『3月のライオン』『時かけ』脚本、映画監督で「大失敗したい」本当の狙い - "売れる方程式"への挑戦と野心

『3月のライオン』『時かけ』脚本、映画監督で「大失敗したい」本当の狙い - "売れる方程式"への挑戦と野心

画像提供:マイナビニュース

●2つの"壁"を突き破りたい
TSUTAYAが主催するプロ・アマ問わずの映画コンテスト「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM」(以下TCP)。受賞作には最低でも5,000万円の製作費が用意されるという破格の"映画愛"は業界内で話題となり、毎年数多くの作品が寄せられている。3回目を迎える今年も、いよいよ応募期限が迫ってきた(WEBエントリー締め切り:6月13日/企画書など郵便物送付締め切り:6月16日必着)。

マイナビニュースでは、昨年受賞した4人に接触。受賞作の制作前に受賞の喜びや過程、そして"映画愛"を掘り下げた。第2弾はグランプリを受賞した渡部亮平氏(29)。ドラマ『時をかける少女』(日本テレビ系)や映画『3月のライオン』で脚本、ドラマ『黒い十人の女』(日本テレビ系)で監督を務めるなど、新進気鋭のクリエイターだ。

受賞作『哀愁しんでれら(仮)』は、不幸のどん底だった主人公が、優しくてお金持ちの開業医と出会って結婚するという"シンデレラストーリー"。しかし、幸せ絶頂の中、開業医の連れ子に異常な愛情を抱き始める。

2012年に発表した自主制作映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』では、数々の映画賞を総なめ。華々しい経歴とも取れるが、同氏は今回の受賞作で"2つの壁"をぶち抜こうとしている。「売れる方程式」の破壊とは。そして、「大失敗したい」と口にする意味とは。

○「また面白いものを作りたい」

――あらためてグランプリ受賞、おめでとうございます。

ありがとうございます。映画会社の方をはじめ、周囲の反響が届いています。「脚本を取り寄せて読んだよ」とか、いろいろな方から言われて。たぶん、ネットに上がった記事を読んだりして、知ってくださったんでしょうね。僕はほとんど動いてないのに、そんなに周りの方々が気にしてくださるなんて(笑)。『溺れるナイフ』(16年)を撮った山戸結希(監督)も、「どこに行ってもみんな渡部くんのこと話してるよ」と。そんなに!? 鈴木京香さんの隣で写真に写ってたねって(笑)。

――そういう声はプレッシャー? それとも創作意欲につながるのでしょうか?

プレッシャーは全くないです。たぶん、感じるのは2作目からじゃないですかね。一応、自主映画は撮っていますが、語り継がれるような傑作も作っていないので(笑)。また面白いものを作りたい、というのが素直な気持ちです。今回が商業デビュー作となりますが、自主映画としては『かしこい狗は、吠えずに笑う』(12年)で長編を撮っています。

○自主制作映画で思うこと

――『かしこい狗は、吠えずに笑う』では、「ぴあフィルムフェスティバル」や「日本映画プロフェッショナル大賞」新人監督賞をはじめ、数々の映画賞を受賞されました。今回と反響の違いはありますか?

結局、自主映画は自主映画。小さな世界の反響でしかありません。そこを気にしている人たちにしか届かない。今回は商業・大衆向けなので、普段興味を持ってもらえない人に届けられるという点でも僕自身の期待は大きいです。

自主映画界は、本当に「自主映画好き」の人しか観ないんです。悪い言い方をすれば、ハードルが低くなってしまう。もともと興味を持ってくれている人たちを楽しませるのは簡単なんですよ。商業・大衆向けを作る時は、そうじゃない人を振り向かせないといけない。そちらの方がよっぽど難しいと思います。

本当に小さな世界の中でお互いを褒め合ったり、いつも同じスタッフや気心の知れた者同士でキャスティングしたり。自主映画の面白味って、本来は全く知らない人を連れてきて面白いものを撮ることだと思うんです。すごくもったいないと感じます。

