『SRサイタマノラッパー〜マイクの細道〜』第8話 待望の神曲が降臨! そして極悪鳥ふたたび……

『SRサイタマノラッパー〜マイクの細道〜』第8話 待望の神曲が降臨! そして極悪鳥ふたたび……

テレビ東京系『『SRサイタマノラッパー〜マイクの細道〜』』番組サイトより

 1話につき正味20分しかないため、なかなか青森から川崎まで辿り着くことができない『SRサイタマノラッパー〜マイクの細道〜』。だが、第8話はかつてなかった大展開。伝説のタケダ先輩が兄弟で並び立ち、ついにIKKUが東京都内に足を踏み入れるという、『SR』史上に残るメモリアルなエピソード回となった。

 ここまでの流れを簡単に振り返ると、埼玉県にある福谷市で暮らすほぼニート男・IKKU(駒木根隆介)が川崎クラブチッタでのライブイベントのオープニングアクトに応募したところ、抽選に当たったことが旅の始まり。もうすぐ嫁との間に子どもが生まれる相棒・TOM(水澤紳吾)を強引に誘って、ヒップホップグループ「SHO-GUNG」を再結成。そして、かつて仲間だったMIGHTY(奥野瑛太)を連れ戻しに、青森県大間へと向かった。前科者であることから実家に戻ることを拒んでいたMIGHTYだったが、「人生をリセットする」ために最初で最後のステージに立つことを決意する。

 ドスケベなトラック運転手カブラギ(皆川猿時)のデコトラに乗って、家出娘トーコ(山本舞香)と共に東北道を南下する「SHO-GUNG」。途中、福島にあるヒップホップ寺に立ち寄り、1週間の修業に耐えれば、タケダ住職(上鈴木伯周)から新曲を用意してもらえるという約束を交わす。修業を通して「言葉は友達♪」になった「SHO-GUNG」だったが、IKKUの妹・茉美(柳ゆり菜)の結婚式とライブが重なっていることが判明し、IKKUは激しく動揺……というのが前回まで。

 クラブチッタのステージに「SHO-GUNG」として立つか、それとも妹のためにライブを蹴って、結婚式に出席するか。IKKUは悩んでいる。IKKUの苦悶はある意味、必然でもあった。外界から隔離されたお寺で修業に励んだことで、自分にとってのリリックとは何か、表現とは何かをIKKUはいろいろ考えた。表現を突き詰めていくと、自分自身の問題、そして家族の存在にぶつかる。『マイクの細道』の前クールに放映されていた『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)では映画プロデュースに初挑戦する山田孝之が“親殺し”をテーマに選んだように、IKKUにとっては父親の命令に逆らい、妹の結婚式を反故することは“親殺し”に等しい行為だった。家族という呪縛から、精神的にも経済的にもどう自立するかは、人間にとっての永遠のテーマだ。

 TOMやMIGHTYと一緒にいると気まずいため、夜の本堂にひとり佇むIKKU。翌朝、タケダ住職に俳句を提出すれば、念願の新曲がもらえるはずだった。だが、なかなか筆が進まない。メタボ体型の体を小さく丸めていたIKKUに、「妹さんの結婚式、出なきゃダメだよ」と声を掛けるトーコ。好きでもない相手との結婚を嫌って、大間の実家を飛び出してきたトーコだが、実はみんなから祝福される結婚を願っていることが分かる。本音で語り合うことができるトーコは、すでに「SHO-GUNG」の旅の仲間だった。

 そして朝。「SHO-GUNG」の3人はギクシャクしながらもタケダ住職の前に集まり、それぞれの心境を俳句に詠む。

TOM「草の芽を 歌ふるわせる 猪苗代」
MIGHTY「登っても いばらにいばら ラップ道」

 ひと晩考えた割には、あまりパッとしない出来。そしてIKKUは……。

IKKU「福谷にも 待ちびとありや 兄妹の」

 季語がないし、うまくもないけど、この一句はタケダ住職の胸に突き刺さった。タケダ住職の双子の弟、伝説のタケダ先輩は福谷市の実家で若くして病気で亡くなった。そのタケダ先輩が病床で作った最後のトラックを託されたのが「SHO-GUNG」だった。

IKKU「タケダ先輩の死に目には会えませんでした。でも、葬式のときは安らかな顔でした」

 タケダ住職は修業に出てから一度も実家には戻っておらず、弟であるタケダ先輩の葬式にも出ていなかった。そんなタケダ住職は新曲の入った音源を渡しながら、「SHO-GUNG」に頼み事をする。

