本好きのリビドー

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(提供:週刊実話)

悦楽の1冊『クーデターの技術』クルツィオ・マラパルテ 手塚和彰・鈴木純訳 中公文庫 1200円(本体価格)

★欧州の事例を人間の心理状態も含めて解析

「議会制民主主義の弱点は、近代ヨーロッパの産物の中で議会制民主主義ほど脆弱な制度は存在しないにもかかわらず、『自由は必ず勝利する』という過剰な信頼を基礎として制度設計されていることにある」

 思わずドキッとするこんな言葉が涼しい顔で随所にちりばめられた本書は、1931(昭和6)年の初版以来今日まで、西洋諸国におけるクーデターの歴史を通観すると共に権力奪取の方法を提示し、その成功と失敗の各例も鋭利なメスさばきのように分析した現代の古典として読み継がれる名著。殊に最終章では、当時、まだドイツで政権を掌握する以前のヒトラーを対象に選び、14年後に彼がたどる運命までをあたかも予見しているかのごとき透徹した論じぶりは見事なほかない。

 ちなみに、1938(昭和13)年に東京帝国大学で学生に実施したアンケート調査によれば「尊敬する偉人」のベストテン内に外国人が4人入り、3位のゲーテに次いで8位がヒトラーだったと聞くに及ぶとなおさらだ。

 日本が本格的に経験した最後の軍事クーデターといえば二・二六事件だが(悪い酒に酔った頭で国会の体たらくを眺めていると往時の青年将校たちが復活して天誅を下すなら相手は高橋是清ら元老でなく、今の腐れ議員どもなのではないかと一瞬だけ夢想)、マラパルテならあの顛末をどう見たか。

 映画『226』の脚本を執筆し、大ヒット作『大日本帝国』のシナリオも手がけた笠原和夫は丹波哲郎演じる東條英機に「陛下、お先に逝きます」と言わせて、右派からは戦争責任を追及するのかと批判され、左派からは反戦映画の皮をかぶった軍国主義礼讃作品と叩かれた。著者の祖国イタリアはもとより、ドイツやスターリン治下のソ連でも発禁になった本書に、相通じなくもない。(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】

 いかにも安っぽいビニール製の宇宙船やロケット、100円以下のプラモデル、ゴム製でグニャグニャした爬虫類や昆虫のおもちゃ…幼少期に駄菓子屋で売られていたそんなアイテムに、夢中になった読者諸兄も多いだろう。

『昭和少年カルチャーDX』(辰巳出版/2700円+税)は、そうしたちょっと怪しげな玩具の写真が満載の1冊。

 掲載されたおもちゃの総数は一体何点あるのか、数えることができないほど豊富なラインナップである。

 少女向けアイテムもあるが、男としては「これ、くだらね〜な」と、今となっては首をかしげる物に惹かれることに気付く。例えば、ガイコツの骨がブラブラしたキーホルダー。何だかよく分からない怪獣をモデルとしたプラモ。ゴジラやウルトラマンなどのメジャーキャラではなく、「騒音怪獣ギャオー」など、本当にドマイナーで、見たこともない。どうやら当時、光化学スモッグやヘドロ、騒音などの公害が社会問題となっていた時代背景をもとに創作されたらしい。

 さらに、最初は文具として発売したが、付属の「スパイメモ」「魔術セット」などが人気を博し、それだけが商品化された手帳を覚えているだろうか。

「アタック本部」と署名されたメモ帳をポケットに忍ばせただけで、スパイの気分を満喫できた。現在では意味不明のアイテムに、少年たちは心を躍らせた。

 滑稽でくだらない、いかがわしいが郷愁を感じる、そんな昭和レトロ大図鑑である。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 歌田年 紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人 宝島社 1,380円(本体価格)
★25年間の模型専門誌編集者の経験を発揮
――第18回『このミステリーがすごい!』の大賞作となりました。受賞を聞いた瞬間のご感想は?
歌田 最近、会社を辞めてフリーランスになり、経済的不安も抱えていたので、受賞した時は「やったぜ、夢がかなった!」というよりも、「やれやれ、首がつながった…」というのが正直な感想でした。これまで落選が続いたのは題材選びが適切でなかったのだという自己分析もあり、本当に自分が得意とするものは何かと考え、今回は「模型」と「紙」に絞りました。どちらも世間一般からはあまり知られていない分野なので、この2つを題材にすれば、斬新でウケるだろうと思ったんです。どうやら狙いが当たったようですね。
――紙鑑定士とプラモデル造形家の2人組が謎に挑むミステリーです。どちらも専門的な分野ですよね。
歌田 私は29年間出版社に勤めていたのですが、そのうち25年間は、模型専門誌の編集者をしていました。模型には人一倍詳しいという自負があります。
 また、印刷用紙の調達を4年間していたこともあり、そこで紙についての知識を身につけました。この2つはどちらも奥が深くて魅力的な世界なんですよ。
――作品を書く上で、苦労した点はありますか?
歌田 一般的に、模型と紙と聞けばとても平和でおとなしいイメージですよね。それらをどのように犯罪に絡めていくか、というのが最大の難問でした。まずは模型にこだわる犯人像を設定する所から始めました。リアリティーを持たせるのには最後まで苦労したと思います。
 そして、紙鑑定士という設定の主人公にも見せ場を用意しなければなりません。専門的すぎても読者がついて来れなくなるので、分かりやすい部分だけをなんとかひねり出しました。
――もし映像化されるなら、どんな俳優に演じてもらいたいですか?
歌田 あえて“キャスティング遊び”をするなら、主人公の渡部にはCMでの頼りない会社員役が似合っていた永山瑛太さん、その相棒の土生井には、天然パーマと丸メガネのイメージから滝藤賢一さん、依頼人の晴子には、長い髪と清楚な雰囲気から綾瀬はるかさんという感じでしょうか。設定年齢も考慮しています。でも、豪華すぎて実現は難しいと思いますね。
 もし続編を書くとしたら、さらにディープな紙に関するミステリーにしたいなと思っています。「次回作は造本の仕掛けをストーリーと絡めてくれないか」という編集部のオーダーもあります。これはかなりハードルが高そうですが(笑)。
_(聞き手/程原ケン)

歌田年(うただ・とし)
1963年、東京都八王子市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。出版社勤務を経てフリーの編集者、造形家。’19年に『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』で第18回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。

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