――どの業界にも「安全策」はあるはずですし、人はそもそも楽な方に流れる傾向があるんでしょうね。

そうかもしれません。自主映画の映画祭に出ると、自分に興味を持ってくれる人を好んでしまう。次回作でスタッフをお願いしようとか、出演してもらおうとか思ってしまう。みんなそこの渦に巻き込まれてしまうんですが、それに頼らず、世界を広げる映画を作らないとだめだと自分に言い聞かせています。

――『かしこい狗、は吠えずに笑う』のスタッフやキャストはツイッターとミクシーで募ったそうですが、そういう思いがあったんですか?

結果的にそうなってしまったんです。僕はまったく自主映画界に知り合いがいませんでしたし、スタッフも役者も知り合いは一人もいなかった。ただ、上京して脚本の勉強を一人でしていた。自主映画の上映イベントに出席した時、「みんな楽しそうにしてるなぁ」と感じたのを覚えています。知り合いがいなかったのが結果的にラッキーだったということになるんでしょうけど、自分のキャスティングは「友だちの友だち」とか、「下北で見つけたアーティスト」とか。すべて自分でやっていったので、作品にも新鮮さが現れたのかなと思います。

○"同じ人達"で回る業界の危惧

――閉鎖された自主映画界の壁を突き破るには必要だったと。今回の受賞は、大きな意味がありますね。

そうですね。ただ……同じようなことを商業映画界にも感じていて。同じ人達だけで回っているような気がする。その中に埋もれる作品にならないようにしたいと思うんです。悪目立ちしてもいいから、埋もれることだけは避けたい。

これは決して批判ではなくて。同じスタッフ、キャストになりがちなのも、しょうがないことではあると思います。少女漫画原作が多いという声も耳にしますが、別にそこはいいんです。何を映画化させるかはそこまで問題ではなくて、同じようなスタッフ・キャストだと「またか」と、観客も飽きてしまう。なぜ20代の監督に撮らせてみないのか、少女漫画の世界観にはピッタリだと思いませんか。

キャストの話でいえば、作家性の強い監督がオリジナル作品を作る時に「さすが!」という役者をそろえてほしい。起用される役者たちもやる気が出ると思いますし、新しい才能の発掘にもつながる。同じキャストばかり使っていたら、結局は日本映画全体をダメにしてしまうかもしれない……。

でも、最近の日本映画ってかなり面白いんですよね。一つひとつを見ていくと意欲作も確かにある。そこで勝負するわけですから、本当にがんばって目立つようにしないと、埋もれてしまう作品になってしまうという危機感を抱いています。

――渡部さんの理想は、何を撮るかではなく、誰で撮るか?

もちろん何を撮るかも大切ですが、やっぱり新しい役者はもっと出て欲しい。そして、新しい監督も。実績のある監督、役者を並べれば良い作品に仕上がって失敗はないと思うんです。それが悪い映画とはならない。でも、観る前から想像できてしまうって、すごくもったいないなと。

●"埋もれない方法"の『シン・ゴジラ』
○テレビ局に落ちて脚本家に

――監督としてデビューする前は、ずっとシナリオを書いていたそうですね。

脚本家になりたくて、ずっと脚本の勉強をしていました。きっかけは、テレビ局の就職活動で失敗したこと。ドラマ部に入りたかったんですが、狭き門で入れず。でも、やっぱり諦められなくて。次の年も受けようと思って、それまで時間がもったいないので、脚本の勉強をすることにしたんです。それをやりはじめたら、結果ハマってしまった。脚本が面白くて、テレビ局に入らなくてもいいやとなっちゃったんです(笑)。

――脚本のどんなところに惹きつけられたんですか?

「脚本が映像になる」という当たり前のことに触れて衝撃を受けました。僕が書いた通りに役者が動いてくれるというのも、なんだか不思議でした(笑)。だから、映画に限らず、対象はドラマでも何でもよかった。自分の根本にあるのは、「誰かを楽しませるものを作りたい」。そこを突き詰めていくと、脚本からも外れちゃって。CMだろうが、PVだろうが、「映像であればいいや」となったんです。

――前作を発表されたのが2012年。それ以降で映画を撮れるチャンスはなかったんですか?

