ホリプロ・堀義貴社長が赤字覚悟で行う「人生最大の博打」とは

ホリプロ・堀義貴社長が赤字覚悟で行う「人生最大の博打」とは

画像提供:マイナビニュース

●すごすぎて怒りを覚えた『ビリー・エリオット』
和田アキ子、綾瀬はるか、石原さとみ、藤原竜也、松山ケンイチ等、そうそうたる芸能人を抱える芸能事務所・ホリプロ。今夏、ホリプロが手がけるミュージカル『ビリー・エリオット』が上演されるが、この作品は堀義貴社長が「素晴らしすぎて腹が立った」と語り、「ここまでのめりこむことはない」と断言するほどの情熱が向けられていた。

日本では『リトル・ダンサー』として知られる映画『Billy Elliot』を舞台化した同作は、世界中で高い評価を得ている。1984年、イングランドの炭鉱町に住む少年ビリー・エリオットがバレエの才能を開花させていく姿を軸に、個性的に生きるというメッセージや、消えゆく炭鉱と子供達の未来の対比が、エルトン・ジョンの音楽にのせて描かれていく。

東京・大阪合わせて4カ月間、17万人の動員と日本ではなかなか例を見ない大規模な公演に加え、主役のビリー役のオーディションも話題となった同作。その魅力と、堀社長がかける思いを聞いた。

○ロンドン公演のオープン前から交渉に

――もともと、映画の『リトル・ダンサー』をご覧になっていたんですか?

僕は全然バレエに興味がなかったんですが、映画の予告編の音楽にグラムロックが使われていることが気になり、観に行ってとても感激したんです。その後社長になってから、合間に海外の演劇のサイトをチェックしていたら『Billy Elliot』という文字が飛び込んできました。映画の邦題は『リトル・ダンサー』でしたが、サントラも買っていたので、原題も覚えていたんですね。あの『ビリー・エリオット』がミュージカルになる、しかも作曲はエルトン・ジョン。「え〜!」と驚いたわけです。

きっとイギリスだからこの作品がミュージカルになるんだ、でも日本でやったら絶対に受けるだろうと考え、ロンドンでもまだ幕が開いていなかったのに、プロデューサーに「絶対に良いと思う」と言ったら「調べてみましょう」と。映画会社が製作を担当していることがわかり、そのままプロデューサーがロンドンに行ったんですよ。

――まだ何もオープンしていない頃からとは、驚きました。

当然まだオープンもしていませんから、「日本版を作るつもりは全くない」と言われました(笑)。「じゃあオープンしてから、もし可能であれば交渉させて欲しい」と伝えました。

実際に幕が開いてからロンドンに観に行きましたが、その頃にはもうチケットが取れないくらいの人気になっていましたね。1幕が終わって、もう、泣けて泣けてしょうがないんです。「みっともないかな」と思いながら周りを見たら、子供も大人も老人も、みんなおいおい泣いていたんです。「いや、すごいな」と思って2幕が始まると、まわりの反応もビビッドで盛り上がりましたし、またおいおい泣けました。

終わってから、打ちひしがれました。子供もすごいし、装置もすごいし、バレエもすごいし、子供達のアンサンブルもすごいし、大人達もすごいし。普通の人達が主人公で、どの世代の人も当てはまる。うちでオファーしているけど、こんなすごい作品はもう無理だ、できない、とだんだん腹が立ってきて(笑)。

ひとしきり泣いた後に、酒も飲んで「俺たちがやってきたのは"制作者ごっこ"だ! こんなスゴいことできない! どこであんな子供探せばいいんだ。無理無理、やめた! 俺はもうやる気なくした!」と、怒りがこみ上げてきて(笑)。もう、全てのやる気をなくした、というくらいの衝撃でした。

でも、一応オファーはしているんだし、やらせてもらえるなら……。その場で社員と「やれたらいいよな」「いいと思いますね」「絶対受けるよな」「受けると思います」「泣いたよな」「泣きました」「絶対日本のお客さんも泣くよな」「泣くと思います」と話したのを覚えています。

●ホリプロという会社が乗り越えるべきハードル
○生きているうちにこれ以上の博打はない

――先日行われた制作発表で、堀社長は「一度はあきらめかけた」とおっしゃっていましたが。

何度かやりとりをして「うちでやれるかもしれない」というところまで行ったんですが、その時には日本からもたくさん「やらせてくれ」という話はあったそうで、一度は諦める状況になりました。こちらも「よかったんだよ、こんな作品、できないんだから」と慰め合っていたのですが、しばらくしたらまた「ホリプロにもチャンスがある」と話が復活しました。やらせてもらうしかないでしょう。

最終的にうちになりそうだという状況の中、蜷川(幸雄)さんの舞台でロンドンに行った時に相手方の本社まで行ったら、プロデューサーのエリック・フェルナーがわざわざハリウッドから戻ってきてくれて挨拶ができました。その直後に、契約が決まったんです。

