小栗旬&西島秀俊『CRISIS』CPが明かす"規格外"のドラマが実現した理由「やるなら今しかない」

小栗旬&西島秀俊『CRISIS』CPが明かす"規格外"のドラマが実現した理由「やるなら今しかない」

画像提供:マイナビニュース

●キャスト全員が「これはヤバい現場に来た」
現在放送されている春ドラマの中で、視聴者をザワつかせる作品だと話題を集める、小栗旬主演のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(毎週火曜21:00〜)。毎話すっきり解決とはいかない展開も、視聴率は堅調に推移している。カンテレの笠置高弘チーフプロデューサー(CP)は、どのような思いでこのドラマを企画したのだろうか――。

○テレビドラマでも本気になればできる

今から3年前。主演の小栗旬から相談されたのが、今作のきっかけだという。

「小栗くんと新しい企画を探る話をしている中で、彼の方から『テレビでは無理だと思うけれど、こういう企画がある』と伺いました。それから、脚本の金城一紀さんを紹介してもらってお会いすると、金城さんも『5年前から考えているけれど、ドラマ化は難しいと思う』とおっしゃる。リアルなモチーフがある企画だから、私も正直なところ、はじめは映画じゃないと無理、テレビ向けではないと思いました」

それでも、30年にわたりドラマに携わってきた笠置氏の中で引っかかるものがあり、最終的には決断する。

「昨今の憲法改正や防衛問題、豊洲などを取り巻く問題など、今まで見て見ぬ振りしてきた"日本の負の遺産"のようなものを真摯(しんし)に見つめ直さないといけない時代なんじゃないか。そんな時代だからこそ、やるなら今しかないと思いました。それに、今ある多くのドラマが1話だけで全体像を見透かされ、『見る価値ないじゃん』と視聴者にそっぽを向かれているのは、文化ではなく文明だけの価値観でドラマを作っているから。このまま続けているとジリ貧になっていくばかり。でも、テレビドラマも実は文化を担おうと本気になれば、必ずその志は視聴者の方々にも感じてもらえるはずだという思いもありました」

さらに、小栗演じる稲見朗とは相反するキャラクターの田丸三郎役として、西島秀俊が出演に応じたことも大きかった。

「小栗くんに負けない存在感があり、かつアクションができて番組づくりを愛してくれる役者になると、僕の中では西島くんしかいなかった。彼の出演が決まった時に、この企画を本格的に進める決断をしました」

○リアリティにとことんこだわった結果…

こうして話を聞くと、構想段階から触れ込みにある"規格外"のドラマであることが分かり、自らハードルを上げることに迷いは感じられない。リアリティにとことんこだわったセリフからもそれが伝わってくる。例えば、第4話(5月2日放送)で、警察庁警備局長・鍛治大輝(長塚京三)のこんなセリフがある。「北の方でミサイルの発射実験がやたらと失敗しているだろ」……まさに、最近の北朝鮮情勢を表しているようである。

「放送スタート時点ですでにクランクアップは済ませていましたが、金城さんの天才的な面がこうしたセリフ1つ1つに反映されています。脚本作りに入る前の作業として、20本弱ぐらいのプロットを出してもらい、選んだ中から綿密に流れを決めて、最終的な方向性については打ち合わせを重ねました。とにかく日本のリアルな闇を描いてほしかったので、通常のテレビドラマだったら助かるようなシーンでも爆破されてしまう(第4話)といった、金城さんの脚本をそのまま通しました」

アクションも"規格外"の仕上がりだ。クランクインの1年前から小栗、西島の2人は訓練を重ね、同じ公安機動捜査隊の田中哲司、野間口徹、新木優子の3人も加わり、50日間の特訓を受けたという。

「クランクインは第1話の新幹線のシーンから始めました。できるまで練習し続けた小栗くんが本気を見せると、西島くんを含めキャストの皆さんが『これはヤバい現場に来た』と声を漏らしたほど。監督もスタッフも、今回はこういうドラマをやるんだということを象徴する最初の新幹線のシーンで、意識を共有できたのかもしれません」

放送直前にフランス・カンヌの国際テレビコンテンツ見本市・MIPTVで実現したアジア初のワールドプレミアスクリーニング(上映会)でも、アクションシーンに定評があった。

「海外に出ていきたいと話す役者は多いですが、活躍されているのは渡辺謙さんなどに限られています。日本市場は中途半端に大きいことも関係していますが、アメリカや韓国と仕事をして以来、日本だけが世界に取り残されているという危機感を持ち続けていましたから、今回は良い機会になりました。アニメや時代劇だけでなく、日本でも面白いアクションエンタテイメントがあるんだということを知ってもらえたのではないかと思っています」

