香取慎吾を起用…萩本欽一が浅間山荘事件から学んだテレビ哲学

香取慎吾を起用…萩本欽一が浅間山荘事件から学んだテレビ哲学

香取慎吾(左)と萩本欽一(C)日刊ゲンダイ

香取慎吾(42)の起用には、視聴率100%男と呼ばれた萩本欽一(78)の”テレビ哲学“が詰まっていた。

 8月18日、NHK-BSプレミアム「欽ちゃんのアドリブで笑」(22時50分〜)に香取慎吾が出演する。2人は1994年の「よ!大将みっけ」(フジテレビ系)をきっかけに師弟関係を築き、萩本が79年から司会を務める「欽ちゃんの爆笑仮装コンテスト 全日本仮装大賞」(日本テレビ系。名称は回によって異なる)に香取も2002年から加わった。

 なぜ、欽ちゃんは香取慎吾を「アドリブで笑」に呼び寄せたのか。

 まず、17年9月限りでジャニーズ事務所を退所した香取の直近1年強の地上波テレビ出演(関東地区)を振り返ってみよう。18年3月28日「おじゃMAP!!』(フジテレビ系)終了以降、24時以降の番組を除けば、19年2月2日の「欽ちゃん&香取慎吾の第96回全日本仮装大賞」(日本テレビ系)まで約10カ月、出演がなかった。

 その後も、2月24日の「密着! 4000時間 アーティスト香取慎吾2年間の軌跡」(TBS系)、4月27日の「人生最高レストラン」(TBS系)に出ただけ。

 SMAP時代の16年、香取は週3本のレギュラー番組を持ち、主演ドラマが連続、単発ともに1本ずつ放送されていたことを考えれば、1年4カ月で地上波テレビ出演4本(「仮装大賞」当日の「直前みどころSP」含む)はあまりに少ない。

 それだけに、今回の番組出演はBSとはいえ大きな話題を呼び、ツイッターのトレンドワードに「欽ちゃん」が入るまでになった。

 地上波テレビが躊躇している香取慎吾の起用を実行した背景には、萩本の視聴率に対する根本的な考え方があったのではないか。

〈みんな、「どうやって数字取れるの?」って聞くけど、みんながやってるのをやめたっていうこと〉〈数字を取る方法はないけれど、数字を下げないっていう方法はある。(中略)それは、お客さんが嫌ってるものはやめようっていう〉(以上、書籍『視聴率50の物語』小学館・2013年9月2日発行)

■みんながやってることをやめた

 各テレビ局の忖度に、視聴者は嫌気が差している。そんな中で、萩本が〈みんながやってるのをやめた〉からこそ、喝采を浴びたのだろう。8月11日放送の「欽ちゃんのアドリブで笑」にはA.B.C-Zの塚田僚一、河合郁人というジャニーズ事務所所属タレントも出演していただけに、余計に驚きがあったかもしれない。

 また、ジャニーズ事務所退所以降、テレビ出演に恵まれない香取の境遇を萩本が1つのドラマに変えた点にも着目したい。この起用を見て、筆者は欽ちゃんのある発言を思い出した。

〈コント55号の練習中に、連合赤軍が人質をとって立てこもった浅間山荘事件(1972年)を生中継しててね。窓に影が映ったというだけで、みんなテレビの前にすっ飛んで行ったの。ディレクターまでもが。こっちは懸命に稽古しているのに。で、気付いたわけ。テレビは何が面白いとか、何がいいとかじゃなく、次に何が起こるかわからないときに最も人を引きつけるんだ。予測不能の『いま』を撮れば面白くなるんだって〉(朝日新聞・2015年7月11日付)

 思い返せば、欽ちゃんの番組はバラエティでありながら、ドキュメンタリーの要素も入っていた。83年6月、「欽ちゃんのどこまでやるの!」(テレビ朝日系)で人気を得た「わらべ」のメンバーのスキャンダルが世間を賑わせ、彼女は謹慎になった。番組でこの話題に触れない手もあったが、萩本は真っ正面からぶつかり、電話出演させた。

 都合の悪いことから逃げない、嘘をつかない姿勢が視聴者の共感を呼んだのか、この日の視聴率は42・0%(ビデオリサーチ調べ/関東地区。以下同)を記録。芸能・バラエティ番組で歴代2位の数字となった。

■BS番組で視聴率30%を目指す

 85年3月限りでの休養以降、萩本欽一はテレビに復帰しても視聴率を取れなくなった。しかし、欽ちゃんは07年にも奇跡を起こしている。66歳で「24時間テレビ 愛は地球を救う」のマラソンランナーを務め、70キロを完走。ゴールシーンを中継した「行列のできる法律相談所」(ともに日本テレビ系)は35・3%を叩き出し、芸能・バラエティ番組で歴代4位となった。

 いずれも、〈予測不能の『いま』〉に視聴者が引き寄せられた瞬間だった。

 78歳の今、萩本欽一は再び、視聴率30%を目指している。

 それが、17年からNHK-BSプレミアムで不定期放送中の「欽ちゃんのアドリブで笑」だ。自ら「人生最後の番組になるかもしれない」と位置付け、昨年からツイッターを開始。それまで”機械“と呼ぶほどスマートフォンに馴染みのなかった萩本だったが、駒澤大学の同級生の力なども借りて、ツイッターに取り組み始めた。

 今回、萩本は8月18日の放送終了までに550万リアクション(リツイート、いいね、返信の合計数)の獲得を目指している。番組によれば、7915万人のフォロワーを持つレディ・ガガが1カ月で達成できるかどうかの数字だという。

 前回、「アドリブで笑」が放送された8月11日23時時点で194万7381リアクションと苦戦を強いられていたが、香取慎吾出演の発表で情勢は変わった。8月16日13時現在、369万3507リアクションまでに増加。15日13時から1日で約70万と急激にペースが上昇してきた。

■新しい地図の3人がゲスト出演する可能性も

 今度は、〈予測不能の『いま』〉を視聴者やネットユーザーと一緒に作り上げている。

 過去2回、55万リアクションと100万リアクションという目標を達成すると、ご褒美に地上波で総集編がオンエアされ、今夏のBSでの放送が決定した。

 今回の目標である550万リアクションを達成すれば、また番組は先に進む。地上波で放送され、稲垣吾郎、草g剛を含めた新しい地図の3人がゲスト出演する可能性もゼロとは言えない。
〈みんながやってるのをやめ〉〈お客さんが嫌ってるものはやめ〉〈予測不能の『いま』〉を映し出してきた欽ちゃんは、こんな言葉も残している。

〈私はテレビで一番大切なのは、勇気だと思う。勇気を出してやったアドリブが成功する確率と失敗する確率は50%。2回に1回失敗しても、勇気を投げ出さないでやり続けてきた。そのことで、もともと50%の成功の確率に上乗せされてきたものがあるんだ〉(書籍『ばんざい またね』ポプラ社・2015年4月7日発行)

 ”テレビは勇気“を掲げる欽ちゃんは、これからも奇跡を起こし続ける。

(岡野誠/ライター・芸能研究家)

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