脚本の仕事は結構やっていて、監督の仕事はいくつかあったんですけど、どれも成立しませんでした。脚本まで書いて、「先方の返事待ち」で……あれ? 何年待ってんだっけ? みたいな(笑)。時間の無駄遣いで終わることが本当に多いんですよ。めっちゃ苦労したのに、ギャラももらえないことも多々あって。

――今回の作品は、かなり前から温めていたんですか?

2012年の「ぴあフィルムフェスティバル」(PFF)に入選したんですが、入選監督を対象に行われるシナリオコンペ「スカラシップ」をどうしても獲りたかった。自分の作品に興味を持ってくれる人が増えるので、「スカラシップ受賞監督」としてデビューしたいという思いがあったんです。でも、『哀愁しんでれら(仮)』は選ばれませんでした。あれから4年。発表の場もなかったんですが、今回のTCPで選んでいただけました。

○「ボツにする」を癖にしたくない

――PFFで落選しても諦めなかったんですね?

やっぱりそれだけの時間と労力がかかってまいすから(笑)。新しいアイデアは、いくらでも出せます。でも、考えたものを、ボツにするというのを癖にしたくないんですよね。ちゃんと形にしたい。自分の考えたものは責任を持って形にする。そこは、本当に大切にしていることです。

――阿部プロデューサーからは結末を変えたほうがいいという意見もありましたね。

どうしましょうかね(笑)。いろいろ検討はしているんですが、一方で、「クライマックスは変えない方が良い」という意見もあって。ラストまでを丁寧に描写を組み立てたり、積み上げ方をもう一度考え直したりした方がいいのかもしれません。

シナリオライター的な意地みたいな話になるんですが、ラストを丸っきり変えてものすごくいい映画になった時に、阿部さんに「ね? 僕の言った通りでしょ?」と言われてしまう(笑)。

そういう意味でも、このラストは変えちゃいけない。変えないで傑作を作ることが使命、そこを乗り越えることが自分に課されていることだと思います。

○"埋もれない方法"の追求

――さきほど、キャスティングへの熱い思いをうかがいました。自分の中でもかなり注目度が高まりました(笑)。

ここはかなり意見を戦わせようと思っています(笑)。正直、物語はいろいろな人たちの意見を聞いてうまくやっていった方がいいと思っているんですよね。でも、キャスティングは違う。こだわっていきたいと思っています。

僕が考えたたくさんの作品の中で「埋もれない方法」。今すでにある方程式で作っていったら、この映画は誰の目にもとまらなくなってしまう。その方程式を外した方が人の興味に引っ掛かると考えています。

『シン・ゴジラ』は想像ができなかった。庵野さんが撮ると聞いて見た、あの予告編。全く内容が分からず。そして、観た人は大絶賛しながら、1回目ではセリフを聞き取れないから、もう一度劇場へと足を運ぶ。そして、2回目でやっと分かるみたいな(笑)。

絶対に埋もれない作品を作ります。

■プロフィール
渡部亮平(わたなべ・りょうへい)
1987年8月10日生まれ。愛媛県出身。2010年の第23回シナリオ作家協会大伴昌司賞で佳作を受賞。同年の毎日放送ドラマ『アザミ嬢のララバイ』の第5話で脚本家としてデビューする。自主制作の映画『かしこい狗は、吠えずに笑う』で監督としてもデビューし、ぴあフィルムフェスティバル「エンタテインメント賞」「映画ファン賞」をはじめ、数々の映画賞を受賞。これまで手掛けた脚本は、ドラマ『セーラーゾンビ』(14年)、『東京センチメンタル』(16年/監督・脚本)、『時をかける少女』(16年)、映画『3月のライオン』(17年)など。
(水崎泰臣)

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