「喜劇 お染与太郎珍道中」小劇場役者勢揃いの贅沢娯楽作
2021年02月16日 09時26分 日刊ゲンダイDIGITAL

「喜劇 お染与太郎珍道中」/(C)松竹
【演劇えんま帳】
小劇場の人気俳優たちが大挙して商業演劇の殿堂・新橋演舞場に出演し話題を呼んでいるのが本作。主演は渡辺えりと八嶋智人(劇団カムカムミニキーナ)。
芸巧者の2人を中心に小劇場の人気俳優を配し、技とひねりを利かせる小劇場ファンにも大満足の仕上がりとなった。
舞台は江戸随一の米問屋「江戸屋」。主の久兵衛夫婦の一人娘のお染(渡辺えり)はお出入りの大名・赤井家の若侍・島田重三郎(宇梶剛士)と良い仲。
ところが重三郎は主君の命令で京都の藩邸に呼び戻されてしまう。
おまけに赤井家からはお染を殿様の側室に差し出せと無理難題。
窮したお染は重三郎の後を追って京に向かうことに。しかし道中の危難を心配する久兵衛夫婦はお染に付き人を伴わせることに。白羽の矢が立ったのは手代の与太郎(八嶋智人)。丁稚にもバカにされるドジで間抜けな男だが、無類のお人よし。お染の付き人にはうってつけ。いざという時には助け舟を出す鳶の頭・べらぼう半次(太川陽介)もこっそり付き従う。
2人の前に出没するのは山伏2人組(石橋直也・三津谷亮)や大泥棒のお役者小僧(八嶋)、箱根の山に巣くう女山賊たち(あめくみちこ、宇梶剛士、深沢敦、石井愃一、春海四方)――果たして2人は無事に京にたどり着けるのか……。
落語噺や歌舞伎のエピソードを織り込んだ抱腹絶倒の物語だが、単なるドタバタ喜劇ではなく、物語もしっかり作り込まれ、見ごたえのある舞台になっている。
舞台セットや小道具も豪華版。
箱根山に登場する怪獣「大ムカデ」はお染と与太郎がその上に乗って花道を駆けるほどの巨大さ。ムカデの上で渡辺がシャンソンの「薔薇色の人生」など3曲を歌うというサービス満点のシーンも。
演出の寺十吾(じつなしさとる)は俳優としての評価も高い。今回大劇場での演出は初めてだが、観客への気配り目配りが細部にまで行き届く綿密な演出。エンターテインメントに徹した手腕が光る。
渡辺は20歳という役どころだが、舞台が進むにつれチャーミングな町娘に見えてくるのだから、さすがは女優。
2役早変わりで鮮やかな殺陣も披露する八嶋は笑いとシリアスの切り替えが絶妙。西岡徳馬と優妃の父娘初共演も見もの。
上記に記した役者のほかに有薗芳記、一色采子、広岡由里子らも存在感たっぷり。超贅沢(ぜいたく)な舞台となった。17日まで。2月21〜27日は京都・南座。 ★★★★
(山田勝仁)