タケダ住職「用が済んだら、このトラックは弟の仏前に供えてほしい」

 兄タケダ先輩はこの後、きっとひとりで泣くことだろう。

「SHO-GUNG」とトーコの新しい旅立ちだった。赤鬼(市オオミヤ)と「五福星」に別れを告げるTOMとMIGHTY。「最後に決めるのは自分自身」という赤鬼の言葉にうなずいてみせるIKKU。トーコは青鬼(野村周平)にコクろうとするが、すでに2人は以心伝心の仲だった。「何かに迷ったらいつでも来てください。美味しい料理をまた」と青鬼から先に言われてしまう。トーコの恋は実らなかった。でも、料理の道に進む決心がつき、心は晴れやかだった。そして、山門をくぐるIKKUの目には、タケダ住職&タケダ先輩(上鈴木伯周&上鈴木タカヒロ)が2人並んで自分たちのことを見送ってくれているように感じられた。

 川崎に向かって爆走するカブラギ号に、兄タケダ先輩が作ってくれた新曲が流れる。生きるということは、死ぬまで悩み続けるということ。悩みながら、傷つきながらも、前へ進んでいこう。そんなポジティブな気分にさせてくれる明るいミディアムテンポの曲だった。新曲を聴きながら、クラブチッタで披露するリリックをそれぞれノートにしたためる「SHO-GUNG」。そして料理の勉強をしたいとカブラギに伝えるトーコ。音楽を聴いても、決してお腹は満たされない。でも音楽はコドクな人間の心を癒し、迷っている人間の背中を力強く押してくれる。『マイクの細道』のシリーズを通して、サイコーにハッピーな時間が流れていく。

 このままハッピー気分で終わればいいのにと思うけど、そうはしないのが入江悠監督であり、『SRサイタマノラッパー』の世界。喜びと哀しみはいつも背中合わせの関係だ。待望の新曲は手に入ったが、まだIKKUの問題は解決されていない。ドライブインで昼食を兼ねた緊急会議が開かれ、「IKKUはライブを優先するべき」がMIGHTYとカブラギの2票、「IKKUは妹の結婚式に出るべき」はトーコとTOMという結果に。人と争うことが苦手だったはずのTOMがMIGHTYとケンカを始めてしまう。

TOM「家族のほうが俺らより歴史がなげぇだろ。生まれてから死ぬまでなんだからさ」

 いつも当たり前のことしか言わない退屈な男・TOMだが、当たり前すぎてこの言葉にはハッとさせられる。このままでは自分の家族だけでなく、「SHO-GUNG」までバラバラになってしまう。IKKUは「俺、やっぱり行くよライブ」という言葉で、その場を収めるしかなかった。

 栃木県日光を通過するカブラギ号に、危うく轢かれそうになる2人組の男。『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)でIKKU、TOMとコラボした「征夷大将軍」だ。「征夷大将軍」はもう解散したけど、残ったメンバーで地元の名産ギョーザをネタにしたラップづくりに励んでいた。走行中の車には気をつけて、頑張ってほしい。

 トーコがスマホで見つけた調理専門学校を見学するため、一行は『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)でおなじみ赤羽で途中下車することに。ここでIKKUのスマホに着信音が。妹の茉美からだ。「ライブがあるから、結婚式には出られない」とIKKUが告げると、「もういい。勝手にすればッ」と号泣する茉美。自分よりしっかりしていると思っていた妹だったが、子どもの頃のように自分のせいで泣き出してしまった。電話口で泣く女の声ほど、男の胸を切り裂くものはない。ライブまであと2日だが、まだIKKUは迷っている。
 
 そして“魔境”赤羽に現われたのは、極悪ヒップホップグループの「極悪鳥」。『SR3』でMIGHTYが起こした傷害事件が原因で「極悪鳥」もまた解散に追い込まれ、中心メンバーだった大河(橘輝)や海原(板橋駿谷)は闇金系裏ビジネスに従事して生き延びていた。ひとりでタバコを吸っていたMIGHTYは、大河と海原に睨まれて、金縛り状態に。ボコられた上に拉致られてしまう。

 全11話で、最終回は川崎クラブチッタでのライブ編になるだろうから、残り9話と10話で、MIGHTY奪回作戦とIKKUの家族問題を同時に解決しなくてはならない。牧歌的ムードの音楽ロードムービーから、急展開のサスペンスドラマへ変調していく『マイクの細道』。残りのエピソードから目が離せない!
(文=長野辰次)

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