『ザ・ノンフィクション』五輪という夢と呪い「運命を背負い続けて〜柔道家族 朝飛家の6年〜」

『ザ・ノンフィクション』五輪という夢と呪い「運命を背負い続けて〜柔道家族 朝飛家の6年〜」

ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

 NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。7月7日放送のテーマは「運命を背負い続けて〜柔道家族 朝飛家の6年〜」。1964年の東京五輪から3代続く柔道一族の悲願「五輪出場」を目指す日々。

あらすじ:3代続く柔道一族の「五輪出場」への悲願

 横浜で50年続く歴史ある柔道教室・朝飛道場。道場を開いた朝飛速夫は1964年の東京五輪でコーチを務めるも、無差別級の決勝で日本人選手の敗北を目の当たりにし、息子・大を五輪柔道選手に育て上げようと決意。しかし、早くに他界してしまう。遺志を引き継いだ大は、全日本選手権に出場するも五輪への夢はかなわず、夢は大の子どもの三人姉弟に託される。

「楽しいとはちょっと違う」の切実さ

 昔は半べそをかいていたがたくましく成長した長姉・七海と、三人姉弟の真ん中らしくマイペースな次姉・真実、パワフルな姉二人の影でおとなしい末っ子の太陽。道場の卒業式ではきょうだいでコントをするなど、和やかな家族だ。

以前、私がスキーに行ったとき、小学生くらいの息子を連れた父親がいた。子どもをプロのスキーヤーにしたいようで、父親は息子をかなりヒステリックに叱りつけ、息子はずっとうつむいていた。「毒親だ……」と雪山で気がめいってしまった。子どもは親の代理戦争の駒ではない。この一件があって以来「スポーツ父子鷹もの」を見ると身構えるようになっていたが、今回の朝飛家は穏やかな雰囲気で安心した。

 「毒親家庭」では、モンスターとなった母親と、家庭の問題に無関心な父親がペアになっているケースが多いように思うが、スポーツ系の「毒親家庭」は立場が逆転し、父親がモンスターに、母親は父親を止められない無力な存在となるように思う。しかし、朝飛家はそうではない。親子間で軽口をたたき合う姿は「柔道一家」の言葉で想起されるイメージより、ずっとカジュアルだ。

 子どもたちへの指導も、ナレーションでは「厳しく指導する」みたいに言われていたが、理屈のある叱り方であり、理不尽さは感じられない。また、印象的だったのは、大が「親の仇になっちゃいけないんですけどね、子どもたちの人生がね」と話していたことだ。

 しかし親子仲が悪くないといっても、「五輪を目指す」以上、子どもたち3人は普通の子どもが送る青春とは全く異質のストイックな10代、20代を過ごすことになる。

 七海は五輪代表の強化選手に選ばれるも、各階級で五輪に出られるのは1名のみ。柔道は日本の“お家芸”ゆえ強敵がひしめく中、ただ勝つだけではなく、勝ち続けなければ代表の座を射止めることはできない。そして、七海の五輪出場は絶望的になってしまう。大きな目標を失い、膝のケガを負い、大に止められても振り切って練習に参加していた姿が気の毒だった。五輪を目指すのは楽しいか、というスタッフの質問に、「いろんな気持ちになることがあるので、一言で楽しいというのはちょっと違うかなって」と七海は笑って話す。「楽しいです!」と偽った気持ちを答えることなく、率直に心境を表した七海の姿に、やせ我慢、根性、忍耐が美徳とされていた昔のスポーツ界からの進化を感じた。

 あらためて思うが五輪は残酷だ。4年に一度のため、選手としてのピークが五輪のタイミングに合わずに涙をのんだ人もいただろうし、選手として絶好調でありながらも、くだらない政治のしがらみの巻き添えを食らい、出場がかなわないことだってあるだろう。

 テニスやゴルフでは「4大大会」が毎年行われ、こういった大会も含めたシーズンでの獲得賞金総額で賞金王を争う。賞金王を逃しても、「4大大会」に出場することの栄誉や注目度は大きく、勝ち上がる姿は盛んに報じられる。サッカーは、五輪よりワールドカップの方が注目を集めているし、野球にはWBCがあるが、なによりプロ野球や高校野球といった国内大会の方が関心度は高いのではないか。つまり“五輪は大切な大会だけれど、それがすべてではない”スポーツはある。

 柔道も「世界柔道選手権大会」は毎年開催されているし、五輪と同等かそれ以上の権威ある大会とされているようだ。しかし、朝飛家においては「五輪以外の大会は五輪のための通過点(だから、勝ち続けないといけない)」のように見ていて感じた。他大会で優勝しようが、結局4年に1回、各階級1人しか選ばれない五輪に出られないとダメ、というのは、もはや呪いのようにすら思える。

 そして、これは何も朝飛家に限らず「五輪以外は五輪に選ばれるための通過点」、もっと極端に言ってしまえば「五輪以外は大会に非ず」と考えている競技者や、競技者の親、指導者はほかにもたくさんいるだろう。この厄介な呪いは、競技を観戦するファンを増やすことが地味ながらも「五輪だけではない」につながる道を開くようにも思える。ファンが増えれば「五輪以外」だって育つのではないか。先に上げたテニス、ゴルフ、サッカー、野球はファンが多いスポーツだ。

 基本的にその競技をやってみれば観戦も楽しめるようになるが、あらゆるスポーツをやるわけにもいかない。そこで重要なのは解説ではないだろうか。解説者は、競技者にしかわからない競技の奥深い魅力や、選手が考えていることなど観戦のポイントを一般視聴者に伝えるのが仕事だと思う。しかし、その出来も解説者によって大きく異なる。ダメな例としては、選手が結婚したとか子どもの名前とか、そんなことばかり話すタイプがある。「初心者はどこを見ればいいのか」「競技経験者のための上級解説」など、「スポーツの魅力を伝える」側にできることはたくさんあるように思えるし、それが競技者たちの「五輪の呪い」を解く一助になるのではないだろうか。

 次回の『ザ・ノンフィクション』は「ボクは梅湯の三次郎〜野望編〜」。廃業寸前だった銭湯「サウナの梅湯」を25歳で引き継いだ湊三次郎。梅湯を人気店に育てあげ、2軒目の銭湯運営という「野望」を抱くが、個性豊かなスタッフのマネジメントに四苦八苦……、そんな奮闘の日々を追う。

石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂

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