「4年しかたたなかったことが心残り。続きをやりたい」岡田惠和(脚本)【「ひよっこ」インタビュー】

「4年しかたたなかったことが心残り。続きをやりたい」岡田惠和(脚本)【「ひよっこ」インタビュー】

脚本の岡田惠和氏

 9月4日に涙のクランクアップを迎え、ついにゴールが見えてきた連続テレビ小説「ひよっこ」。脚本家・岡田惠和氏による心が温まる優しい物語は徐々に話題を集め、平均視聴率20.1パーセント(4月3日〜9月2日)を記録するに至った。そして注目のラスト。いくつもの試練を乗り越え、明るくけなげに人生という名の道を走るヒロインみね子がたどり着いた先に広がる景色とは!? 岡田氏が、脱稿した今も尽きない「ひよっこ」への思いを語った。

−朝ドラの脚本は「ちゅらさん」「おひさま」に次いで3作目でしたが、書き終えたお気持ちは?

 今回が一番大変でした。過去にやったことはアドバンテージにはならないですね。何カ月もこもりっきりでやっていたので、いまだに終わった気がせず、朝起きた時に「あー、寝てしまってすみません…」みたいな後ろめたさの中で生きています(笑)。ただ、現時点での自己ベストは苦しみながらも出せたかな。最初から26週分ではなく156話を書こうと、1話も流さずに書いたので密度の濃いドラマに仕上がったと思います。

−ご自身が指名した有村架純さんのヒロインぶりはいかがでしたか。

 何でもできる人になりましたね。今、最強レベルにいるんじゃないかな。朝ドラは他のドラマと違って常に大先輩に囲まれて緊張するだろうけど、有村さんはそういう時に力を発揮するタイプ。大人とちゃんと芝居のキャッチボールができていて頼もしく、どんなシーンを書いても大丈夫という安心感がありました。

−長丁場故に、当初の予定から変更したエピソードやキャラクターはあったのでしょうか。

 一番違ったのは(劇中の)時間経過が4年(1964〜68)しかたたなかったこと。脚本を書く前は70年代頭までいこうと思っていたけど、わりと早めに絶対いかないと分かり、口にしないようにしていました(笑)。本当はもっとやりたいこともあったし、もう少し先まで書きたかったけど、登場人物が多く、その人たちも、演じる俳優も、全員が楽しめるように書いてきたから、これはこれで良かったです。こういう朝ドラがあってもいいんじゃないかな。

−みね子の恋の相手役に視聴者は翻弄されましたが、本命が島谷(竹内涼真)ではなくヒデ(磯村勇斗)というのも予定通りでしたか。

 磯村くん本人には知らせていませんでしたし、僕も相手役が決まっていないふうを装っていましたが、最初からの既定路線でヒデくんと結ばれるつもりで書いていました。なので、すずふり亭の厨房では、ヒデくんがみね子を気にしているような芝居をチクチクやってもらっていました。

−印象に残るキャラクターはいますか。

 峯田和伸くんの宗男と和久井映見さんの愛子さんは、よく発明したなと(自分で自分を)褒めてやりたい。ドラマを動かしてくれたり、救ってくれたり、2人がいると本当に便利! 和久井さんは計算し尽くした芝居で表現されるから、どんな言葉にも説得力があるし、峯田くんは直感的だろうけど、彼のストレートなせりふは歌のように胸に届いて、いろんな局面で助けてもらいました。

−そういえば、いい人ばかりで嫌なキャラクターがいませんね

 敵がいるとドラマは動くけど、いなくなると解決しますからね。今回は、人生は敵がいなくてもままならないし、みね子たちのすぐ横の道には何があるか分からないというのを描きたかったんです。自分の人生を考えても、何かがうまくいかなかったことは、結局は自分の問題で、僕をうまくいかせないためだけに生きている敵はいないですからね。

−音楽についてはどうですか。当時のヒットソングがドラマを鮮やかに彩っていると思いますが。

 当時の歌謡曲の歌詞は心情に寄り添うものが多く、このドラマにもびっくりするぐらいはまっています。あまりにも力をくれている気がします。

−元マラソン選手の増田明美さんによる実況中継のようなナレーションもユーモラスで好評を得ていますね。

 増田さんはドラマの中にいる妖精です。だから、なんでもありな感じはありがたい(笑)。面白いし、声も聞いていて気持ち良いですよね。

−特に思い入れのある回はありますか。

 朝ドラをやっていて一番楽しいのは、物語が動く大きな局面ではない“何もない回”で、これは朝ドラでしか味わえないぜいたくです。例えば、漫画家の2人(岡山天音、浅香航大)がいなくなった回や、豊子(藤野涼子)がクイズでハワイ旅行を当てる回。それに、こういう回は楽して書いていると思いますよね。本当はこっちの方が技術的にハードルが高く、やりがいがあるんです。

−一方、みね子の行方不明になった父・実(沢村一樹)を連れ戻しに来た母・美代子(木村佳乃)と世津子(菅野美穂)が対峙(たいじ)するシーンは緊迫感があり、演じる皆さんも大変緊張されたようですね。

 あのシーンは最初から想定していたけど書くのは嫌でした。なしにして緩い話にスライドすることもできたけど、菅野さんに(自ら世津子役を)お願いしたんだから書かなきゃいかんと逃げずにやりました。あの4人だと、ヒロインが一言も話さなくてもそれぞれの気持ちが十分伝わって、ぜいたくな瞬間でした。

−視聴率やネット上の声などは気にしていますか。

 視聴率に関しては、朝ドラってこんなに毎日視聴率のことを言われるんだっけ?と思いました。最初は苦戦していたので、そのうち視聴率20パーセントを取る夢を見るんじゃないかと思うぐらいでした(苦笑)。ツイッターはオンタイムで時々見ています。あるシーンが起きた瞬間に視聴者の感想が分かるというのは、僕にとってこのドラマが初めての経験なので、「こういうふうにだまされてくれるんだ」「もう先を読まれている」と面白く見ています。

−そういったSNSの反応が脚本に反映することもありましたか。

 強引なストーリーで視聴者に無駄にストレスを与えたくないという感覚や、皆が疑問に思うことに答えようという変な正義感は生まれたかな。話自体は変えないけど、ムードとかは気が付かないうちにリカバーしていたところはあります。

−では、そんな「ひよっこ」を毎回楽しく視聴している皆さんにメッセージをお願いします。

 大きな出来事はないけど、最終的にみんなが幸せになっていると思います。ドラマは終わりますが、登場人物の人生はまだまだ続くので、そこを想像しながら応援してください。

−最後に…朝ドラ4作目を希望されますか。

 朝ドラはつらい部分もありますが楽しいです。だから「やっていいよ」と言っていただけるならやりたいです。でも、4年しかたたなかったことが心残りなので、新しいものではなく「ひよっこ」の続きをやりたいな。

(取材・文/錦怜那)

関連記事(外部サイト)