――ホリプロさんへの決め手として、何が良かったのだと思いますか。

情熱でしょうか。まだオープンする前から言っていましたからね。普段は私も社長業を行っているわけですし、本当にたまたま目に入ってきて、もう偶然でしかありえないです。念じていると来るものなんだな、と思いましたね。これからも会社で様々な作品を手がけるとは思いますが、ここまでのめりこむというのは、多分ないと思います。

――公演が4カ月、動員数も17万人ということで、これだけの規模でというのも驚きました。なかなかないですよね。

まず、劇場に空きがないですから。もしうちが劇場を持っていたら、1年でも2年でもやりたいくらいですが、東京はTBSさん(TBS赤坂ACTシアター)が3カ月間貸してくれたことが大きいです。どんなにやりたくても1カ月ではペイしないと絶対わかっていましたし、TBSさんのおかげですね。

あまり人が入らなかったら、絶対にうちは赤字になります。だから、そのくらいの覚悟でやります。ホリプロという会社も、このハードルを乗り越えられないと、もうこれ以上の演劇の会社には多分ならないと思っています。だからその覚悟をもって、大博打ですよ。多分、生きているうちにこれ以上の博打をすることはない、というくらいの。

○おじさんにこそ見て欲しい作品

――それほどまでに堀社長を惹きつける、この作品の魅力はどこにあると思いますか?

単に子供が一生懸命頑張ってバレエダンサーになる話ではなく、どこの国でも、誰にでも起こる話だと思うんです。特に日本と照らし合わせると、社会が閉塞して内部で対抗しあっている中で、親父が「子供には未来があるから、頑張ろう」と行動する姿は、かっこいいですよ。あらゆる世代が前に進もうという気持ちに溢れている。

だから、おじさんにこそ観て欲しいです。舞台を観に来てくださる層は女性が多くて、もちろんそれでもいいんですが、できたらおじさんを連れてきてあげて欲しい。来れば「いや、俺たちにはまだやれることがある」と思ってくれるはずです。

私は蜷川さんのおかげで色々な国に行かせてもらいましたが、どこへ行っても客席は男女比が半々なんです。日本は男性が演劇を観に行かないのがもったいなくて、感動して号泣するような経験をしてもらえれば、と思っています。

――これだけの規模だからこそ、通常の客層とは違う人も来られるかもしれないですよね。

もちろんどなたもすごく大切なお客様で、観ていただければ絶対に感動してもらえる自信はあります。ただ、これから定年を迎える男性たちがたくさんいて、やることがないとか、会社を離れると居場所がないとか、下手すると定年離婚されてしまう、などと聞かされると、この先やるべきなのは「どうやっておじさんを引き込むか」なんですよね。

劇場に行くと、しぶしぶ連れてこられている男性とか、気持ちいいくらい寝ている(笑)。喫煙所で黙って聞いていると「さっぱりわからない、ほとんど寝てた」とか話していて、もう、寂しすぎる。せっかく奥さんが連れてきてくれたのに、家に帰った後も「いや〜、寝た寝た」とか言って、感想の会話が全然成り立たない。きっと、今後誘われなくなりますよね。それでいて、家でじっとして、テレビを見ても「つまらない、つまらない」と言っていたら、本当につまらないじゃないですか。『ビリー・エリオット』は一歩前に踏み出すきっかけになる、おじさんの応援歌にもなる作品だと思います。

ポール・マッカートニーのライブなんか、後ろから観ているとみんな白髪頭で真っ白なんですよ。でも観客のみなさんは青春を謳歌していて、ポールが水も飲まずライブをしている中、腰が痛いと言いながらも誰も座らないで見ている。例えば音楽をかじったことがないという人も、なにか一つ良い作品を見た時に、劇的に世の中が変わって見えるという感覚を味わってもらえたら、と思っています。だからぜひ、奥さんやお子さん、お孫さんと一緒に観に来てほしいですよね。

○『ビリー・エリオット』

1984年の英国。炭鉱不況に喘ぐ北部の町ダラムでは、労働者たちの間で時のサッチャー政権に対する不満が高まり、不穏な空気が流れていた。数年前に母を亡くしたビリーは、炭鉱で働く父と兄、祖母と先行きの見えない毎日を送っていたが、偶然彼に可能性を見出したウィルキンソン先生の勧めにより、戸惑いながらも名門ロイヤル・バレエ・スクールの受験を目指して歩み始めるようになる。息子を強い男に育てたいと願っていた父や兄は強く反対したが、11歳の少年の姿は、いつしか周囲の人々の心に変化を与え……。

東京公演はTBS赤坂ACTシアターにて7月25日〜10月1日(プレビュー公演:7月19日〜23日)。大阪公演は梅田芸術劇場 メインホールにて10月15日〜11月4日。
(佐々木なつみ)

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