日本映画のポスターがダサいのは原因があった!? 『獣道』プロデューサー、アダム・トレルが大放談

日本映画のポスターがダサいのは原因があった!? 『獣道』プロデューサー、アダム・トレルが大放談

アダム・トレル氏

 日本映画ってポスターやフライヤーがダサい。そう感じたことはないだろうか? ネットなどで海外の映画のポスタービジュアルを見ていると、すごくオシャレでかっこいいのに、なんでこうも違うのか。そんな疑問に答えてくれたのは、英国出身の映画プロデューサーであるアダム・トレル氏。日本のインディペンデント映画の秀作を海外へ配給する一方、現代版“男はつらいよ”の世界を描いた藤田容介監督の『福福荘の福ちゃん』(14)や原発問題に真正面から斬り込んだ園子温監督の『希望の国』(12)といった話題作をプロデュースしている。単館系でロングランヒットを記録した『下衆の愛』(16)の内田英治監督と再びタッグを組んだ最新プロデュース作『獣道』は、7月15日より東京での公開が始まったばかり。日本映画をこよなく愛するがゆえに辛辣な意見も口から飛び出すトレル氏に、日本映画界のいい面とダメな面について語ってもらった。

 東京で始めたのは2014年からだが、独学で学んだという日本語は流暢で気っ風がいい。まずは日本映画界の“いい面”について。

アダム・トレル「日本人は、みんな映画は映画館へ観に行く。これは素晴しいこと。映画はまず映画館で公開され、半年後にDVD化され、さらにその後にオンデマンド化されるようになっています。日本では昔からのルールが今も守られている。でも、欧米ではNetflixが大きな力を持ち、映画の公開とネットでの配信が同時になっています。みんな自宅で映画を観るようになり、DVDレンタル店はすっかり減り、街から映画館もどんどん消えています。その点、日本では映画館で映画を楽しむという文化が守られている。しかも、日本はインドやハリウッドに次ぐ映画製作本数を誇り、まぁこれは多すぎだと思うけど、『下衆の愛』や今回の『獣道』のような低予算の映画でも、面白い作品は2〜3週間やそれ以上上映してくれる。映画館に通って、インディーズ映画を応援する日本の映画ファンは本当に素晴しい」

 ゼロ年代の個性豊かな日本映画を英国で配給してきたトレル氏は、園監督が資金集めに苦戦した『希望の国』をきっかけにプロデューサーとして日本映画の製作現場に足を踏み入れるようになった。だが、そこで驚いたのが“製作委員会方式”という日本映画界ならではのシステム。映画会社だけでなくテレビ局、出版社、ビデオメーカーなど様々な企業が製作費を分担し、興行リスクを減らすために編み出されたものだが、映画の内容に興味のない人たちが委員会に参加していることには違和感を覚えたという。

トレル「人気アイドル事務所の誰々が出演すればファンを動員できるとか、製作委員会の参加者はお金のことしか関心がない。クリエイティヴィティなことには興味を持っていない。映画への愛情が感じられない。何十億円も投じた大作映画なら分かるけれど、2,000万〜3,000万円規模のインディペンデント作品でも製作委員会方式になっていることにはびっくりした。製作委員会ではA、B、C、D……とフォーミュラ(慣習的やり方)で仕事が進んでいく。製作委員会方式では面白い映画はつくれないと思う。もし、面白い映画ができたとしたら、それは単なる偶然。製作委員会方式が嫌で、内田監督の『下衆の愛』は自主映画として作った。製作費は5万ドル以下で、俺の家や行きつけの居酒屋で撮影した。お金はなかったけど、愛とパッションで撮った映画。海外の映画祭で上映されたし、米国、ドイツ、台湾、香港、中国、韓国へ配給でき、イタリアでのリメイクも決まった。映画が面白いかどうかは、製作費がどれだけあるかではなく、愛とパッションがあるかどうかだよ」

