『ザ・ノンフィクション』42歳ホスト・伯爵、売り上げランキングに返り咲くまで――「もう一度、輝きたくて」

『ザ・ノンフィクション』42歳ホスト・伯爵、売り上げランキングに返り咲くまで――「もう一度、輝きたくて」

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つフジテレビ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』。5月5日放送のテーマは「もう一度、輝きたくて」。42歳のホスト・伯爵が、売り上げランキングに返り咲くための奮闘の日々を追ったものだ。

あらすじ:42歳、崖っぷちホストが起死回生の一手に選んだ「TikTok」

 今回の主人公は歌舞伎町のホストクラブ「ROMEO」で働く42歳ホスト、伯爵だ。番組は、特定の場所や人物を定期的に追い続けており、ROMEOや伯爵もその「定点観測」の対象になっている。ROMEOが舞台の回では、ほぼ毎度登場するイケメン社長・ナイトの姿も確認でき、元気でいたのだとうれしくなった。ナイトのように「会ったことがないのになじみ」な人たちができるのも、『ザ・ノンフィクション』の醍醐味だ。

 10年前の2009年、伯爵は一世を風靡したホストだった。しかし、客層が20〜30代前半の女性で占められるホストクラブにおいて、現在の伯爵は客からも疎んじられている。月給は5万円まで落ち、平成生まれの後輩ホストに濃い酒を無理やり飲ますなど「昭和ホストの体育界系の洗礼」も反発を呼ぶなど、破れかぶれの日々が続く。

 伯爵の絶頂期を知るナイトからは経営に移ってみてはと諭されるが、売り上げランキングに返り咲いたら飲もう、と誓いつつ急逝した友のためにも、伯爵は現場にこだわり続ける。後輩に教えを請い、その中で起死回生の一手として伯爵が選んだのはSNS。ショート動画投稿アプリ「TikTok」を使いこなし集客につなげている後輩売れっ子ホスト、しゅんPのアシストもあり、月間売り上げナンバー4へと返り咲く。

女性客に「ホストとしてヤバい」とやり込められる

 伯爵は、ホストなのに会話がヘタだ。たとえるなら、大学の飲みサークルで自分は“ウェイウェイ系”だと本人だけが思っているような感じで、これは男子大学生がやっていても痛々しいのに、42歳でやられるとただひたすらに厳しい。女性客に「(伯爵といても)発散できる気がしない」とキツイ言葉を浴びせられ、さらに「言い返せないなんてホストとしてヤバい」とまでやり込められるが、大金を払っているのに、このノリをやられ自分のボトルの酒を飲まれれば、腹が立つ気持ちもなんとなくわかる。

 一方、昨年、歌舞伎町の超有名ホストクラブ・愛本店の、売れっ子ホスト・壱氏を取材したことがある。壱氏は取材中思わず頬が緩んでしまうようなイケメンだったのだが、その美しい顔やスタイルよりも驚いたのが「聞き上手」ぶりだった。インタビューの仕事で来ているのに、話していてこちらが楽しくなってしまうという壮絶スキル。相手に気持ちよく話をさせることで魅了させる。これが一流ホストの技なのかと感銘を受けた。

 容貌はやはり加齢で衰えてしまう。伯爵は今42歳だが、35歳くらいでトークスキルを鍛えねばこの先マズいと、危機感を抱かなかったのだろうかと思う。しかし一方で、伯爵のこのあまりあれこれ戦略を考えない天真爛漫さが、10年前の、ナイトも憧れた一時代を築いた伯爵の魅力だったのかもしれない。

 そして、伯爵が10年前に成功を収めたのは、当時の時代背景とマッチしていたのもあったのではないだろうか。08年には、島田紳助が司会を務めていたクイズ番組『ヘキサゴンII』(日本テレビ系)から、珍回答でおバカタレントとして人気を博したつるの剛士、野久保直樹、上地雄輔によるユニット「羞恥心」が結成されている。10年前は「アホっぽさ」に時代の追い風が吹いていたのだ。さらに、当時の伯爵は、メンズナックラー(ミリオン出版「メンズナックル」に掲載されるような、オラオラ系ギャル男ファッションの男性)を煮詰めたような風貌をしている。その時代に抱かれた男であったことは間違いないだろう。

 しかし時代の空気は薄情なまでに移ろいやすい。10年後の19年はSNSの普及により、一般人であろうが「見せる自分」と無関係でいられなくなった。動画で集客にもつなげている後輩ホストのしゅんPは、動画に上げる自分と実際の自分は別だと話していた。今は「おバカ」でなく「自己プロデュースができ、空気を読めるしたたかさと賢さ」に時代の追い風は吹いている。そしてきっと、10年後はまたまったく違ったものが求められるのだ。

アラサー以降の10年は人生屈指の難所

 今、日本の都市部で暮らすなら、男女ともに、我が世の春は「アラサー」くらいなのではないだろうか。働きだした頃より経済的に余裕ができ、自信もついて、容貌もまだ衰えが見えず体力もある。感性も腐らずそれでいながら青臭さも抜け、一番冴えている年代なのではないかと思う。

 だからこそ、アラサー以降の10年は人生でも相当険しい山になる。かつてより、さまざまなことが衰えたことに嫌でも気づかされる“終わりの始まり”で、現に「中年クライシス」という言葉もある。私自身もアラサーの頃、自分が40歳になるイメージがまったくつかなかった。上から見た滝は落ちている先が見えない。そんなように年を取った自分なんて絶頂期の自分には想像もつかず、そもそも想像すらしなかった。

 しかしながら生きていれば年を取る。滝の先にも川が続いていることに気がつくのが、「アフター・アラサー」の世界だ。そこにだって、前には気づかなかった良いものがあると、その世代の中にいる一人として本当に思うが、やはり姿かたちはわかりやすく若い方がいいのだ。気を抜くとすぐ腹につくようになった肉。「あーあ」という中で、それでも日々を生きていく。外見を商売にしているホストとなれば、なおさら「あーあ」感は日々積み重ねられるのだろう。

 42歳の伯爵は、不慣れな手つきでTikTokの動画を作り投稿する。作った動画も若者ノリで、それがかえって伯爵が若者じゃないことを浮き彫りにしており、もしかして伯爵は自分のことをいまだに24歳くらいに思っているのでは、とうすら寒い気持ちにもなった。しかし、滝の先にある人生を伯爵は奮闘し生きているのだと思うと、もう、それだけで同世代としては頑張れとしか言えない。伯爵は確かに42歳にしては、いろいろ足りないところもあるが、一方でそれゆえの「作った」感のない天真爛漫さや愛嬌があるのだ。欠点は魅力なんだとつくづく思う。

 TikTok効果と愛嬌もあってか、伯爵のもとにはボトルを入れてくれる男性客や、高い酒でなく焼酎のボトルしか入れられないことを詫びる21歳の女子が来店する。その女子に対し「(月末の売り上げランキング発表を)一緒に見てくれるだけでいい」とキザでいながら女心をくすぐるセリフが自然と出ていた伯爵はさすが見事にホストだった。

 次回、5月12日のザ・ノンフィクションも舞台は歌舞伎町。「歌舞伎町で生きる〜その後の沙世子〜」、26歳沙世子ママの日々を追う。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

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