【本好きのリビドー】

【本好きのリビドー】

(提供:週刊実話)

◎悦楽の1冊

『亡国スパイ秘録』佐々淳行 文春文庫 700円(本体価格)

★スパイ事件を見てきた著者の遺言の書

 日大アメフト部の悪質タックル問題が浮上した折に、驚いたのは理事長の事件への対応を巡る一連の騒動より、同大に「危機管理学部」が存在することだった。今となっては民主党政権下での「国家戦略局」に通じる、どこか台なし感が一瞬漂ってしまったが、ともあれ、その「危機管理」という言葉を日常語として定着させたのこそ、昨年、惜しくも亡くなられた佐々淳行氏。

 警察、防衛庁を経て内閣安全保障室の初代室長を務め、長く治安対策の最前線にあり続けた圧倒的なキャリアで、有無を言わせぬ説得力を伴わせる著書の数々はいずれ劣らぬ無類の面白さ。まさに“腕も立てば筆も立つ”を地で行く著者だっただけに、本書が遺作となるのが返す返すも残念でならない。『朝まで生テレビ』等の討論番組に登場する際も、常に明晳な議論を冷静に展開していた姿が懐かしい。

 その著者が歯がみして悔しがらんばかりなのが、いまだスパイ防止法ひとつ制定されぬままの日本の現状だ。併せて、弱いウサギは長い耳を持たねばならぬはずが、情報機関の設置を自ら禁じ、あるいは怠ってきたためにどれだけ不可視の弊害が累積されてきたか。すべて自ら経験した事案を叩き台に語られ、次第に読むのが辛くなるほど。

 危くゾルゲ事件に連座する恐れのあった父の思い出に始まり、戦後明らかになったさまざまなスパイ案件の機微に触れる筆致がとにかく生々しいが、やはり特筆すべきは中曽根内閣のブレーンと呼ばれ、山崎豊子の小説『不毛地帯』の主人公のモデルと囁かれた元大本営参謀だろう。周到に証拠を固めた上で著者は彼を旧ソ連のスリーパー(潜在協力者)だったと断じるが…依然信奉者は多いのが解せない。何故?
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 村田諒太再び戴冠!
 7月12日に大阪で行われたWBA世界ミドル級タイトルマッチの村田は強かった。2回TKO勝ち。対戦相手はボコボコになっていた。

 テレビなどに出演する村田はクレバーさが際立ち、自分を客観的に分析できる、どこか哲学的な人物でもある。一体、村田諒太とはどういう男なのか―。知りたいと思い手にしたのが『101%のプライド』(幻冬舎文庫/600円+税)だった。

 2012年に発売された単行本。この年はロンドン五輪が開催され、つまり村田が金メダリストとなった年に刊行された1冊である。それを昨年文庫化しており、その間の2017年に村田は世界王者に初めて上りつめている。

 自伝的内容で、小学校6年のときに両親が離婚し反抗を重ねるが、高校の恩師との出会い(この出会いは、12日の試合に勝った直後、リング上でのインタビューでも口にしている)に救われる。だが、2008年の北京五輪出場は果たせず、また挫折。そして26歳でようやくロンドンに出場し、金メダルを獲得するまでがつづられる。

 みずからを「ヘタレ」と自嘲する男が、周囲の支えによって自分を冷静に見つめ、心を鍛えていく。単なる成功ストーリーという美談ではなく、どこにでもいる普通の男が、弱さや劣等感を地道に乗り越えていく姿が読みとれる。

 次戦はミドル級の怪物といわれる選手たちとのマッチメイクもささやかれており、さらに目が離せなくなってきた。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー さーたり
腐女医の医者道!私も子どもたちも大きくなりました!編 KADOKAWA 1,000円(本体価格)

★医療界が抱える問題を_知ってもらうきっかけに

――現役外科医としてご活躍中のさーたりさんですが、なぜコミックエッセイを書こうと思ったのですか?
さーたり 初めは軽い気持ちで始めた絵日記ブログでした。ブログが流行りだした頃、医者の書くブログはキラキラしたセレブ系か、病気の解説ばかりの堅いものしかありませんでした。そうではなくて、実際の仕事風景や日常を紹介したり、趣味の漫画の話をする“ゆるいブログ”があってもいいのでは? と思い、4コマ漫画で描き始めたのがきっかけです。男性同士の恋愛を好む女性を「腐女子」と呼ぶのですが、「女医」とひっかけて「腐女医」です(笑)。インパクトがあって、かつ私を表現するのにちょうどいいと思いブログタイトルにしました。

――ツイッターではオタクトークも満載ですね。
さーたり ツイッターはリアルタイムでつぶやけるのが面白いですね。アニメの感想を言い合ったり、衝動的に妄想を語ったり…。つぶやくジャンルそれぞれにアカウントを分けている人も多いですが、私は育児も日常の愚痴も医学の真面目な情報もオタク話も、みんな一緒にツイートしています。

――女性医師は、実は“モテない”そうですね。なぜなんでしょう?
さーたり 忙しそう、性格きつそう、かわいげなさそう…といったイメージが先行しているからでしょうか。あとは自分より収入が多そうな女性を敬遠する男性側の風潮とか。女性医師は3分の1が未婚、3分の1が結婚後離婚、残りの3分の1が結婚を継続できる…といわれる『女医3分の1の法則』という言葉がありますが、最近は結婚する方が増えてきた気がします。でも、金銭的にも自立しているからか、いざ離婚となったら躊躇しない人が多いですね。

――5月にはNHK『あさイチ!』にも出演されました。反響はどうでしたか?
さーたり いつもはイケメン俳優が出演する生放送番組に、いきなり一般女性をキャスティングするなんて思い切ったことをするなぁと思いました(笑)。医学部入試の女性差別問題や労働環境、医療系漫画の話題まで詰め込んだ内容でしたが、好評だったようで胸をなでおろしています。かなり知名度の高い番組で、しかもNHKということで、幅広い年代の方から反応をいただけました。医療界が抱える問題を知ってもらうきっかけになったり、育児と仕事の両立に悩む方に共感してもらったり、いわゆる「医者の書いた本」よりももうちょっと身近なところに私の本があればいいな、と思っています。
(聞き手/程原ケン)

さーたり
医学部を卒業後、外科医を志し早数年。専門は消化器外科、時に肝臓・胆道・膵臓、移植外科。同期の夫と結婚し出産。現在3人目が生まれ絶賛子育て中。『聖闘士星矢』『幽遊白書』『忍たま乱太郎』などを愛好している。アメブロ公式トップブロガー。

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