■日本人も知らない日本文化を伝えたい

 内田監督との2度目のタッグ作『獣道』は、愛とパッションに加え、映画的な面白さが溢れた作品だ。地方都市を舞台に、カルト教団で育った少女・愛依(伊藤沙莉)が自分の居場所を求めて、ヤンキーコミュニティーに溶け込こんでいく姿が描かれる。カルト教団や崩壊した家庭といった要素は、園監督の大ブレイク作『愛のむきだし』(08)を彷彿させる。また、英国人プロデューサーのアダム氏がヤンキーカルチャーを題材にした映画を製作するというのもユニークだ。

アダム「園監督の『愛のむきだし』を海外で配給したところ、大変な人気になった。それまでの園監督は『自殺サークル』(02)などエクストリーム系の監督のひとりくらいにしか欧州では認識されていなかったけど、『愛のむきだし』が大ヒットし、『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』(11)も当たった。内田監督から『獣道』の内容を最初に聞いたとき、俺も『愛のむきだし』と似ているなと感じた。海外ではカルト宗教は人気の題材なので、すごくいいと思った。『獣道』の英題は『Love and Other Cults』。ヤンキー文化に関しては、俺は素養があった。『ビー・バップ・ハイスクール』(85)や『スケバン刑事』(フジテレビ系)を子どもの頃に観ていたしね。海外の不良はギャングっぽくて怖いけど、日本のヤンキーはどこか可愛げがある。それにヤンキー文化は英国のモッズカルチャーと通じるところがある。どちらも労働者階級の文化で、彼らは月曜から金曜まで一生懸命働いて、週末は稼いだお金でバイクを改造したりファッションに使って、みんなでツーリングする。モッズは黒人音楽が好きで、ヤンキーは永ちゃんが好き。音楽が重要なのも一緒(笑)。すごく通じるところがある。俺、70〜80年代の日本のアイドルグループも大好きで、ピンクレディやキャンディーズのグッズをコレクションしていた。メジャーなアイドルだけじゃなくて、キャンディーズの妹分だったトライアングル、フィーバー、キャンキャンまで集めてた。日本人も知らない日本の文化をみんなに伝えたい。自分でもおかしいと思うよ。ヤバいよね(笑)」

 上映時間237分だった『愛のむきだし』に対し、『獣道』は94分で家族や社会に翻弄されながら生きていくヒロイン・愛依の過酷な青春が濃密に描かれていく。愛依を演じた伊藤沙莉はテレビドラマで活躍した人気子役出身だが、『獣道』では金髪に染めてのヤンキーファッション、清純そうな中流家庭風ファッションなど自分を受けいれてくれる環境に応じて次々と擬態していく。自分の居場所を失いたくないために上半身裸になるシーンもあり、まさに体当たりの熱演で『獣道』を完走してみせた。

アダム「伊藤沙莉は本当にヤバいよ(笑)。彼女は女優としてもちろん人気もあるけど、大事なのは人気よりも演技ができるということ。彼女が脱ぐシーンは、脱ぐことで自分の心を見せる重要な場面だった。逆にSEXシーンでは脱いでない。彼女はちゃんとそのことを理解してくれて演じてくれた。彼女の所属事務所は、タレントではなく俳優をマネージメントしている、映画に対して理解のある会社でよかった。これが製作委員会方式だったら、『もっと有名なアイドルを使え』とか言ってきて、その結果このシーンもなくなっていたかもしれない。もしくはセールスのためにヌードシーンを増やすよう言われたかもしれない。内田監督は女優の演出がうまいし、キャスティングのセンスもいい。今回もすごくいいキャストが集まった。ヤンキー役の吉村界人もいいし、演技は初めてのアントニーも悪くない。子役時代も含めて長いキャリアのある須賀健太は安定していて、もう何も言うことがない(笑)。最初の編集段階での『獣道』はすごく長かったけど、俺は編集に関しては厳しい。最近の日本映画はダラダラしたのが多すぎる。映画は映像と音も大事だけど、テンポをよくしないと海外では観てもらえない。最初から最後まで監督と一緒になって映画をよくするための努力を惜しまない、それがプロデューサー」

■日本のコメディは海外にも需要がある

 これまで海外では、日本映画といえば三池崇史監督の『オーディション』(00)をはじめとするエクストリーム系か中田秀夫監督の『リング』(98)のようなホラー作品しか知られていなかったが、日本のインディペンデント系のコメディ作品には個性的な作品が多く、海外でも需要があると話す。

