じた『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)だ。

 母親役を演じた斉藤由貴の演技があまりにもすさまじかったために、普通の女性に見えたが、いま考えると、妙にエキセントリックなところもあり、どこかいびつさを感じさせる女性役だった。 

 このように波瑠は、自分は普通だと思っているが外から見ると何かがズレている役を演じてきたのだが、本作の美都は、そのズレが極限まで達しているように見える。

 美都のおかしさが一番出ているのはモノローグだろう。

 モノローグとは、心の中でつぶやく声。つまり、表には出さない本音なのだが、美都の場合「モノローグぶりっこ」とでもいうような、普段の芝居より、かわいらしいトーンとなっている。
 
 例えば第1話。勢いで有島とホテルに入った美都は「私、今きっと、もんのすごく悪いことしている。こんなの間違ってる」「だけど今、どうしようもなく幸せ」と、心の中でつぶやく。

 一見、不倫に対する罪悪感を告白しているように聞こえるが、声のトーンが普段の演技よりも軽いので「コイツ、楽しんでるな」という、浮かれた感じの方が、際立っている。

 第6話で、有島にLINEのメッセージを送る場面も、おかしい。

 美都からすれば、「ちょっと聞いてよ」程度の軽いトーンなのだろうが、返信が来ないのにメッセージを延々と送り続ける美都の振る舞いは、粘着ストーカー女そのものだ。 

 LINEを送る場所が、夫から逃げて泊まっているカプセルホテルというギャップも、見ていてゾワッとするのだが、画面に映っている波瑠の演技はシリアスなのに、心の声や文字は明るいトーンなので気持ち悪いものになっている。これが、主観ではキラキラとした純愛でも、客観的に見れば周囲に迷惑をかけているだけという「不倫の身もフタもない現実」を浮き彫りにしている。

 美都のような女を演じることは、わかりやすい悪女を演じることの何倍も難しいことだろう。しかし、波瑠は現実と内面のズレを通して、美都の中にあるいびつさを見事に体現している。

 なお、波瑠は自身のブログで「私は美都には共感できないけど、毎日やらなきゃ仕方ない」と書いている。

 共感できないと言い切ってしまうクールな距離感は、実に波瑠らしいと思う。
(文=成馬零一)

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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