鳥山明を見いだした鳥嶋和彦が語る 信頼される編集者って?

鳥山明を見いだした鳥嶋和彦が語る 信頼される編集者って?

鳥嶋和彦さん/「これぞマンガだと思う」作品は『進撃の巨人』

 80年代、鳥山明を世に送り出し、90年代後半には低迷期の『週刊少年ジャンプ』を立て直した伝説の編集者・鳥嶋和彦さん。『手塚治虫文化賞20周年記念MOOK マンガのDNA―マンガの神様の意思を継ぐ者たち―』で、現在白泉社代表取締役を務める鳥嶋さんから見た今の『ジャンプ』について、「編集者」について率直に語っていただいた。その一部を特別に公開する。

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 編集者といういわば裏方の鳥嶋さんが多くの人に知られることになったのは、鳥山明が大ヒット作『Dr.スランプ』の中で、鳥嶋さんを悪役キャラ「Dr.マシリト」として登場させたからだ。鳥嶋さんは、鳥山明を見いだし、続く『ドラゴンボール』という世界的な大ヒット作を生むマンガ家に育て上げた。97年から5年間編集長を務め、低迷していた『ジャンプ』を立て直すなど、深く関わってきた鳥嶋さんは、『週刊少年ジャンプ』をどう見ているのだろう。

「新しい才能に、一番敏感な雑誌。さっきも言ったように時代状況を瞬間的にすくいあげるのがマンガだと思うんだけど、一番それができる雑誌だと思う。だから『ジャンプ』は新人を起用し続けるんだよ」

 では、今の『ジャンプ』は?

「ダメだね。編集者が全然なってない。今の新人の連載マンガを見ていると、過剰なんだよね。設定に凝りすぎている。打ち合わせで、編集者が引き算しないといけないんですよ。設定に凝るとマンガを作っている気になっちゃうんだけど、それはマンガの形をしているだけで、マンガじゃない。どんなに設定に凝っていたとしても、魅力ある人物が描かれていなければ読者はその世界に入っていけないんだよ。過剰な設定を、削っていくのが編集者の仕事なのに、今の編集者はそれができていない」

「担当する作家の良さがどこにあるかわかっていないんだよね。作家には『描きたいもの』と『描けるもの』というのがあって。編集者は作家と一緒に『描けるもの』を見つけないといけない。それは作家自身の中にしかないものだし、逆にそれがあるから作家なんだよ。それがないなら作家を辞めたほうがいい」

 だが今のマンガ界を見てみると、作家はまさに憧れてきた作品を「描きたい」と願い、それを描き、読者の側も、好みの系統の作品を読み続けたいと願う。作品は順調に売れ、需要と供給のバランスがとれているようにも見えるのだが……。

「それって、果たして本当に売れていると言えるのかな。ちょっと売れているだけなんじゃないかなあ。『描きたいもの』じゃなくて、『描けるもの』を描けばもっと売れるのかもしれないよね。ちょっと売れるものを作るのは時間の無駄でしょう?」

「だから編集者は作家の中にある『描けるもの』に気付かせなければいけないんだよ。手塚さんとかちばさんは、たぶん自分で『描けるもの』に気づけた人なんだけれど、そんな人は何人もいないと思う。それとね、編集者は作家に“信用”されているうちはダメなんだ。それはAクラスの編集者。信じて頼られる、“信頼”されるのが、Sクラスの編集者」

 どうすれば信頼される編集者になれるのだろう。

「どんなにつらくても、自分が言ったことは必ず守ること。編集者の作家に対する言葉は、契約書と一緒だからね。編集部の意見と作家の意見が対立したら、必ず作家側に立たなくてはいけない。編集部に作家はたくさんいるけれど、作家には編集者は一人しかいない。目の前の人間が裏切ったら、作家はやっていけなくなるんだよ」

 キャッチーで鋭い、その発言を本などにまとめる予定は?と聞くと「ないよ!」と即答。「だって編集者だもん」。現在、3年という期限付きで白泉社の社長を務めるが、マンガ編集者としての視点でものを見続けている。

「マンガ“雑誌”の編集者ね。そこはこれからも変わらないと思う。3年間で本当の意味で僕がやれること、僕が興味があることは、編集者を育てること。編集者を一人育てたら作家が10人育つから」

「今日みたいにこうやって取材で人と会って話をすると、自分が何を考えているかがわかってくるの。でも同じジャンルの人と会って話したり、同じジャンルのものを見ることに興味はなくて。興味があるのは……例えばこういうの」

 手元にあった週刊誌を開き、海外で大ブレーク中のダンスユニット「BABY METAL」を指した。

「これはハマるよね。仕掛けた人は、頭がいいなあと思う。異ジャンルでこういうことをやっている人を見るとワクワクする」

 3年後、何をするかはもう考えているのだろうか。

「考えている。毎日ね。おぼろげには見えている。僕はね、いつも世界を変えたいって思ってるんだ。自分の周りの世界を」

 それはやはりマンガで、なのだろうか。

「うーん……言いたくない(笑)。ただやっぱりね、僕のとりえは才能を見つけることだから。そこに関わる何かをやりたい、とは思っているよ」

(取材・構成/門倉紫麻)

※『手塚治虫文化賞20周年記念MOOK マンガのDNA―マンガの神様の意思を継ぐ者たち―』、鳥嶋和彦スペシャルインタビューより一部抜粋

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