アダム「藤田監督の前作『全然大丈夫』(08)はロンドンで劇場公開されるほど人気が高かったから、『福福荘の福ちゃん』もつくった。三木聡監督も英国で人気がある。三木監督の『亀は意外と速く泳ぐ』(05)、『転々』(07)、『インスタント沼』(09)をDVD-BOXにしたら、すごく売れた。三木監督も藤田監督もモンティパイソンを見て育った世代で、彼らのちょっとブラックな笑いは英国人も大好き。日本のインディペンデント系監督のコメディはとても個性的で、海外でもっと売れる可能性がある。藤田監督や三木監督のオリジナル作品を求めているファンは海外に多い。日本には才能のある監督が他にもたくさんいる」

 最後になったが、冒頭で触れた「日本映画のポスターがダサいのはなぜか」という問題について。アダム氏が運営する配給会社「Third Window Films」のwebサイトには日本のポスターとは異なる、オシャレな英語版のポスタービジュアルが並んでいる。日本と海外とでポスターがこうも違うのはどうしてなのか?

アダム「日本の映画のポスターやフライヤーはすごく説明的。出演者は誰々で、どんなストーリーかも文字でびっしり説明されている。予告編もそう。日本のフライヤーと予告編を見たら、内容がだいたい分かってしまう。『これはどんな映画なんだろう』と見た人がもっとミステリアスに感じ、興味を持たせるようなものにしないとダメ。海外では日本の出演者が誰かということには興味が持たれないので、日本版のポスターをそのままは使えない。今後はますますオンデマンドが主流化していくから、キービジュルはより重要になってくる。それに映画はアートなんだから、ポスターやフライヤーもアートじゃないとね。日本映画のポスターやフライヤーがダサいのはデザイナーの責任ではなく、ディレクションしている映画会社の宣伝担当者の問題であり、ポスターやフライヤーにまで口を出してくる芸能事務所が大きな問題。主人公だけ映ったポスターを予定していたら、『うちの俳優もポスターに入れろ』『斜めじゃなくて、正面から顔が映ったものにしろ』とか文句を言ってくる。日本映画のポスターがどれもこれも同じように、出演者の顔だらけなのはそのため。映画のクリエイティヴな面にまで口を挟んでくる日本の芸能事務所はおかしい。まぁ、『獣道』のポスターはやり過ぎかもしれないけどね(笑)」

 前作『下衆の愛』の上映期間中は、都内の上映館のエントランスにアダム氏が立ち、手作りのポストカードを入場者にひとりずつ配る姿が連日続いた。お客さんと話すことが楽しいし、お客さんから映画の感想や意見を聞いて、次回作はよりよいものにしたいという想いからだった。『獣道』でも都内での上映期間中は基本、映画館でお客さんを出迎え、見送るつもりだという。『獣道』をスクリーンで楽しんだ後は、ぜひアダム氏の生トークにも触れてみてほしい。
(取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)

『獣道』
監督・脚本/内田英治 プロデューサー/アダム・トレル
主題歌/餓鬼連合(餓鬼レンジャーwith伊藤沙莉)
出演/伊藤沙莉、須賀健太、アントニー、吉村界人、韓英恵、冨手麻妙、松本花奈、川上奈々美、毎熊克哉、マシュー・チョジック、矢部太郎、でんでん、広田レオナ、近藤芳正、篠原篤、日高七海、大島葉子、アベラヒデノブ、川籠石駿平、根矢涼香、衣緒菜、森本のぶ、水澤紳吾、松井薫平
配給/スタイルジャム 7月15日よりシネマート新宿ほか全国順次公開中
(c)third window films
http://www.kemono-michi.com

●アダム・トレル
1982年英国ロンドン生まれ。22歳のときに配給会社「Third Window Films」を立ち上げる。園子温監督の『愛のむきだし』(08)、『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』(11)、『ラブ&ピース』(15)などを英国で配給し、園監督の海外での人気を高めた。資金集めが難航した園監督の『希望の国』(12)には共同プロデューサーとして参加。2014年より日本に来日しての映画製作も始め、『福福荘の福ちゃん』(14)や『下衆の愛』(16)をプロデュースしている。

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