●小栗・西島が先頭で走り、奇跡が起こった
○テレビドラマの収益構造を見直す

こうして勢いに乗って放送が始まると、新聞社の記者から「これがタダで見ることができるなんていいですよね」と言われたのが、何よりうれしかったという。第4話の家の爆破シーンは、CG制作だけで3週間以上要した。丁寧に作り込んだ映像表現は潤沢な制作費があってこそだが、制作するのはローカル局の関西テレビ。限られた予算の中で、制作する必要があった。では、その費用は一体どのように捻出したのか、そんな気になるところも答えてくれた。

「通常の制作費だけでは成立しにくい。だから、放送後の配信や海外セールス、ノベライズ、ムック本、グッズ、LINEスタンプなど、コンテンツビジネスとしてトータルで収支が合うように考えました。そのためにスケジュールも前倒しに進め、通常のドラマよりも早く撮り切りました。何より、そもそもテレビドラマの収益構造を見直すことも考えていくべきだと思ったからです。カンヌでは決して制作費について驚かれることはありません。制作費をかけるのは当たり前だからです。回収の方法だけ考えればいいのです。権利問題も含めて、日本だけが"ガラパゴス"になりかねない。今回はコンテンツ関連でいろいろ協力してもらいながら、一度やってみようということになりましたが、売らないと大赤字のままですよ(笑)」

全て回収されるまで時間はかかるようだが、『CRISIS』は現在、海外7カ国で同日放送され、国内では有料提供する動画配信サービスにおいて、カンテレ制作ドラマの中で歴代最高の購入数を叩き出している。

また、タイムシフト(録画)視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)の高さにも注目。第1話は、タイムシフト視聴率11.0%をマークし、リタルタイム視聴率の13.9%を加えて重複分を除いた総合視聴率は23.6%だった。これはカンテレ制作の「火9ドラマ」(2016年10月〜)として初の大台20%超えとなり、歴代最高の記録となった。

「リアルタイムは当然ながら、作り手として録画率の高さも満足しています。総合視聴率の結果を受けて、番組提供するスポンサーからも満足度が高いと聞いています。テレビだから一瞬一瞬で消えてしまう番組もあっていいけれど、ドラマは何回も見たいというものを作りたい。なんか気になってもう1回見たくなるような、見る価値のあるドラマを目指しています」

○各局に"規格外"のドラマを作ろうと伝えたい

そして笠置氏は、今のドラマに対する疑問を投げかけた。

「昔は、一石を投じたいという作り手側の熱い思いのあるドラマがたくさんありました。つまり、池に石を投げ、波紋が広がり、その波紋をみてどう思いますか?というメッセージ性のあるドラマ。『1から10まで見て、感動しましたよね』という押し売りではなく、視聴者自身に考えてもらう、気になるドラマを意識して作られていました。そういう意味で、倉本聰さんは今、気になるドラマ(テレビ朝日『やすらぎの郷』)をやってらっしゃると思います。編成面やデータから、満足できるドラマもあっていいと思いますが、大ヒットした『半沢直樹』(TBS)もそうした考え方だけだったら成立してないですよ」

今、どんなドラマが視聴者に響くのか。プロデューサーの立場から何ができるのか。自分自身にも問いかける。

「作り手や出演する役者が、本当に面白いと思って真剣にやっているお芝居は引き込まれるもの。本当に楽しいものを迷いなくやれば、テレビを見る側にその面白さは必ず伝わります。ドラマのプロデューサーは、信号機だと思うのです。こっちは赤です、こっちが青ですと、皆を惑わせることなく同じ方向に向かわせることが一番の役割だと思っています」

さらに、今回のキャスト陣への感謝も口にしながら、今後のドラマ界への思いも語った。

「小栗くんはそれをよく分かってくれていて、役者の座長として、最後までこの番組を信じてやりきりましょう!とプロデューサー的な役割もしてくれました。それに対して、西島くんも『命賭けるよ、とんでもない革命を起こそうとしているんだから』と協力してくれました。この2人が先頭に立ち、走ってくれたから完成することができました。ゲストの杉本哲太さん、小市慢太郎さんらが『とんでもない現場だね』と笑顔で驚かれるたびにうれしかったです。とにかく、奇跡がたくさん起こりました。若いプロデューサーをはじめ、カンテレだけでなく各局に"規格外"のドラマを作りましょうと伝えたいです」

作り手の思いと役者の息づかいを感じると、自ずと受け取る側もドラマと向き合いたくなるものだ。緊張感が続く最終章も見逃せない。
(長谷川朋子)

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