本好きのリビドー

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(提供:週刊実話)

◎悦楽の1冊
『言ってはいけない!? 国家論』 渡部悦和×江崎道朗 扶桑社刊 1600円(本体価格)

★外交、情報、軍事、経済の最前線を提言

 今や懐かしの安保法制をめぐってSEALDs(このsだけ小文字なのに若干イラっとさせられたもの。お前は『時東ぁみ』かっての)の面々が街頭で騒いでいた前後、ノーベル賞受賞者がわざわざ記者会見を開いて“軍事に関わる可能性のある産学共同研究の一切に反対する”旨を得々と述べる光景に「どこまでウブなんだよ」と、暗澹たる思いに駆られたのは記憶に新しい。

 気がつけばGAFAなどの新興グローバル巨大企業の群れはみな、インターネットの爆発的な普及と共に急成長を遂げたのは今更周知ながら、その基盤となったネット自体が元を正せばすべて軍事技術上の革新が民間に転用され起爆剤となったものではないのか(ファーウェイの創業者も人民解放軍出身)。限りなく事実に立脚した自然科学を専門とするはずの人間に現実が見えない典型例として珍重かもしれないが、もはや笑い事では済まぬ段階に来た、とは本書の深刻な警告だ。

 旧ソ連ですらできたスターリン批判=個人崇拝の否認を“建国の父”毛沢東に対して行えぬままの中国を口で叩くのは容易い。だがモンゴル、チベット、ウイグルの諸民族への虐殺弾圧や天安門事件の隠蔽をどれだけ指摘されようと、なりふり構わず国家目標を掲げて邁進する姿には正直たじろがざるを得ない(“中国製造2025”然り、“一帯一路”然り)。さながら『仁義なき戦い』の名言「狙われるもんより狙うもんの方が強いんじゃ」を想起して慄然とするが、では、具体的な対抗策をどう提示してゆくのか。日独両国で敗戦処理の仕方の何が今日に至る明暗を分けたかを説く元自衛官の渡部氏と、日米同盟をアメリカ側の本音で語る評論家の江崎氏との対話は耳に痛い成分過多だが興趣尽きない。精読あるのみ。
_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 相模原の障害者施設で一晩に19人を殺害した男のニュースを、ご存じの読者も多いだろう。19人という人数は、戦後に起きた殺人事件の被害者の数としては最多と報じられた。

 犯人の男は施設の元職員、被害者は重篤な知的障害者。男は「障害者は不幸を生むだけ」。だから殺してあたりまえと、悪びれることなく、大量殺人を正当化している。

 裁判で死刑判決を受けたが上告中だったり、刑が確定しても執行されていない殺人犯は少なくない。そんな存命中の死刑囚7人と面会した様子を漫画化した1冊が、『獄中面会物語 死刑囚に会ってきました。』(笠倉出版社/690円+税)である。

 原作は、殺人・冤罪事件を取材しているルポライターの片倉健氏。獄中の死刑囚に手紙を書き、返信用の封筒や便箋を差し入れするなど、根気よく根回しした後に面会にこぎつける。

 そうした苦労にも関わらず、死刑囚たちの反応はさまざまだ。前述の19人を殺害した男は片倉氏の目を正面から見つめ、理路整然と「人類のためにやった」などと持論を繰り返す。

 交際していた男が次々と不審な死を遂げ、「鳥取の毒婦」と異名をとった肥満体の女に至っては、「息をするように嘘」をつき、その一方で機嫌をとるように媚びを売るため、真実を引き出すことは無理と断念する。

 いずれも歪んだ考えや嘘、被害妄想などにまみれ、心の闇は計り知れない。だが、特異な個性は読み手を圧倒する。それこそが、常軌を逸した殺人犯の真の姿なのだと思わずにいられない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 本橋信宏 佐藤信顕
遺体と火葬のほんとうの話 二見書房 1,400円(本体価格)

★葬儀にまつわる_不安がある人に響きます

――YouTubeの『火葬・葬式ch』が話題になっています。動画配信を始めたきっかけはなんですか?
佐藤 あまりにも葬儀にまつわるデマや悪質な都市伝説が多かったからです。サイトで質問を受け付けるようになると、デマに苦しみ、悩んでいる人からの質問が来ました。きちんと証拠をもって話す人間がいないことが原因だと思い、葬儀にまつわるデマに向き合っていく配信を始めました。心霊的な脅しであるスピリチュアル・ハラスメントや、家族間の問題、一部の宗教家による拡大解釈などが目に付きましたね。自分の目先の利益にしようと、一般の方に怖い思いをさせる事例がとても多く、何年もかかってデマや言いすぎを止めてきた集大成が今回、書籍出版という形になりました。

――どんな“デマ”があったのですか?
佐藤 火葬に関するデマで代表的なのは「遺骨は高温で焼けば焼き切れ、粉状になる」というものです。遺骨は高温で焼いても形は崩れやすくなりますが、粉になることはなく、海外で遺灰として渡されているのは、特殊なミキサーによって骨を粉状に加工したものなのです。また、「骨に色がつくのは病気や薬のせい」というのもありますが、実際には入れた副葬品や火葬炉の構造物である金属が高温で骨に釉薬(ゆうやく)の様に焼きついてしまうというのが本当のところです。

――近年は直葬や家族葬など、さまざまな形式の葬儀が増えていますね。
佐藤 実は葬儀が変わってきて、多様化しているというのは我々の単なる思い込みで、人の生き方がさまざまであるように、その生を閉じる死というものも昔からさまざまなのです。直葬が増えたとか、無宗教が増えたとか言いがちですが、実際のところは大きな変化はありません。
 それなりに人が集まって、それなりに宗教儀礼に則って葬儀をしているのがほとんどです。この20年間、ニュースなどで「直葬が増えている」「散骨が増えている」などと報道され続けていますが、実際は横ばいか微増程度なんです。そういった報道のバイアスなどに惑わされないように情報発信するのも、この本を出版した目的のひとつです。
 最後に、生きているのも大変ですけれど、そのゴールである“死”について怖がらず学んでいただければ、どうにかなりますからどうぞ安心してください。中には大変な亡くなり方をした人もいるかもしれませんが、それは大変な生を受け止めた結果です。葬儀にまつわる不安がある方には響く内容になっていますので、ぜひ、一読してみてください。
_(聞き手/程原ケン)

佐藤信顕(さとう・のぶあき)
1976年、東京都生まれ。有限会社佐藤葬祭代表。厚生労働省認定葬祭ディレクター1級。アカデミー賞映画『おくりびと』の美術協力のほか、メディアへの出演も多数。’15年からはYouTubeにて『葬儀・葬式ch』の配信を開始。

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